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後編

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それでも、夏が終わって、三年生が引退する日、わたしが花束を渡す相手にその先輩を選んだのは自分の意思でした。いの一番に、その先輩にわたしが花束を渡すんだと立候補していました。

わたしはいま、会社員になって、ようやく先輩の言っていたことが分かるような気がします。わたしが入社した会社は、さほどブラックではありませんが、みんなけっこう残業をしていますし、サービス残業だってちょっとあります。

でも、職場が熱気に溢れているかと言うと、そんなことはありません。
みんな気怠そうに働いて、文句を言いながらも毎日、会社にやって来ています。

かくいうわたしも、そんな社員の一人です。

この会社には、そうやって何十年を過ごす人が、何十人も、何百人もいます。

だからこそ、「こんなの奇跡だよ」と先輩が言っていたのがよく分かります。
いまの職場で、正直、わたしはかなり戦力になっている自覚があります。
言うなれば、わたしはレギュラ―チームにいます。

でも、仕事は手を抜きたいと思ってしまいますし、一生懸命すぎるのも恥ずかしいという空気さえ、職場には漂っています。

先輩はいま、どこで何をしているのでしょうか。

先輩たちが引退したあと、仲間割れを起こして、お互いを憎しみあって、ダンス部を崩壊させたわたしたちのことをどこかで笑っているでしょうか。

それとも、わたしたちにことなんかとっくに忘れて、いまでもどこかで、一生懸命に、前へ前へと進んでいるのでしょうか。先輩たちの世代が史上最強世代と呼ばれていた理由、あんなにも強かった理由、強くなった理由がいまのわたしには分かります。

それは先輩がいたからです。

だって、一番下手な先輩があれだけ頑張っていたら、絶対に腐らずに、いつでも抜いてやると目を光らせていたら、誰だってサボったりはしないものです。先輩が一生懸命な人に囲まれていたのではなく、一生懸命な先輩が一人でみんなを囲っていたのではないでしょうか。

先輩のことを思い出すと、手を抜きたい気持ちが少しだけ引っ込んで、一生懸命が恥ずかしいなんて空気を乗り越えて、そしてちょっとだけ、そんな空気を変えてやろうなんて、そんな気持ちになったりします。

いまでもわたしの心を支えてくれている、そんな先輩との出会いはわたしにとって奇跡です。そして、いつか心の中の先輩を引退させて、わたしがわたしだけで頑張れる人間になりたいと思っています。

ダンス部を壊してしまったわたしと、いつかお別れしたいと思っています。
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