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三.演劇は終わりを告げる
17.演劇部に対する想い
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廊下の角を曲がって時久は廊下の先に居た人物に目を留める。そこには陽菜乃と斗真が何やら話をしていたのだ。陽菜乃の表情は何処か悲しげで、斗真は落ち着いたふうに会話をしている。
「中部さん」
「あ、えっと……天上院くん? だっけ」
声をかけられて二人は時久へと目を向けた。時久が「何か話していたのですか」と聞けば、陽菜乃が「演劇部のことで」と答えてくれた。
演劇部の存続について職員会議に掛けられているらしく、もしかしたら廃部になってしまうかもしれないのだという。事件があったとはいえ、演劇部を廃部にすることはないのではないかと斗真と二人で話していたようだ。
「演劇部に入部している子で退部したいって子が何人か出て……」
「やはり不安になりますか」
この部活は本当に大丈夫だろうかという不安が他の部員たちに広まってるようだ。彼らがそういった感情を抱くのも無理はないので、責めることはできない。それは二人も分かっているようではあるが、廃部にすることはないのではないかと言いたげだった。
「二人は演劇が好きなんですね」
「まぁ……」
「父が裏方やってるし、そういったのに憧れがある」
父の仕事には興味があったから、それが体験できる演劇部は貴重だと斗真は話す。役者をやる気はないけれどと言っているあたり、裏方にしか興味はないように見えた。
陽菜乃は「観るの好きだし」と演劇が好きなようだ。何人か辞めてしまったけれど、残ってまだ演劇部を続けたいと言ってくれている部員もいるらしい。だから、どうにか活動できないかと相談していたのだという。
「職員会議にかけられてしまうとなると難しいですね」
「先生に言っても駄目か」
「どうでしょう。続けたいと言っている生徒たちの声というのは考慮するかもですね」
続けたいと言っている部員が多いならば考え直してくれるかもしれないという時久の意見に、二人はなるほどと他の部員にも声をかけてみようと提案していた。
「次の演目はできそうない感じなの、やっぱり?」
「ミステリーもののやつだろ。あれは無理じゃないか?」
今回の事件が事件だしと斗真が答えれば、それはそうだよねと飛鷹は納得したように頷く。殺人事件が起こった後なのだから、ミステリーものというのは印象も良くはないだろう。事件のことを思い出してしまうという生徒も中にはいるかもしれない。
脚本を頑張ってくれていた皇先輩には悪いけどと斗真は一から考え直すしかないと話す。ミステリーものが好きだった由香奈には残念なことかもしれないが、事件を思い起こさせないようにするには暫くは避けた方がいいと時久も言葉を返した。
「でも、結構さぁ。凝ってたよねぇ。ほら、鍵が沢山入っていた箱とか」
「あぁ、あれね。鍵自体はすぐに集まったんだよ」
「そうなの?」
「わたしの祖父が鍵屋なんですよ」
箱の中に入っていた鍵は鍵の見本で古くなって使わなくなったものを、「どうせ使えないものだから」と小道具として譲ってくれたのだと陽菜乃は教えてくれた。
「鍵屋だからドアノブの取り換えとかもやってるの。ドアノブの見本に鍵も一緒についてて」
「あ、こんなタイプの鍵ですよって見せてくれるんだ」
「そうそう。で、古くなって取り扱わなくなった見本の鍵だけを譲ってもらったの」
使える鍵じゃないから悪用もできないだろうってと陽菜乃は話した。確かに見本なのだから実際に使えるわけでもないので、演劇部の小道具にはぴったりな代物だと言える。
話を聞いていた飛鷹は「でも、せっかく準備したのにできないんだもんなぁ」と暫くできないだろう演目のことを残念がった。自分が役者として演技するかもしれなかったからなのか、ただ純粋に演劇を楽しみにしていたのか、彼女は「観てみたかったけどねぇ」と眉を下げる。
「暫くなんてもんじゃないよ、先輩。演劇部が廃部になったら二度と陽の目は見ないんだ」
「そうだった……。廃部は避けたいよね」
「せっかく裏方の仕事を体験できるんだ。避けられるなら避けたいけど……」
「でも、いっそ演劇部は廃部になったほうがいいのかも」
ぽつりと陽菜乃は呟いた。それに斗真は何故と言いたげに見つめ、飛鷹は首を傾げる。「だって、人が三人もしんでいるのだもの」と彼女は口を開く。。
「未来は自殺して、白鳥先輩と美波さんは殺された。三人も死んでいるのだから演劇部があるだけでそのことを思い出しちゃうもの……」
未来の死からそれほど経ってもいないというのに二人も死んでしまった。そんな縁起でもない部活にこれから入ってくれる生徒はいるのだろうか、陽菜乃は「入りたいと思う?」と問いかける。
死因はどうあれ、三人も死んでいる部活というのはやはり印象が悪い。不気味に感じる人というのは多いだろうし、恐怖を覚えてしまうのも無理はない。残っていてもいずれ人数不足で廃部になるのは目に見えている。
「けれど、廃部にしたくないという部員がいる以上は検討するべきではないでしょうか?」
時久は陽菜乃の言い分を理解した上でそう答えた。事件が起こってもなお、部員として残っている生徒の声を無視するのは違うと。
「生徒の声? ……誰も、故人のことを考えていないのよね、きっと」
「そうは言っていませんが……」
「未来が自殺した時も、白鳥先輩や美波さんが殺されても、自分の事しか考えていないじゃない」
部活動を続けたいから廃部にしないでほしい、それは故人のことを考えた行為なのだろうかと。自分たちのことしか考えていないという解釈ができなくはないと時久は思った。けれど、それが悪いことだとは言い切れない。演劇部を廃部にすることはないだろうという考えも理解できるからだ。
部員が相次いで亡くなってしまっているというのは悲しいことだ。部活があれば事件の事を思い出してしまうという気持ちもわかるけれど、部活動を純粋に楽しんでいた部員たちもいる。彼等の思い出の一つでもあるのだから、廃部にしてほしくないと願ってしまうのは当然のことなのではないだろうかと時久が言えば、陽菜乃は眉を寄せた。
「白鳥先輩たちは殺人だけど、滝川っていう先輩は自殺で原因が分かっていないんだから演劇部と関連付けるのはどうな……」
「未来に何か原因があったっていうの!」
大声。怒鳴りに近い声音に斗真は出かけた言葉を飲み込む。飛鷹も時久も驚いたように陽菜乃を見れば、彼女は睨むように眼を鋭くさせていた。
「中部さん?」
「……ごめんなさい。わたし、もっと未来に何かできたんじゃないかってずっと思ってたから……」
友達だった彼女が自殺した。傍にいたというのに彼女の気持ちを理解できていなかったとずっと後悔していた。もっと何かできたのではないか、支えになれたのではないかと。友達の事をそういったふうに言われて腹が立ってしまったのだと言われて、斗真は「すみません」と謝る。
「皇さんも言ってましたね。自分にもっと何かできたのではないかって」
「……そうなんですね。わたしもそう思うの、もっと何かできたって」
「中部さん……」
「あぁ、ごめんなさい。気にしないで。そういえば、二人は帰らないの?」
帰る途中だったのではと陽菜乃に問われて、時久は当初の目的を思い出す。そうだ、前島教諭に話を聞き肉のだったと。
「前島先生に話を聞きに行くところでした」
「そうだったんだ。話に付き合わせちゃってごめんなさい」
「いえ、話かけたのは私ですから。そうだ、お二人とも一つ聞いてもいいでしょうか?」
時久に問われて二人は顔を見合わせながら「何?」と首を傾げる。斗真は不思議そうに、陽菜乃は少しばかり不安げに。対照的な反応を時久は確認してから質問をした。
「部活動で何か変わったことなどはなかったのでしょうか。例えば白鳥先輩たちに何かあったなど」
「先輩たちは仲悪かった印象しかないよ。二人に関わるとろくなことならないから避けてたし、詳しくは知らないかな」
「わたしも……特に。二人は仲が悪いなって、その、自分からは話しかけたくないから……」
「そうですか。ありがとうございます」
二人の返答を聞いてその場を後にする時久を飛鷹は慌てて追いかけていった。
「中部さん」
「あ、えっと……天上院くん? だっけ」
声をかけられて二人は時久へと目を向けた。時久が「何か話していたのですか」と聞けば、陽菜乃が「演劇部のことで」と答えてくれた。
演劇部の存続について職員会議に掛けられているらしく、もしかしたら廃部になってしまうかもしれないのだという。事件があったとはいえ、演劇部を廃部にすることはないのではないかと斗真と二人で話していたようだ。
「演劇部に入部している子で退部したいって子が何人か出て……」
「やはり不安になりますか」
この部活は本当に大丈夫だろうかという不安が他の部員たちに広まってるようだ。彼らがそういった感情を抱くのも無理はないので、責めることはできない。それは二人も分かっているようではあるが、廃部にすることはないのではないかと言いたげだった。
「二人は演劇が好きなんですね」
「まぁ……」
「父が裏方やってるし、そういったのに憧れがある」
父の仕事には興味があったから、それが体験できる演劇部は貴重だと斗真は話す。役者をやる気はないけれどと言っているあたり、裏方にしか興味はないように見えた。
陽菜乃は「観るの好きだし」と演劇が好きなようだ。何人か辞めてしまったけれど、残ってまだ演劇部を続けたいと言ってくれている部員もいるらしい。だから、どうにか活動できないかと相談していたのだという。
「職員会議にかけられてしまうとなると難しいですね」
「先生に言っても駄目か」
「どうでしょう。続けたいと言っている生徒たちの声というのは考慮するかもですね」
続けたいと言っている部員が多いならば考え直してくれるかもしれないという時久の意見に、二人はなるほどと他の部員にも声をかけてみようと提案していた。
「次の演目はできそうない感じなの、やっぱり?」
「ミステリーもののやつだろ。あれは無理じゃないか?」
今回の事件が事件だしと斗真が答えれば、それはそうだよねと飛鷹は納得したように頷く。殺人事件が起こった後なのだから、ミステリーものというのは印象も良くはないだろう。事件のことを思い出してしまうという生徒も中にはいるかもしれない。
脚本を頑張ってくれていた皇先輩には悪いけどと斗真は一から考え直すしかないと話す。ミステリーものが好きだった由香奈には残念なことかもしれないが、事件を思い起こさせないようにするには暫くは避けた方がいいと時久も言葉を返した。
「でも、結構さぁ。凝ってたよねぇ。ほら、鍵が沢山入っていた箱とか」
「あぁ、あれね。鍵自体はすぐに集まったんだよ」
「そうなの?」
「わたしの祖父が鍵屋なんですよ」
箱の中に入っていた鍵は鍵の見本で古くなって使わなくなったものを、「どうせ使えないものだから」と小道具として譲ってくれたのだと陽菜乃は教えてくれた。
「鍵屋だからドアノブの取り換えとかもやってるの。ドアノブの見本に鍵も一緒についてて」
「あ、こんなタイプの鍵ですよって見せてくれるんだ」
「そうそう。で、古くなって取り扱わなくなった見本の鍵だけを譲ってもらったの」
使える鍵じゃないから悪用もできないだろうってと陽菜乃は話した。確かに見本なのだから実際に使えるわけでもないので、演劇部の小道具にはぴったりな代物だと言える。
話を聞いていた飛鷹は「でも、せっかく準備したのにできないんだもんなぁ」と暫くできないだろう演目のことを残念がった。自分が役者として演技するかもしれなかったからなのか、ただ純粋に演劇を楽しみにしていたのか、彼女は「観てみたかったけどねぇ」と眉を下げる。
「暫くなんてもんじゃないよ、先輩。演劇部が廃部になったら二度と陽の目は見ないんだ」
「そうだった……。廃部は避けたいよね」
「せっかく裏方の仕事を体験できるんだ。避けられるなら避けたいけど……」
「でも、いっそ演劇部は廃部になったほうがいいのかも」
ぽつりと陽菜乃は呟いた。それに斗真は何故と言いたげに見つめ、飛鷹は首を傾げる。「だって、人が三人もしんでいるのだもの」と彼女は口を開く。。
「未来は自殺して、白鳥先輩と美波さんは殺された。三人も死んでいるのだから演劇部があるだけでそのことを思い出しちゃうもの……」
未来の死からそれほど経ってもいないというのに二人も死んでしまった。そんな縁起でもない部活にこれから入ってくれる生徒はいるのだろうか、陽菜乃は「入りたいと思う?」と問いかける。
死因はどうあれ、三人も死んでいる部活というのはやはり印象が悪い。不気味に感じる人というのは多いだろうし、恐怖を覚えてしまうのも無理はない。残っていてもいずれ人数不足で廃部になるのは目に見えている。
「けれど、廃部にしたくないという部員がいる以上は検討するべきではないでしょうか?」
時久は陽菜乃の言い分を理解した上でそう答えた。事件が起こってもなお、部員として残っている生徒の声を無視するのは違うと。
「生徒の声? ……誰も、故人のことを考えていないのよね、きっと」
「そうは言っていませんが……」
「未来が自殺した時も、白鳥先輩や美波さんが殺されても、自分の事しか考えていないじゃない」
部活動を続けたいから廃部にしないでほしい、それは故人のことを考えた行為なのだろうかと。自分たちのことしか考えていないという解釈ができなくはないと時久は思った。けれど、それが悪いことだとは言い切れない。演劇部を廃部にすることはないだろうという考えも理解できるからだ。
部員が相次いで亡くなってしまっているというのは悲しいことだ。部活があれば事件の事を思い出してしまうという気持ちもわかるけれど、部活動を純粋に楽しんでいた部員たちもいる。彼等の思い出の一つでもあるのだから、廃部にしてほしくないと願ってしまうのは当然のことなのではないだろうかと時久が言えば、陽菜乃は眉を寄せた。
「白鳥先輩たちは殺人だけど、滝川っていう先輩は自殺で原因が分かっていないんだから演劇部と関連付けるのはどうな……」
「未来に何か原因があったっていうの!」
大声。怒鳴りに近い声音に斗真は出かけた言葉を飲み込む。飛鷹も時久も驚いたように陽菜乃を見れば、彼女は睨むように眼を鋭くさせていた。
「中部さん?」
「……ごめんなさい。わたし、もっと未来に何かできたんじゃないかってずっと思ってたから……」
友達だった彼女が自殺した。傍にいたというのに彼女の気持ちを理解できていなかったとずっと後悔していた。もっと何かできたのではないか、支えになれたのではないかと。友達の事をそういったふうに言われて腹が立ってしまったのだと言われて、斗真は「すみません」と謝る。
「皇さんも言ってましたね。自分にもっと何かできたのではないかって」
「……そうなんですね。わたしもそう思うの、もっと何かできたって」
「中部さん……」
「あぁ、ごめんなさい。気にしないで。そういえば、二人は帰らないの?」
帰る途中だったのではと陽菜乃に問われて、時久は当初の目的を思い出す。そうだ、前島教諭に話を聞き肉のだったと。
「前島先生に話を聞きに行くところでした」
「そうだったんだ。話に付き合わせちゃってごめんなさい」
「いえ、話かけたのは私ですから。そうだ、お二人とも一つ聞いてもいいでしょうか?」
時久に問われて二人は顔を見合わせながら「何?」と首を傾げる。斗真は不思議そうに、陽菜乃は少しばかり不安げに。対照的な反応を時久は確認してから質問をした。
「部活動で何か変わったことなどはなかったのでしょうか。例えば白鳥先輩たちに何かあったなど」
「先輩たちは仲悪かった印象しかないよ。二人に関わるとろくなことならないから避けてたし、詳しくは知らないかな」
「わたしも……特に。二人は仲が悪いなって、その、自分からは話しかけたくないから……」
「そうですか。ありがとうございます」
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