上 下
21 / 42
第三章 商店街始動と幻の料理人

第二十一話

しおりを挟む
「くそっ! どこだ?! 今日はどこに来る!」
「俺の計算だと意表を突いてケーキ屋だな。取り敢えず、他の連中より先に行くしかない」
「例のアレ、実際に食べた人がいたんだけど、やっぱり凄まじい美味しさだったってさ!」
「く~~~~~探せええええ! 探すんだ!!!」

 現在の平和通サンロード商店街では、人々が声を掛け合いながら、忙しく行き交っていた。
 
「おい、米屋本店は売り切れだったが、和菓子屋に今日は例のブツが用意されているらしい!」
「えっ。本当に? そう言って前はデマだったじゃない。デマに踊らされている内に他の店舗で販売をしていて、買いそびれたこととかあったし……」
「いや、だけど。確かな筋の情報だって話だ! とにかく行ってみようぜ!」
 
 璃々の第二の案それは――――商店街の食べ物を取り扱っている店にランダムにおにぎりの委託販売をすることだ。

 ネットで話題になりすぎて米屋で直接買うにはかなりの争奪戦でありハードルが高いのだ。誇張などではなく、何時間も並ぶ必要があるくらいなのである。それが運が良く見つけられたならあっさりと買える可能性があるのだ。手当たり次第に店を覗いていく者。予想をして見当をつけていく者。なんとなくで行ってみる者など様々だ。

 おにぎりが目当てで他店に足を運ぶ訳だが、そこの店の商品が目に入れば気に入って買う可能性だってあるのだ。これも立派な作戦である。

 本店が一番だが、無理であるなら二番手でも構わない。誰もが先んじて密かに売られているおにぎりを探し求め食べたいと思っているのだ。しかし、例のブツだの例のアレだの”おにぎり”という直接的表現を使うと過敏に周囲が反応をしてしまうため、オブラードに包んだ言い方で誤魔化しているらしい。最も、皆が察してしまうため誤魔化しきれているかは非常に怪しいのだが。
 
 しかし、貴重だからこそ、写真投稿アプリでハッシュタグをつけての投稿企画で選ばれたいとますます熱が入り、人が商店街を訪れては知名度があがっていく。また、優先購入権の価値が高まるというものだ。

 そんな熱を帯びた空気の中、悠々ととある地元民のおばちゃんが八百屋にやってきていた。

「ん~大根と人参。それから椎茸とじゃがいもを頂戴な、あとついでにこれも買おうかしら」
「おう! 毎度あり」
「それから…………これ」
「!……中々やるじゃないですかい、お客さん」
「ふっ、見てなさい。こまめな買い物術の賜物でもう直ぐでランクが上がるところよ」

 さりげなく隠しながらとあるカードを提示しての小声のやり取りだ。大っぴらには出来ない。特に今外を走り回っておにぎりを求めている連中には。二人はアイコンタクトを交わす。八百屋のおじさんがカードに手早い動作でスタンプを押した。

 璃々は案が二つあると言っていた。二つ目の案の『表向き』が委託販売であり、『裏側』が地元民限定の秘密の案のこれなのである。せっかく身近な商店街の人気商品なのに地元民が全く買えないというのも不満の種になると考えたのだ。

 ――――ポイントカード制度の導入とランク制度である。

 商店街での買い物千円ごとに1ポイント溜まっていく。カードが一杯になれば次のランクへ。昇格特典で同時におにぎりの優先購入権を手に入れることができるのだ。これが中々溜まりづらい。ポイントをかなり稼がないといけないからだ。しかし、あの何時間もうんざりするくらいの行列に並ぶくらいならと皆で秘密の共有をしながら楽しんで買い物をしてくれている様だ。
 地元民だけの特別なサービス制度というのが、優越感をくすぐっている。

 そして、これだけ人気だと当然偽物も現れる様になった。もちろん、ブランド米は同じにしたりしなかったりするのだが、あっという間に排除された。味が圧倒的に違うため必然的に駆逐されるのだ。ちなみに、同じ味を求める人が自宅でつくっても、よりこれじゃない感が出るため、余計に欲しくなる有様だったりする。 
 
 噂が噂を呼び人気が加速するだけではなく、味わった人が皆虜になる旨さという劇的な体験により、リピーターがひっきりなしなのである。おににぎりブームは加熱し、平和通サンロード商店街は間違いなく璃々が作ったおにぎりを中心に回っていたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...