天上院時久の推理~役者は舞台で踊れるか~

巴雪夜

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四.役者は舞台で踊れない

28.愛しき人へ別れを告げて、エピローグは終わる

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 わたしがやってしまったことに後悔も反省もない。だって、殺したいほど憎かったのだから。今更、後悔と反省をしたところで誰にも許してもらえない。許してほしいとも思わないのだけれど。

 白鳥葵と半沢美波が死んで清々した気持ちを抱いたのは本当だ。殺すことになんら躊躇いなどなかった。怖くもなかったし、死んだ瞬間のことなんてあまり覚えていない。

 二人を殺して、平原裕二に罪を着せて、成し遂げたという喜びが胸に広がっていた。きっと、わたしは未来が死んでから壊れていたのだ。だって、そうでしょう。人を二人も殺したというのに喜びを感じたのだから。

 これを壊れていないと言えるだろうか?
 これが正常だと誰も認めないでしょう?
 わたしだってそう思うのだから、世間はそうでしょう。

 あぁ、きっとあることないことニュースで言われているのだろうな。二人の遺族はきっとわたしに呪詛を吐いている頃だろう。べつに何を言われようとも、恨まれようともどうでもいい。

 恨まれる覚悟の上でわたしは二人を殺したのだ。好き勝手に言えばいい、ご自由にどうぞ。でも、未来は何も悪くない。彼女に矛先がいかないか、それだけが不安だった。

 どうして気づかなかったのだろう。あの子の言う通りだ、未来はわたしに復讐の代行なんて望んではいない。

 わたしが人を殺すことを嬉しく思うような子ではない。わたしが死ぬことを許してはくれないはずだ。もっと、もっと早く気づきたかった。天国で未来が見守ってくれているならば、きっとあの子は泣いている。

 泣かせたくなかった、悲しい思いをさせたくはなかった。わたしは狭い檻の中で生きるしかない、死ねばきっと悲しむから。

 生きて、罪を償っていくしかない。償える気などしないけれど、それでも。

「未来」

 届かない彼女へと手を伸ばす、空を掴む手を握り締めて瞼を閉じる。思い浮かぶのは未来の明るく元気な笑顔。可愛くて、優しい優しい表情はもう思い出のなかにしかない。

 未来の死を受け入れよう、彼女がいない現実を受け止めよう。

「ごめんね、未来」

 彼女への謝罪を口にする。許してくれるとは思っていないけれど、それでも謝らずにはいられなかった。

「あなたの親友でいられてよかった」

 愛しい人へと別れを告げるように陽菜乃は囁いた。



 END
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