悪役令嬢は嫌がらせができない ～悪役令嬢がうるさいのだが～

その三

「虐め方……ね。まずは靴に尖った物を入れるとか？」

漫画では画鋲のような物を靴に入れてヒロインをケガさせる、というシーンがあった。

これが一番始めの嫌がらせだ。

「尖った物？」

「そう、こんな感じの」

わたしは貼っているポスターの画鋲を一つ取り、見せる。

フェリエスはじろじろとそれを見た後、自分の指にぷすりと……さした。

「……これ、痛いわ」

「そりゃあそうだよ！？」

「血が出るわ」

「もうちょい取り乱してくれると反応もできるんだけどね」

「痛いですわー。助けて頂戴」

棒読みにもほどがある、がそもそも演技が苦手なのかもしれない。それならば悪役令嬢失格だろうが……

「えいっ」

ズボッと画鋲を抜けば、

「っ……」

とフェリエスが声にならぬ悲鳴。

さすがにかわいそうだったかな、と反省する。

「これをヒロインの靴に入れるんですの？」

それは非人道的じゃないかしら？　などと躊躇っているフェリエス。

……うん、あなた悪役令嬢だよね？　非人道的なことをするのが役目だよね？

気になることはあるが、この人に言っても無意味……かと思われる。

「別にこれじゃなくてもいいんじゃない？　尖ってれば」

「そうですわよね。では私、尖ったモノを入れて参りますわ。
その本を見つめてお待ちなさい。私が華麗に嫌がらせをしてみせますの！」

そう言うと忽然と消えてしまう。

急いで漫画を開けば、そこには確かにフェリエスの姿が。

わたしはそのまま漫画を読み進めていった。