天上院時久の推理~役者は舞台で踊れるか~

巴雪夜

文字の大きさ
上 下
21 / 29
三.演劇は終わりを告げる

20.犯人は捕捉される

しおりを挟む
 時久は東郷に電話をすると、数コールで出た彼に「講堂に入る許可をください」と開口一番に告げる。その勢いに東郷は少し驚いた様子だったが、何か分かったのを察したように許可をとってくれた。

 講堂前に立っていた警察官に声をかけながら中に駆け込み、真っ直ぐに小道具置き場となっている倉庫へと向かうと前島が鍵を開けた。相変わらず雑多に置かれた物たちをかき分けながら時久は探す。

「何を探しているの?」
「鍵の入った箱です。何処にありますか?」
「えっと、あれだよね。小道具に使うっていってたやつ」

 時久に言われて飛鷹も探す。前島はいつも置かれているテーブルの上にあるのではと見遣るもなく、首を傾げていた。

 小物や小道具を漁っていると、飛鷹が「あったよ!」と声を上げる。彼女が持っている箱は間違いなく、葵から見せてもらったものだ。箱は張りぼてが置かれていた隅にまるで隠されているかのように置かれていた。

 時久は飛鷹から箱を受け取って中を開く。沢山の鍵がじゃらじゃらと入ってるのを見ると、時久は一つ一つ確認していく。

「先生、小ホールの鍵を見せてください」
「えっと、これだよ」

 前島に渡された鍵を見比べて、何本か見てからあっと飛鷹が声を上げた。

「え、これ……」

 一本の鍵に皆が注視した――それは小ホールの鍵と同じものだったから。

「前島先生、いくつか聞きたいのですが」
「なんだろうか? わたしに答えられることなら答えるよ」
「この鍵たちを使う演劇はみんなでアイデアを出し合って決めたと聞いたのですが?」
「そうだね。会議を開くんだが、その時にアイデアを出し合って決めたよ。わたしもいたから間違いない」

 正式に決まったのは新学期が始まってからだったが、春休み前から部員たちと話し合っていたものだと前島は答える。みんなでアイデアを出し合って決めたのは間違いないと。

「では、最初にミステリーを提案したのは誰でしょうか?」
「提案した人?」

 鍵を巡る密室殺人事件を最初に言い出したのは誰だ、その問いに前島は確かと言いかけて黙る。気づいたのか目を開いて固まっていた、そんなはずではないと言いたげに。

「他に誰がいるのでしょうか?」
「いや、しかし……」
「これらを準備した人も同じでしょう?」

 これができる存在、そんな人物などもう残されてはいないと時久は断言する。それを否定できるような意見を誰も持ってはいない。

「犯人を捉えました」

 静まる室内に響くその声は終わりを告げるようだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

シャーロック・モリアーティ

名久井悟朗
ミステリー
大正時代日本によく似た世界。  西岩森也(にしいわ しんや)という、放蕩が過ぎ家を追い出された少年がいた。  少年は何の因果か、誰の仕業か、他自共に認める名探偵にして最悪の性格破綻者寺、城冬華(てらしろ とうか)の下で働く事となり、怪事件の渦中へと足を踏み入れいていく。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

魔法使いが死んだ夜

ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。  そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。  晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。  死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。  この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。

涼しさを求めて

さすらう
ミステリー
 ある夏の思い出。  ちょっと変わった人たちのお話。  青春?友情?なんとも言えないお話。

処理中です...