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第一章 アルバイトと限定的な料理チート
第十二話
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実験というのはもちろん、料理チートのことだ。おにぎりを三種類用意してみた。
一つ目、クリアタイプのおにぎり型を利用したもの。これはお米を入れるまでが難題だ。ボロボロ溢し、かつ中々押し込めずに苦労する。ただし、型にはめるというのはメリットもある。完成形が見た目綺麗めなのだ。これを利用しても完璧に綺麗と断言出来ない所は悲しいのだけれど、段違いで見た目がちゃんと三角になっている。
販売をするにあたって大事なポイントであるので、かなり良いのではないのかと踏んでいる。
二つ目、ラップを利用して握ったもの。これは練習期間中、一生懸命に頑張っただけあって、少しは上達を見せていた。なんと形が崩れきっていないのだ。デコボコしていて歪なものの、形をキープしている。にぎっている中で、最初の時なんかは何個か崩壊しては人に出せない物体を作り出してしまう私としては、随分と成功率があがった方と言える。
三つ目、最高難易度。素手で握ったもの。これはめちゃくちゃレベルが高いと思う。というか、お店に置くには手袋をはいて作業していないので、出せないと思うのだけれど、試してみたかった。ただし、上記の様に握るのだけでも苦労するというのに、これは特別に難しい。なにせアツアツのお米を自分の手だけを頼りにして、形を作らなければならないのだ。案の定、上手く固められずお米が崩壊。ボロボロの代物が出来た。中には成功っぽいものもあるが、辛うじておにぎり? と判断出来るラインだ。
流石に人に出せない物体が出来てしまった時は、仕方ないので自分で食べている。塩加減や水加減の状態を味見して確認する意味合いもあるのだ。尤も、塩おにぎりばっかり食べたら飽きて大変であるのだけれど。あと太りたくない気持ちとせめぎ合っている。
失敗が多くなれば自宅での夕食は無し。自分の残骸を食べて終わりだ。
こんな自分で言うのも何だが涙ぐましい努力を重ねてきたのだ。確実に練習に成果があったと思いたい。というか、清水ファミリーでは判定が怪しいのだ。ここのところ、何を食べても美味しい! の大合唱。
金髪男子がお腹が空いていて可哀想に思ったのは事実だけれど、それだけではない。ちょうど冷静に判断が出来る第三者が欲しかった。
そして、判定は……――見事に美味しいの賛辞をゲット!
(うん。やっぱり、美味しいって言ってくれるのは最高に嬉しい。けど、一つ目は一杯褒めてくれながら食べてくれたのに、二個目からは無言だったな~。料理チート的に完成形が綺麗な方が高評価判定で効果が高いと見た)
「ありがと! 女神ちゃん! ガチでうまかった~。心と体に染みる味ってああいうのを言うんだろうなって思ったよ。つーか、めちゃめちゃ刺激的だったし、感動する味だった! 俺あんなの初めてだわ」
「そ? なら良かった。それで、実験って言ったよね? 聞きたいんだけど、どのタイプのおにぎりが一番美味しかった? やっぱり一番目?」
「え?」
「ん?」
私の言葉にキョトンとする顔をする金髪。なんだか予想外のことを言われて面食らっている様子だけど、あれ? 違った?
「いや~~。どれも美味しすぎたから比較検討とか、激ムズなんだけどさ~~」
「うん。それで?」
「三番目が一番美味しかったです」
キリッとキメ顔で言いおった。というか、今何て言った?
「一番目じゃないの? だってあんなに美味しいって連呼してたじゃん?」
「あー確かにしたわ。けど、二個目からは言葉を失う旨さだった訳で。てか、三個目ってなんだったの? 味が別格」
「本当に?」
「まじまじ。一個目は凄い美味しい。二個目はぶっ飛ぶ旨さ。三個目で他のおにぎりを食えない体にされた」
「あはは! 大袈裟~……じゃ、ないの?」
「残念ながら事実しか述べてないんだなーこれが」
そこからはちょっと凄かった。マシンガントークで細かに味のレビューをされたのだ。けど、実験をしていた身としては大変助かった。どうやら料理チートは難易度が高いものに挑戦すると、成功に応じてより高い効果を発揮するらしいことが判明したのだ。
「んじゃ、本当にご馳走様。また実験に参加しに来るぜ! そんときは窓ノックするから開けてくれよ?」
「はいはい。その時は特別にまた作ってあげなくもないかもしれない」
「どっち? 楽しみにしてるから頼むって~~!」
「はいはい」
「あ……えと……その……」
今までよどみなく話していた金髪男が口ごもる。様子を見守っていると言いにくそうに口を開いた。
「三番目のおにぎり。そりゃあ、味は段違いで他のより美味しかったぜ。だけどさ、形がなんとなく俺の母親のおにぎりに似てたんだわ。あの不器用な感じだけど一生懸命握られたところとか」
「…………」
「凄く懐かしかった。って、こんな話されても困っちゃうよね。ごめんごめん。今度こそ俺、行くよ。女神ちゃん、またね!」
最後はおちゃらけてウィンクに投げキッスのおまけ付きで窓を閉めて去っていった。
(凄く懐かしかったって言ってた。きっと今、お母さんは……――)
三番目のおにぎりは最も難しくて店にも出せない。だけど、料理スキルをあげるためにも、一生懸命握ったと評価してくれる人のためにも、もっと極めようと思った。明確な目標が出来た。
(伝説級ではなく、伝説のおにぎり。人からそこまで評価されるレベルになるまで極める。本当の本当に目指してみよう!!)
意識を改めて、気合を入れ直す。とんだサプライズゲストだったけど、お陰で色々分析できたし、自信も付いた。だから決心がついたのだ。明日からは店舗でおにぎりを販売する。バイトで雇われている身分の癖に皆からせっつかれても自分が中々了承をしなかった。優しさに甘えて待ってもらっていたのだ。
だけど覚悟が決まった。
(やるしかない! やってやる! きっと売り物として利益を出すことが出来る!)
――――決意をしていた私は知らない。明日、おにぎりを販売するタイミングは最高であり最悪であったことに。通常、迷惑系ヨーチューバーの影が迫っていることは誰にも予測出来ないものである。
一つ目、クリアタイプのおにぎり型を利用したもの。これはお米を入れるまでが難題だ。ボロボロ溢し、かつ中々押し込めずに苦労する。ただし、型にはめるというのはメリットもある。完成形が見た目綺麗めなのだ。これを利用しても完璧に綺麗と断言出来ない所は悲しいのだけれど、段違いで見た目がちゃんと三角になっている。
販売をするにあたって大事なポイントであるので、かなり良いのではないのかと踏んでいる。
二つ目、ラップを利用して握ったもの。これは練習期間中、一生懸命に頑張っただけあって、少しは上達を見せていた。なんと形が崩れきっていないのだ。デコボコしていて歪なものの、形をキープしている。にぎっている中で、最初の時なんかは何個か崩壊しては人に出せない物体を作り出してしまう私としては、随分と成功率があがった方と言える。
三つ目、最高難易度。素手で握ったもの。これはめちゃくちゃレベルが高いと思う。というか、お店に置くには手袋をはいて作業していないので、出せないと思うのだけれど、試してみたかった。ただし、上記の様に握るのだけでも苦労するというのに、これは特別に難しい。なにせアツアツのお米を自分の手だけを頼りにして、形を作らなければならないのだ。案の定、上手く固められずお米が崩壊。ボロボロの代物が出来た。中には成功っぽいものもあるが、辛うじておにぎり? と判断出来るラインだ。
流石に人に出せない物体が出来てしまった時は、仕方ないので自分で食べている。塩加減や水加減の状態を味見して確認する意味合いもあるのだ。尤も、塩おにぎりばっかり食べたら飽きて大変であるのだけれど。あと太りたくない気持ちとせめぎ合っている。
失敗が多くなれば自宅での夕食は無し。自分の残骸を食べて終わりだ。
こんな自分で言うのも何だが涙ぐましい努力を重ねてきたのだ。確実に練習に成果があったと思いたい。というか、清水ファミリーでは判定が怪しいのだ。ここのところ、何を食べても美味しい! の大合唱。
金髪男子がお腹が空いていて可哀想に思ったのは事実だけれど、それだけではない。ちょうど冷静に判断が出来る第三者が欲しかった。
そして、判定は……――見事に美味しいの賛辞をゲット!
(うん。やっぱり、美味しいって言ってくれるのは最高に嬉しい。けど、一つ目は一杯褒めてくれながら食べてくれたのに、二個目からは無言だったな~。料理チート的に完成形が綺麗な方が高評価判定で効果が高いと見た)
「ありがと! 女神ちゃん! ガチでうまかった~。心と体に染みる味ってああいうのを言うんだろうなって思ったよ。つーか、めちゃめちゃ刺激的だったし、感動する味だった! 俺あんなの初めてだわ」
「そ? なら良かった。それで、実験って言ったよね? 聞きたいんだけど、どのタイプのおにぎりが一番美味しかった? やっぱり一番目?」
「え?」
「ん?」
私の言葉にキョトンとする顔をする金髪。なんだか予想外のことを言われて面食らっている様子だけど、あれ? 違った?
「いや~~。どれも美味しすぎたから比較検討とか、激ムズなんだけどさ~~」
「うん。それで?」
「三番目が一番美味しかったです」
キリッとキメ顔で言いおった。というか、今何て言った?
「一番目じゃないの? だってあんなに美味しいって連呼してたじゃん?」
「あー確かにしたわ。けど、二個目からは言葉を失う旨さだった訳で。てか、三個目ってなんだったの? 味が別格」
「本当に?」
「まじまじ。一個目は凄い美味しい。二個目はぶっ飛ぶ旨さ。三個目で他のおにぎりを食えない体にされた」
「あはは! 大袈裟~……じゃ、ないの?」
「残念ながら事実しか述べてないんだなーこれが」
そこからはちょっと凄かった。マシンガントークで細かに味のレビューをされたのだ。けど、実験をしていた身としては大変助かった。どうやら料理チートは難易度が高いものに挑戦すると、成功に応じてより高い効果を発揮するらしいことが判明したのだ。
「んじゃ、本当にご馳走様。また実験に参加しに来るぜ! そんときは窓ノックするから開けてくれよ?」
「はいはい。その時は特別にまた作ってあげなくもないかもしれない」
「どっち? 楽しみにしてるから頼むって~~!」
「はいはい」
「あ……えと……その……」
今までよどみなく話していた金髪男が口ごもる。様子を見守っていると言いにくそうに口を開いた。
「三番目のおにぎり。そりゃあ、味は段違いで他のより美味しかったぜ。だけどさ、形がなんとなく俺の母親のおにぎりに似てたんだわ。あの不器用な感じだけど一生懸命握られたところとか」
「…………」
「凄く懐かしかった。って、こんな話されても困っちゃうよね。ごめんごめん。今度こそ俺、行くよ。女神ちゃん、またね!」
最後はおちゃらけてウィンクに投げキッスのおまけ付きで窓を閉めて去っていった。
(凄く懐かしかったって言ってた。きっと今、お母さんは……――)
三番目のおにぎりは最も難しくて店にも出せない。だけど、料理スキルをあげるためにも、一生懸命握ったと評価してくれる人のためにも、もっと極めようと思った。明確な目標が出来た。
(伝説級ではなく、伝説のおにぎり。人からそこまで評価されるレベルになるまで極める。本当の本当に目指してみよう!!)
意識を改めて、気合を入れ直す。とんだサプライズゲストだったけど、お陰で色々分析できたし、自信も付いた。だから決心がついたのだ。明日からは店舗でおにぎりを販売する。バイトで雇われている身分の癖に皆からせっつかれても自分が中々了承をしなかった。優しさに甘えて待ってもらっていたのだ。
だけど覚悟が決まった。
(やるしかない! やってやる! きっと売り物として利益を出すことが出来る!)
――――決意をしていた私は知らない。明日、おにぎりを販売するタイミングは最高であり最悪であったことに。通常、迷惑系ヨーチューバーの影が迫っていることは誰にも予測出来ないものである。
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