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第一章 富田祐斗
第三話
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次は計画の第二ステップ。友人たちに、アルバイト漬けの生活が始まることを告げなければならない。
実果とは違って、今度は友人が相手だ。だから、関係を断つようなことはできない。
むしろ、「こっちの事情は変わったけど、これからもよろしくな」ということを伝える予定だ。教室で友達がいないと、色んなことが難しくなる。まだ二年生になって一ヶ月と少ししか経っていないし、学年に一クラスしかない特進科はクラス替えを行わずに三年間を過ごす。あと一年半と少し、いまのクラスメイトと一緒に過ごしきるためには必要な行動だ。
「今日の昼、食堂でいい?」
朝の教室で、俺は橋本美晃と田島歩に言った。たいていは教室で一緒に昼食を摂るのだが、誰かが弁当を持ってきていない場合は食堂に行くこともある。
「さすが祐斗。ちょうど俺も今日、弁当ないんだよ。でも、祐斗が言い出すなんて珍しいな」
美晃はうるさくない程度にはきはきとそう答えた。しつこくない程度に整えられた短髪と、あっさりした印象の黒縁眼鏡。ありきたりな制服を規定通り着ているのに、どこか着こなしている感じがする。
「まぁ、うちも色々あるんだよ。歩はどう?」
「あ、いいよ」
いつまでも話し慣れないような様子で歩が答える。この歩はよく分からないやつで、どういう人物かと聞かれるとかなり答えづらい。卓球部ではあるけれども卓球にそれほど熱を入れているようには思えないし、美晃が喋るアニメやゲームの話にも反応できるくらいの知識はあるけれども、美晃ほど薀蓄を貯めたりイベントに行ったりしているわけではないようだった。勉強も真面目に取り組んでいる様子だけれども、特進クラスの中でも成績は中程度だ。
その点、美晃は分かりやすい変わり者である。
女子から見るとどうなのかは分からないが、顔立ちはかなり整っていると思うし、歌唱力をはじめ特技多彩でノリもいい。しかし、重度のオタクでもあり、話題はかなり偏っている。でも、その話がまた面白い。なにせ、自らコスプレしてイベントに行ったりするんだから、面白いに決まっている。
俺自身も、そこまで金をかけはしないけれど、アニメは観るし、漫画も読む。というか、ただ観たり読んだりするだけならほとんどお金がかからないというのがいいところだ。スマートフォンがあれば動画を観られるし、無料で毎日漫画を更新するアプリだってある。古本屋に行けば、漫画もラノベも安く手に入る。どうしても最新のものが欲しい時は美晃に借りられるからかなり安上がりだ。
約一年半のあいだ、この二人とはそれなりの友情を築いてきたつもりだ。付き合いがそれなりに深いと感じているのは、俺の一方的な思い込みではないはず。
だからこそ、美晃と歩には受け入れてもらえるはずだと俺は考えている。バイト漬けになる。バドミントン部は辞める。疲れ切って、いつも通りのノリでいられるわけじゃないかもしれないし、学校も休むかもしれない。金がなくて、いままで以上に、持っていて当たり前のものも揃えられないかもしれない。でも、これまでと同じような距離感でいて欲しい。そこまでは無理でも、教室ではこうやって話をして欲しい。妙な意地を張り続けるよりも、洗いざらい話してしまって、そういう扱いにしてもらった方がこっちも楽だ。
「昨日のアレ、見た?」
俺が頭の中で計画をなぞっていると、美晃がにやにやと笑いながらそう言った。にやにやしているはずなのに、どことなく爽やかさがある。
「見れるわけねぇだろ。昨日じゃなくて今日だし」
俺はそう答える。深夜二十七時に放送しているアニメを生視聴など少し頭がおかしいと思うのだが、美晃は寝不足を感じさせないテンションの高さだ。というか、ろくに睡眠も摂らず深夜のテンションを引きずっているからこんな感じなのかもしれない。
「おれ、見たよ」
「マジか」
歩がおずおずと言ったのに対して、俺は思わずそう反応してしまう。こいつ、そこまでやるキャラだったっけ。
「田島もついにこっちの世界に来てくれたか」
美晃は歩を名字で呼ぶ。
「そっちの世界が何かは分からないけど、でも、いますごく眠い」
「いやいや、眼の覚めるような神展開だっただろ」
美晃は仰々しくそう言ってから、スマートフォンをいじり始めた。どうやら昨日、あるいは今日に放送された動画を探しているようだ。もうネットに上がってるのかよ、と思いながら俺もスマートフォンをポケットから取り出す。こうして朝に会話ができる友人との関係は、教室におけるかけがえのない繋がりだ。
実果とは違って、今度は友人が相手だ。だから、関係を断つようなことはできない。
むしろ、「こっちの事情は変わったけど、これからもよろしくな」ということを伝える予定だ。教室で友達がいないと、色んなことが難しくなる。まだ二年生になって一ヶ月と少ししか経っていないし、学年に一クラスしかない特進科はクラス替えを行わずに三年間を過ごす。あと一年半と少し、いまのクラスメイトと一緒に過ごしきるためには必要な行動だ。
「今日の昼、食堂でいい?」
朝の教室で、俺は橋本美晃と田島歩に言った。たいていは教室で一緒に昼食を摂るのだが、誰かが弁当を持ってきていない場合は食堂に行くこともある。
「さすが祐斗。ちょうど俺も今日、弁当ないんだよ。でも、祐斗が言い出すなんて珍しいな」
美晃はうるさくない程度にはきはきとそう答えた。しつこくない程度に整えられた短髪と、あっさりした印象の黒縁眼鏡。ありきたりな制服を規定通り着ているのに、どこか着こなしている感じがする。
「まぁ、うちも色々あるんだよ。歩はどう?」
「あ、いいよ」
いつまでも話し慣れないような様子で歩が答える。この歩はよく分からないやつで、どういう人物かと聞かれるとかなり答えづらい。卓球部ではあるけれども卓球にそれほど熱を入れているようには思えないし、美晃が喋るアニメやゲームの話にも反応できるくらいの知識はあるけれども、美晃ほど薀蓄を貯めたりイベントに行ったりしているわけではないようだった。勉強も真面目に取り組んでいる様子だけれども、特進クラスの中でも成績は中程度だ。
その点、美晃は分かりやすい変わり者である。
女子から見るとどうなのかは分からないが、顔立ちはかなり整っていると思うし、歌唱力をはじめ特技多彩でノリもいい。しかし、重度のオタクでもあり、話題はかなり偏っている。でも、その話がまた面白い。なにせ、自らコスプレしてイベントに行ったりするんだから、面白いに決まっている。
俺自身も、そこまで金をかけはしないけれど、アニメは観るし、漫画も読む。というか、ただ観たり読んだりするだけならほとんどお金がかからないというのがいいところだ。スマートフォンがあれば動画を観られるし、無料で毎日漫画を更新するアプリだってある。古本屋に行けば、漫画もラノベも安く手に入る。どうしても最新のものが欲しい時は美晃に借りられるからかなり安上がりだ。
約一年半のあいだ、この二人とはそれなりの友情を築いてきたつもりだ。付き合いがそれなりに深いと感じているのは、俺の一方的な思い込みではないはず。
だからこそ、美晃と歩には受け入れてもらえるはずだと俺は考えている。バイト漬けになる。バドミントン部は辞める。疲れ切って、いつも通りのノリでいられるわけじゃないかもしれないし、学校も休むかもしれない。金がなくて、いままで以上に、持っていて当たり前のものも揃えられないかもしれない。でも、これまでと同じような距離感でいて欲しい。そこまでは無理でも、教室ではこうやって話をして欲しい。妙な意地を張り続けるよりも、洗いざらい話してしまって、そういう扱いにしてもらった方がこっちも楽だ。
「昨日のアレ、見た?」
俺が頭の中で計画をなぞっていると、美晃がにやにやと笑いながらそう言った。にやにやしているはずなのに、どことなく爽やかさがある。
「見れるわけねぇだろ。昨日じゃなくて今日だし」
俺はそう答える。深夜二十七時に放送しているアニメを生視聴など少し頭がおかしいと思うのだが、美晃は寝不足を感じさせないテンションの高さだ。というか、ろくに睡眠も摂らず深夜のテンションを引きずっているからこんな感じなのかもしれない。
「おれ、見たよ」
「マジか」
歩がおずおずと言ったのに対して、俺は思わずそう反応してしまう。こいつ、そこまでやるキャラだったっけ。
「田島もついにこっちの世界に来てくれたか」
美晃は歩を名字で呼ぶ。
「そっちの世界が何かは分からないけど、でも、いますごく眠い」
「いやいや、眼の覚めるような神展開だっただろ」
美晃は仰々しくそう言ってから、スマートフォンをいじり始めた。どうやら昨日、あるいは今日に放送された動画を探しているようだ。もうネットに上がってるのかよ、と思いながら俺もスマートフォンをポケットから取り出す。こうして朝に会話ができる友人との関係は、教室におけるかけがえのない繋がりだ。
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