天使の報告ファイル

プロローグ

私、正五位の官位を持つ天使で御座います。この度正四位の官位に着かれた神様のお手伝いをする事になったのですが、少々戸惑っております。実は、今まで、正四位と言う官位に着かれる神様は居りませんでした。どこぞの星や民衆へ啓示や神託を発する権限を持つには、正参位の官位が必要なのです。つまり、新しい神様は神様と成られましたけど、『無職』なので御座います。無職の方のお手伝いとは……一体何をすれば宜しいのかと、途方に暮れております。

「あぁ～始めまして。えっと正五位天使ディーンさん」
「始めまして。正四位神様」
「お互いに、長い名称ですね、先ずはソコから改善しましょうか」
「でわ、私の事は天使、もしくはディーンとお呼び下さいませ」
「私の事は……慣例では皆さん何と呼ばれてますか？」
「一般的には神様です」
「……ちょっと、テレ臭いですが、他に浮かばないので、其れで行きましょう」
「でわ、早速ですが、天使ディーン。この箱の使い方を教えて下さい」

目の前に差し出されたのは、私達天使が、神様に成る為に、日頃勉強に使う教材。『箱庭セット』です。オブジェを並べ、人形に人格を植え付け、生態を観察するキット。天界では、子供から大人まで、広く親しまれポピュラーは玩具否、学習具。
　そう、この神様、実は経歴が私達天使や他の神様と少々異なっており、この辺の一般教養に欠けてらっしゃるものですから、少々困りモノなのです。
  
「蓋のスイッチを起動しますと、二つの画面が浮かび上がります。人形に人格を植付ける為の、サンプルを選別する為の画面と対象が右の画面に映し出されます。左画面は、移植先の人形を選別します。対象サンプルが決まりましたら、画面に触れそのままスライドして人形の所まで運んで下さい。画面に二つの対象が重なったままになれば、そこで『チョチョン』と二度タッチして下さい。それで、人格の移植が完成します」
「成程、簡単ですね。複数を同時に行うことも可能ですか」
「その場合は、対象画面の映像を少し倍率を下げ、指でグルッと囲んで下さい。赤い線で囲まれましたね。それで、対象を選びました。人形の選別時は、個別画像の下にリスト……そうです、そこです。その欄のリストを同じく『チョチョン』と二度タッチして下さい。対象の数だけ、人形に移植されて完成です」
「これは、更に簡単で、便利ですね～」

この新しい神様……笑顔がステキですね。腰が低く素直そうな方ですね。私安心感が出ました。

「一つ聞いても良いですか？この対象と人形ですが……動物を対象と選んで、人型の人形に移植したら、どうなります？」
「……えっと、それは基本的に人として、行動しますが考え方やアイデンティティーは、その動物を基本とするでしょう。正直私はした事が有りませんので、これは又聴きで御座います。すみません」
「いえいえ、御気に為さらずに、ちょっと私が生前から考えていた事が試せそうかなと思っただけですから。……そうですね、それも学習と思えば……」

前言撤回です。この神様見た目に反して、少し変わり者の予感がします。不安感が急上昇しました。
　しばし、無言のまま作業を進める神様、デスクに座ったまま先程から熱心に没頭されてます。お茶をお出ししても気付いてもいません。私は、退屈な時間を過してしまいました。
  
「天使ディーンさん。見て確認して下さいませんか」
「えっと……不備のチェックと言う事でしょうか」
「はい。ここまで、造りこみましたから、折角なら一発で、無事起動させたいと思いますので、間違えや不足が無いか調べて見てください」
「判りました」
「神様……コレは……」
「ええ！そうです。私は、単一の人形に様々な生き物を人格を移植しました。生命の優劣や異属間・多種族間の間で争いが起こると考えています。ですから、同一種族だったら、どうなるかを知りたいのです。同民族間でも争いは起こりますが、そこに、啓示と云ったルールを用いれば……そう云った事を見てみたいのです」
「其れって……この天界と同じですよね」
「……ですね」
「……問題は特に無いようです。多少女性の比率が高いようですが、許容範囲内の様ですね、特に目立つ問題は無いようです」
「ありがとうございます。でわ、早速起動してみましょう」

危険度ＭＡＸです。恐れ多くも箱庭でこの天界と似た状況を再現するなど、それも俗世間の人間を対象にする等、私達天界に生まれ住んだ者は考えもしません。
まったく持って、この神様。要注意の危険分子かもしれません。一気に私の不安度ＭＡＸです。これは、極秘に神様を監視しなければなりません。それが、私の責務と成りました。