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九章……仲間ならば最後まで守り抜け
第49話:リーダーを悪く言われていい気がするわけがない
しおりを挟む森を抜けた平地でクラウスはどうしたものかと考えていた。オーガ討伐を任されていたラプスの冒険者がリングレットたちだったこともあるが、一番に困っていたのは彼らの態度だった。
クラウスは信用されていないのをもともと分かっていたので、そんな態度をとられても気にはしないのだが、アロイたちがそうではなかった。彼らはリングレットの「クラウスが役に立つはずがない」という発言に反発している。
アロイは苛立っているし、フィリベルトも少しばかり怒っているようだった。シグルドも不機嫌そうにして、ブリュンヒルトも不満げだ。ルールエも何か言いたげにしてはいるけれど、皆の雰囲気に困惑している。
「俺はこいつらの指示には従わねえぞ!」
「そんなこと言ってる場合か、リングレット」
リングレットはクラウスを指さしながら「こいつが役に立つはずないだろ」と言う。それにシュンシュが「お前、馬鹿なの?」と呆れたように返している。ランにいたっては呆れて何も言えないといったふうだ。
「お前、偉そうに言える立場じゃないからね? ギルドからの信用もあるんだから、これ以上迷惑をかけるのやめてくれ」
「俺たちは迷惑なんてかけてねぇだろ!」
「かけてるだろうが! おれ、かなり迷惑だと今、思ってるからな!」
ぐだぐだ文句を言うだけでなく、勝手な行動をして、パーティメンバーを危険に晒して、これのどこが迷惑をかけてないと言えるだろうか。シュンシュの指摘にリングレットはうっと黙る。
「言っとくけど、おれらはお前よりもクラウスたちのほうを信用しているからな」
あの森での短い間だったとはいえ、彼らのパーティとしての動きをグリフォンの戦いで見てきたシュンシュはリングレットよりも信頼できると判断した。それはランも同じで「兄と同じく」と頷いている。
「貴方たちは自分勝手すぎます。夜の森を舐める行動をするなど、危険を晒す行為をしたパーティなど信頼できません」
「ランの言う通りだ。おれらはクラウスたちにつく」
ランにきっぱりと言われてしまい、リングレットは小さく舌打ちをつく。シュンシュは「すまない」とクラウスたちに謝罪した。彼らが謝ることではないので、クラウスは「気にすることはない」と返す。
「嫌かもしれないけど、協力してくれ。これ以上はオーガを放置できないんだ」
森の出口付近まで下りてきているオーガがいつ、近くの村や集落を襲わないとも限らない。それにはクラウスも分かっているので協力はすると言った。
「オーガの数は確認できたのか?」
「こっちで確認したのは五体だ。一体、倒したからあと四体のはず。でも、まだ潜伏してるかもしれない」
「わかった。フィリベルト、どうする」
シュンシュから話を聞いてクラウスがフィリベルトに相談する。彼は「四体ならばやれなくもない」と答えた。
「この人数ならば、四体はやれるだろう。オーガは力はあるが大柄ゆえに動きは遅い。油断せずに一体、一体を確実に倒していけばやれる」
「前衛と後衛をしっかりわけるべきか」
「そうなる。後衛組は前には出るな。オーガの動きが遅いとはいえ、避けられるとも限らない」
前衛と後衛を分けて連携する必要があるという言葉にシュンシュは「おれたちは前衛だな」と言う。シュンシュもランも近接武器を使うので前衛に回るのは確定だ。
「アロイとルールエ、ヒルデは後衛。私とシグルドが前衛になる。クラウスは前衛に立ちつつ奇襲役を……」
「クラウスがそんな立ち回りできるかよ」
ぼそりと呟かれた言葉にフィリベルトは眉を寄せながら見遣った。リングレットが不機嫌そうに腕を組んでいる。
「お前、ふざけてんの? こっちが我慢してやってるって気づいてねぇの?」
「アロイ、落ち着け」
「クラウスの兄さんね、あんたが気にしなくてもこっちは気になるんだわ」
クラウスに止められてアロイは言う、あんたはオレらのパーティリーダーだと。自分たちのリーダーを侮辱されていい気はしないのだと言われて、クラウスは彼の苛立ちを理解する。自分も仲間を悪く言われるのは嫌だと思ったのだ。
「その目で見てから物を言え。お前たちの中で後衛は誰だ」
フィリベルトの低い声にリングレットはびくりと肩を跳ねさせる、威圧感が凄まじかった。黙る彼の代わりにアンジェが「わたしとミラです」と答える。
「……なら、二人は後衛で下がりつつ、支援を。そこのお前は前衛なのだろう、前に立て」
「なんで、おっさんに命令されなきゃ……」
「リングレット!」
反発しようとするリングレットにシュンシュが「いい加減にしろ」と怒鳴る。これ以上はギルド側でも待つことはできないのだと。
「お前は冒険者の資格をはく奪されたいのか?」
「……くそっ」
シュンシュにそう言われてはリングレットは何も言い返せない。その反応に一応は納得したのだろうとフィリベルトは判断してから話を再開した。
「オーガだからと甘く見るな。彼らは人間をも喰らう魔物だ、容赦なく攻撃をしかけてくる。動きが遅いのを生かし、こちらは素早い動きで対応する。協力する以上は勝手な行動はしないでくれ」
フィリベルトの言葉にシュンシュが頷くが、リングレットは不満げだ。そんな彼をアンジェが宥めているけれど、機嫌は直りそうにない。クラウスはこれで大丈夫だろうかと多少の不安を抱いたけれど今はやるしかなかった。
「ルールエ、君はドールマスターだ。ぬいぐるみでオーガをおびき寄せてくれ」
「わかった!」
フィリベルトの指示に「まっかせて!」と胸を張るとリュックからぬいぐるみを出す。魔物の毛皮でできたぬいぐるみたちは準備万全のようだ。
「ルールエ、チャーチグリムは出せるか?」
「出せるよ、クラウスお兄ちゃん」
ルールエはそう言って「グリム」と呼ぶと、彼女の影からチャーチグリムがぬっと現れた。主であるルールエの足元で尻尾を振っている。
「チャーチグリムでオーガを追えるだろうか?」
「多分、いけると思う」
「なら、チャーチグリムで追いこみながらおびき寄せよう」
チャーチグリムでオーガを追えるのであれば、追い込みながらおびき寄せることができる。嗅覚や聴覚ならばスノーウェル族のシグルドでもいけるが、彼は前衛としてなるべく負担をかけたくはなかった。
分散できる役割は分散するほうが個々の負担が少なくすむのでいいはずだ。クラウスの提案にフィリベルトも「そうしよう」と賛成する。
「もう夜が明ける、やるなら今だ」
「じゃあ、今からグリムを離して探した方がいいかな?」
「頼む」
クラウスの指示にルールエが「グリム、探してきて」と命令すると、チャーチグリムは森へと駆けていった。
チャーチグリムがオーガを見つけて追い込んできたところを狙うには少しばかり森に入るべきだろう。見晴らしの良い平地では隠れる場所というのは少ないので、後衛のことを考えれば遮蔽物があったほうがいい。
「ヒルデ、防御魔法と支援魔法の両立は難しいか?」
「どっちかしか無理ですね……」
「なら、状況を見ながら対応してくれ。ヒルデの支援魔法も必要になると俺は思う」
「わかりました」
ヒルデの月女神の加護を受けた光の魔法というのは支援に向いている。相手の目を眩ませることも、一時的ではあるけれど動きを封じることもできるので、上手く対応してくれれば戦況を有利に運ぶことができるはずだ。
「時間がない。今からオーガ討伐をする」
「了解」
「シグルド、索敵を頼む。チャーチグリムが追い込んできたオーガを知らせてくれ」
「了解した、リーダー」
シグルドは鞭のような剣を構えて皆の先頭に立つと犬耳をぴくりと動かした。音を聞き分けるように動くとシグルドは「あっちだ」と言って歩き出したので、クラウスたちは彼の背を追いかけた。
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