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第一章 アルバイトと限定的な料理チート

第十話 金髪男side 前編

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 父親とは元々仲が悪い。特に育児を丸なげしていた母親が病死してからはお互いが無視というのが基本だ。
 大企業の重役だかなんだかしらないけど、家事は家政婦に丸なげ。自分でなんて何もできない癖に会社では偉そうにしているのが滑稽だと思った。なのに、やれ進学校へ行け。やれ進学塾へ行け。放置して自分は関わらない癖に世間体を気にしてか教育関連にはあれこれと口うるさく言ってくるのがうざくて反発していた。いつからだったかはもう忘れた。

 喧嘩をすると二言目には誰が養ってやっているんだというセリフは聞き飽きている。こっちだって、産んでくれと頼んだ覚えはないと主張したいね。産んだ以上は責任取れって感じでスルー推奨だ。父親への反発心から髪は男らしくないと指摘される様に伸ばし、色は金髪。耳にはピアス。
 更に地元では有名な治安が悪い不良高校へと進んでやった。クラスの連中と学校でたむろし、街を出歩き、家に居る時間はなるべく少なくしている。ざまぁと言いたい。

 ただ、その日の夕方父親と会ったのは偶然だった。歩いていていつもの場所に向かおうとカバンを漁ったとき、スマホの充電ケーブルを忘れていたのに気づいた。別に誰かに借りれば良いのに直ぐ近くにあったからつい自宅に寄ってしまったのが間違いだったのだ。

 二階の自室からお目当てのものを探し当てて、さっさと出かけるかと思った瞬間だった。ガチャンと音がしたのだ。思わず扉を見ると外から父親の声がする。

「いつまでも自由にしていられると思うな。一人で冷静に考えられる様にしてやったのだから、少しは反省したらどうなんだ?」
「は? おい! ふざけんなよ!」

 直ぐにドアへと向かうが手遅れだった。気付かなかったものの、ドアはいつの間に取り付けられていたのか外側から鍵で施錠されていたのだ。罵倒し、ドアを叩くも蹴るもまるで意味をなさない。

 今度は窓の方に向き直ってみたのだが、隣は空き地スペース。外に樹が生えているわけでもない。飛び降りれないか考えてみたものの現実的ではない。映画の様にシーツを割いてロープを作ることも考えてみたものの、量が不足で作れないだろう。

(くそが。油断した。黙って監禁されてろってか? スマホで連絡して……――)

 つるんでいる連中に連絡しようと思ったものの、家族のゴタゴタに巻き込むのに躊躇した。あのクソ野郎の場合、敷地内に入ってきただけで不法侵入で警察に通報しかねない。

(不本意だけど、大人しくしている他ないな……)

 不幸中の幸いとして、ペットボトルの水はカバンに入っている。餓死は免れるだろう。確実に食事なんてものを期待してはいけない。する気もないが。期待するとすれば家政婦がやってきて父親が子供を閉じ込めたことがバレるのを恐れて開放されるか、同情心から食べ物を差し入れしてくれるか、鍵を開けて逃がしてくれるかだ。

(持久戦かー……取り敢えず寝とこう。腹の減り具合誤魔化せるしな)

 そこからの経緯は省略する。翌日の夕方。案の定、いつも通り通ってきて、この件を知り気の毒がった家政婦が己が首になるかもしれないにも関わらず、隙を見て鍵を開け逃がしてくれた。しかし、それが父親にバレ、追いかけっこが始まったのだ。
 時刻は夕方18:20頃。普段であれば余裕で振り切って逃げられた筈だが、丸一日以上何も飯を食べていないというのは、成長期の男子には酷だった様だ。走っては、何度か見つかりそうになりながら隠れてやり過ごしやっと逃れることが出来た。

 気づくとめちゃめちゃ腹が減っている。だだでさえ腹が減っているのに強制的に運動までさせられたのだ。早急に食べ物が欲しかった。辛うじて財布はポケットの中だ。

「ってか、ここどこよ?」

 周囲を見渡すとどうやら商店街の様だ。確か平和通サンロード商店街だっただろうか。普段であればこんな寂れた場所に足を運んだりはしない。しかし、今はそんなことを言っている場合じゃない。

「って、嘘だろ。ロクに店やってねぇし。コンビニも無いとか終わってる……」

 時刻は19時。まだ店はやっていても良い筈だが、シャッターが閉まっているところばかりだった。さまよい歩き、やっと電気がついている店を見つけたかと思えば米屋だ。流石に生米は食えないが交渉でもしてと思っていると、ガラリと勢いよく窓が開く音がした。店の裏だろうか? 誰かいるかもしれないと藁にもすがる気持ちだった。

 そしてそこには同い年くらいの女の子がいたのだ。うんと愛想良く頼み込めば、この状況で出来たてのおにぎりをくれるという女神様が。

 キッチンの出窓に外から身を乗り出す俺。今、目の前には――3つの種類に分かれているらしい――ぞれぞれお皿に乗った塩おにぎりが置かれている。それをお腹が減っていた俺は、下手くそな見た目なんて気にせず勢いよく口にした。

――――大した覚悟もなく、『彼女の作ったおにぎり』を口にしてしまったのだ。


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