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四.役者は舞台で踊れない

21.役者にも道化にもなれなかった者の最後の想い

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 これで何もかも終わってしまった。そう何もかも、終わりを告げたのだ。

 憎い憎い人間はこの世から消え去った。この手で殺したのだ、殺した。もう二度と会うこともない、目の前から消えてくれたのだ。

 あぁ、でも地獄で会うかもしれない。殺人を犯した人間が天国になど行くことはできないだろう。

 そんなことなど知っている。死してなお、愛しい彼女に会えない。それを覚悟で二人を殺したのだ。

 復讐だ、これは。

 許されようだなんて思わない、許してはくれないと知っている。そもそも、許してくれなどと乞うことはしない。そんなことをするぐらいなら、人など殺さない。

 死んだ彼女たちの遺族はきっと恨み、悲しみ、怒り、その全てをぶつけてくる。それでもいい、それでも。

 恨みも憎しみも覚悟の上だ、そんなものを恐れては復讐などできない。怖くなんてないさ、そんなもの。未来が受けた苦しみに比べれば、そんなもの。大したことではない、小さなことさ。

 でも、あぁ、でもやっぱり上手く演技はできなかった。未来のような完璧な演技は無理だった。

 素人に脚本を書くなんていうのは無理な話だった。穴だらけで何のトリックもない、つまらないものしか出来上がらなかった。

 ミステリー小説のような綺麗なトリックを思いつきたいものだった。才能というのがないのだと実感したよ。

「やっぱり、素人には駄目だった」

 溜息を吐かずにはいられない、素人には舞台で踊る資格などないのだ。道化にすらなれなくて、なんて理不尽なのだろう。もっと、もっと才能があればきっと踊れたというのに。

 何がいけなかったのか、それは全てなのだろう。こうやって嘆くことも、殺人を犯したことも、何もかも。

 いや、違う。もともと捕まるつもりだったのだ、自分は。逃げる気なんてなかった、見つけてほしかった。楽になりたかったからじゃない。演劇はちゃんと幕を下ろさなければならないから。

 これでやっと幕が下ろせる。自分自身で台無しにして、それでも未来みくのためにできるかぎるの演技を披露したつもりだ。

 これでいい、これで。 演じ切った、全てを成し遂げた。だから、もういいのだ。

 後悔も反省もない。恨まれようと、蔑まれようとも、軽蔑されようとも受け入れよう。

 殺人犯だと勝手に罵ればいい、お前たちには何も分からないのだから。分かってもらおうとも思わない。 好きなように言えばいい。けれど、彼女を未来を悪く言うやつは許さない。彼女は何も悪くない。悪いのはあいつらだ、あいつらなのだ。

 幕を上げたのは自分だ、ならば下ろすのも自分。後始末ぐらいするさ。

「幕を下ろそう、終わらせよう」

 笑う、嗤う。笑顔が零れる。心は晴れやかで、すっきりとしていた。復讐をやり遂げたからかもしれない、もうどうでもいい。

 これから幕を下ろしに行くのだから。


 正門を抜けてゆっくりとした足取りで昇降口へと向かう。靴を履き替えて講堂へと繋がる外廊下へと歩く。

 足取りは軽い。迷うことも、逃げることもない清々しいほどに気分が良かった。これほどまでに良い日など生まれてからなかったかもしれない。それほどまでに心は落ち着いていた。

 零れそうになる笑みを堪えながら、一歩一歩、講堂へと歩みを進める。

「未来、最後までやるから」

 誰に聞こえるでもなく、呟かれた言葉を胸に講堂の中へと入っていった。
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