5 / 42
第一章 アルバイトと限定的な料理チート
第五話 清水連side
しおりを挟む
優等生だった連は先生をはじめとする大人たちのウケは良かったが、それ以上に女の子から好かれていた。
ルックスが良いのは勿論のこと、昔は真面目だけではなく世話焼きで面倒見が大層良かったのだ。
例え他の男子達から嫉妬されてからかわれた所で、それをスルーする強いメンタルと嫌がらせから逃げる知恵すら兼ね備えていた。
見た目良し。性格良し。頭良し。欠点とは無縁と思われた。
しかし、問題が発生する。
何か問題やトラブルがあると世話焼きで面倒見が良い連がかまってくれると女子達が嫌な学習をしたのだ。
それからというもの。些細な事で呼ばれることから始まって、被害妄想やら嘘やら言いがかりやらで巻き込まれる日々だ。
それに加えての最悪の思い出が幼少期のバレンタインデーである。
小さいながら一生懸命作ったのはわかる。わかる、が、見た目はともかくとして、味見をしてないとしか思えないゲロ甘な物体。
湯煎とは?と問い詰めたくなる様な謎な固形物。
成長してからエスカレートし、一部の人間はやばかった。何か入っているのはおかしいであろう髪の毛、血、考えたくはないが唾液の類まで混入させたのだ。
大量に押し付けられるチョコレートにはうんざりだったが、手作りのものはげんなりである。身の危険すら感じる。
なまじっか、真面目な性格が本当にやばい物以外、捨てるというのを最後の手段にして向き合ってしまったのが災いだったのだ。
既製品は別として━━お店の提供する料理は今では何とか克服出来ているものの━━、すっかりと手作りの料理がトラウマになってしまった。
幼少期の出来事は連の深くに根を張っている。
だから。だからこそ。
目の前に辛うじて歪な形をギリギリで保っている余りにも不味そうなおにぎりを見た時。
思わず、過去のトラウマから席を立とうとしてしまった。
というより、両親なんかは物凄く心配そうな顔をして、何とか傷つけない様に上本にフォローしつつ。食べるのは二人だけにし、連をこの場から逃がそうとしてくれようとしているのがわかった。
しかし、それを連は目を合わせて首を緩く振ることで断った。
頼む、と。救世主だからと、願って来てもらったのは他ならぬ連だからだ。
おにぎりを作るのは簡単な作業だからと軽く言ったのは大間違いであり、愚かな発言であった。あの時の上本の青ざめた顔を思い出して連は唇を薄っすら噛んだ。
願いを押し付け、無理矢理やらせたのだから責任を取るのは自分である。
意を決して、歪なおにぎりを口にする。
途端、口の中で米が解けて散らばった。そして、ゆっくりと噛み締める。
真っ先に感じたのは口当たりの良さだ。おや? と不思議に思えば、次いで米が持っている旨味が爆発した。
「~~~~っ!!!」
大きく目を見開いた連は、夢中になって咀嚼しはじめた。
美味しいからじっくり味わうという事を忘れ、噛めば噛むほど溢れる舌の幸せを堪能していた。
ちょっと水っぽく塩っぱい感じもするものの、逆にそれが良いと感じる。
恐らく何かのアクセントなのだろう。
形が歪だったのは、崩れるか崩れないかの絶妙なバランスを見極めて握るから、あの様な複雑な形になったのだと今なら分かる。
『おにぎりを作る作業は決して覗かないで下さい』と言って台所の出入り口の扉を閉鎖していた上本。
がちゃんバタンなどと凄まじい音がしながら約2時間。
幾ら料理が例え苦手だとしても、2時間はおかしいと思って何度も声掛けをしていたが、何かの特殊な調理工程があったのだろう。
そこまで思いを巡らせてあっと言う間に一つ目のおむすびが跡形もなくなっていることに気づく。
(小さめのおにぎりだったので仕方ないだろう。もう一つ食べれば、それで……)
連は無言のまま、もう一つ鷲掴みにし、口に運んだ。
何やら皆が唖然と見ている様な気がするも、今はどうでも良いことだった。
(あぁ、またなくなってしまったな。もう一つ……)
気付いた時には大皿に乗っていた小さめな四つのおにぎりは全て連の腹の中に収まっていたのであった。
ルックスが良いのは勿論のこと、昔は真面目だけではなく世話焼きで面倒見が大層良かったのだ。
例え他の男子達から嫉妬されてからかわれた所で、それをスルーする強いメンタルと嫌がらせから逃げる知恵すら兼ね備えていた。
見た目良し。性格良し。頭良し。欠点とは無縁と思われた。
しかし、問題が発生する。
何か問題やトラブルがあると世話焼きで面倒見が良い連がかまってくれると女子達が嫌な学習をしたのだ。
それからというもの。些細な事で呼ばれることから始まって、被害妄想やら嘘やら言いがかりやらで巻き込まれる日々だ。
それに加えての最悪の思い出が幼少期のバレンタインデーである。
小さいながら一生懸命作ったのはわかる。わかる、が、見た目はともかくとして、味見をしてないとしか思えないゲロ甘な物体。
湯煎とは?と問い詰めたくなる様な謎な固形物。
成長してからエスカレートし、一部の人間はやばかった。何か入っているのはおかしいであろう髪の毛、血、考えたくはないが唾液の類まで混入させたのだ。
大量に押し付けられるチョコレートにはうんざりだったが、手作りのものはげんなりである。身の危険すら感じる。
なまじっか、真面目な性格が本当にやばい物以外、捨てるというのを最後の手段にして向き合ってしまったのが災いだったのだ。
既製品は別として━━お店の提供する料理は今では何とか克服出来ているものの━━、すっかりと手作りの料理がトラウマになってしまった。
幼少期の出来事は連の深くに根を張っている。
だから。だからこそ。
目の前に辛うじて歪な形をギリギリで保っている余りにも不味そうなおにぎりを見た時。
思わず、過去のトラウマから席を立とうとしてしまった。
というより、両親なんかは物凄く心配そうな顔をして、何とか傷つけない様に上本にフォローしつつ。食べるのは二人だけにし、連をこの場から逃がそうとしてくれようとしているのがわかった。
しかし、それを連は目を合わせて首を緩く振ることで断った。
頼む、と。救世主だからと、願って来てもらったのは他ならぬ連だからだ。
おにぎりを作るのは簡単な作業だからと軽く言ったのは大間違いであり、愚かな発言であった。あの時の上本の青ざめた顔を思い出して連は唇を薄っすら噛んだ。
願いを押し付け、無理矢理やらせたのだから責任を取るのは自分である。
意を決して、歪なおにぎりを口にする。
途端、口の中で米が解けて散らばった。そして、ゆっくりと噛み締める。
真っ先に感じたのは口当たりの良さだ。おや? と不思議に思えば、次いで米が持っている旨味が爆発した。
「~~~~っ!!!」
大きく目を見開いた連は、夢中になって咀嚼しはじめた。
美味しいからじっくり味わうという事を忘れ、噛めば噛むほど溢れる舌の幸せを堪能していた。
ちょっと水っぽく塩っぱい感じもするものの、逆にそれが良いと感じる。
恐らく何かのアクセントなのだろう。
形が歪だったのは、崩れるか崩れないかの絶妙なバランスを見極めて握るから、あの様な複雑な形になったのだと今なら分かる。
『おにぎりを作る作業は決して覗かないで下さい』と言って台所の出入り口の扉を閉鎖していた上本。
がちゃんバタンなどと凄まじい音がしながら約2時間。
幾ら料理が例え苦手だとしても、2時間はおかしいと思って何度も声掛けをしていたが、何かの特殊な調理工程があったのだろう。
そこまで思いを巡らせてあっと言う間に一つ目のおむすびが跡形もなくなっていることに気づく。
(小さめのおにぎりだったので仕方ないだろう。もう一つ食べれば、それで……)
連は無言のまま、もう一つ鷲掴みにし、口に運んだ。
何やら皆が唖然と見ている様な気がするも、今はどうでも良いことだった。
(あぁ、またなくなってしまったな。もう一つ……)
気付いた時には大皿に乗っていた小さめな四つのおにぎりは全て連の腹の中に収まっていたのであった。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる