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第一章 アルバイトと限定的な料理チート

第五話 清水連side

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 優等生だった連は先生をはじめとする大人たちのウケは良かったが、それ以上に女の子から好かれていた。

 ルックスが良いのは勿論のこと、昔は真面目だけではなく世話焼きで面倒見が大層良かったのだ。
 例え他の男子達から嫉妬されてからかわれた所で、それをスルーする強いメンタルと嫌がらせから逃げる知恵すら兼ね備えていた。

 見た目良し。性格良し。頭良し。欠点とは無縁と思われた。

 しかし、問題が発生する。

 何か問題やトラブルがあると世話焼きで面倒見が良い連がかまってくれると女子達が嫌な学習をしたのだ。

 それからというもの。些細な事で呼ばれることから始まって、被害妄想やら嘘やら言いがかりやらで巻き込まれる日々だ。
 それに加えての最悪の思い出が幼少期のバレンタインデーである。

 小さいながら一生懸命作ったのはわかる。わかる、が、見た目はともかくとして、味見をしてないとしか思えないゲロ甘な物体。
 湯煎とは?と問い詰めたくなる様な謎な固形物。

 成長してからエスカレートし、一部の人間はやばかった。何か入っているのはおかしいであろう髪の毛、血、考えたくはないが唾液の類まで混入させたのだ。

 大量に押し付けられるチョコレートにはうんざりだったが、手作りのものはげんなりである。身の危険すら感じる。
 なまじっか、真面目な性格が本当にやばい物以外、捨てるというのを最後の手段にして向き合ってしまったのが災いだったのだ。

 既製品は別として━━お店の提供する料理は今では何とか克服出来ているものの━━、すっかりと手作りの料理がトラウマになってしまった。
 幼少期の出来事は連の深くに根を張っている。

 だから。だからこそ。

 目の前に辛うじて歪な形をギリギリで保っている余りにも不味そうなおにぎりを見た時。

 思わず、過去のトラウマから席を立とうとしてしまった。

 というより、両親なんかは物凄く心配そうな顔をして、何とか傷つけない様に上本にフォローしつつ。食べるのは二人だけにし、連をこの場から逃がそうとしてくれようとしているのがわかった。

 しかし、それを連は目を合わせて首を緩く振ることで断った。

 頼む、と。救世主だからと、願って来てもらったのは他ならぬ連だからだ。

 おにぎりを作るのは簡単な作業だからと軽く言ったのは大間違いであり、愚かな発言であった。あの時の上本の青ざめた顔を思い出して連は唇を薄っすら噛んだ。

 願いを押し付け、無理矢理やらせたのだから責任を取るのは自分である。

 意を決して、歪なおにぎりを口にする。






 途端、口の中で米が解けて散らばった。そして、ゆっくりと噛み締める。

 真っ先に感じたのは口当たりの良さだ。おや? と不思議に思えば、次いで米が持っている旨味が爆発した。

「~~~~っ!!!」

 大きく目を見開いた連は、夢中になって咀嚼しはじめた。

 美味しいからじっくり味わうという事を忘れ、噛めば噛むほど溢れる舌の幸せを堪能していた。

 ちょっと水っぽく塩っぱい感じもするものの、逆にそれが良いと感じる。
 恐らく何かのアクセントなのだろう。

 形が歪だったのは、崩れるか崩れないかの絶妙なバランスを見極めて握るから、あの様な複雑な形になったのだと今なら分かる。

 『おにぎりを作る作業は決して覗かないで下さい』と言って台所の出入り口の扉を閉鎖していた上本。
 がちゃんバタンなどと凄まじい音がしながら約2時間。

 幾ら料理が例え苦手だとしても、2時間はおかしいと思って何度も声掛けをしていたが、何かの特殊な調理工程があったのだろう。

 そこまで思いを巡らせてあっと言う間に一つ目のおむすびが跡形もなくなっていることに気づく。
 
(小さめのおにぎりだったので仕方ないだろう。もう一つ食べれば、それで……)

 連は無言のまま、もう一つ鷲掴みにし、口に運んだ。

 何やら皆が唖然と見ている様な気がするも、今はどうでも良いことだった。
 
(あぁ、またなくなってしまったな。もう一つ……)

 気付いた時には大皿に乗っていた小さめな四つのおにぎりは全て連の腹の中に収まっていたのであった。
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