2 / 2
後編
しおりを挟む
凛子は再び赤髪の女性の所に来ていた。
「こんな所で可哀想に……」
凛子は女性の身体を労るように撫でた。そこで感触がおかしい事に気づく。
硬い感触。
まるで機械にでも触っているような。
頬に触れる。
死後もキレイな顔のままだ。
どれくらいの時が経ったのかは分からないが、死臭も無く、ただキレイなままの姿。
「……まさか、本当に?」
髪を鋤いた時に見えた首から機械が覗く。これまで機械の部分は衣服によって隠れていたから気づかなかったのだ。
凛子は目の前にいる女性の正体が分かった気がした。
「アンドロイド、なのね。これが本物のアンドロイド……」
都市伝説だと思われていた歴史。
かつて人間とロボットが共存していた事。アンドロイドが生まれた事。そして一度は人類と文明が滅んでしまった事。
アンドロイドの発見により、都市伝説が事実であったのだと凛子は確信した。
考古学者としていくつもの遺跡を訪れた凛子。そんな彼女でもこれまで過去にアンドロイドが見つかった事は無かった。
初めて見るアンドロイド。
「もう、助からないのかしら……」
何とか持って帰れないかと試みるも、さすがに女一人の力ではここから動かす事などできなかった。
せめてこのアンドロイドの事を知る手立てはないか、と凛子は部屋を捜索する。すぐにノートが見つかった。
『最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら』
ノートの表紙に書かれたタイトル。
小説のようなそのタイトル。
その文字は長い時間によって消えかけていた。
目の前にアンドロイドがいる今、凛子は彼女と僕という人物の事実が記されたノートに違いないと直感した。
風化して手にすれば崩れてしまいそうなノート。
僕という人物はもうとっくに死んでいるのだろう。二人の物語の結末が幸せであって欲しいと凛子は思わずにはいられなかった。
凛子は写真だけ撮って帰る事にした。
彼女一人では何もできないから。
アンドロイドを運び出す事も、ノートを傷付けずに持ち帰る事も。彼女は彼女ができる事をするしかなかった。ここで見た事を伝える事を。だから彼女は写真を撮った。この遺跡を、アンドロイドを、ノートを。ロボットやアンドロイドがかつて人間と暮らしていた事を世に知らせるために。
自己満足と言われればそうかもしれない。でも彼女にとってそれは使命のようなものだった。
今は無理でも、きっと、きっとまた人類はロボットと生きていく事ができる。そんなロボットを人類は生み出せる。凛子はそう信じていた。そんな未来を夢見た。
もう一度アンドロイドの頬を撫ぜる。
凛子は立ち上がる。
去り際に凛子はアンドロイドに微笑んだ。
「ありがとう」と言って。
凛子は外から城を眺める。
彼女にはその城がお墓のようにも見えた。
終わり
「こんな所で可哀想に……」
凛子は女性の身体を労るように撫でた。そこで感触がおかしい事に気づく。
硬い感触。
まるで機械にでも触っているような。
頬に触れる。
死後もキレイな顔のままだ。
どれくらいの時が経ったのかは分からないが、死臭も無く、ただキレイなままの姿。
「……まさか、本当に?」
髪を鋤いた時に見えた首から機械が覗く。これまで機械の部分は衣服によって隠れていたから気づかなかったのだ。
凛子は目の前にいる女性の正体が分かった気がした。
「アンドロイド、なのね。これが本物のアンドロイド……」
都市伝説だと思われていた歴史。
かつて人間とロボットが共存していた事。アンドロイドが生まれた事。そして一度は人類と文明が滅んでしまった事。
アンドロイドの発見により、都市伝説が事実であったのだと凛子は確信した。
考古学者としていくつもの遺跡を訪れた凛子。そんな彼女でもこれまで過去にアンドロイドが見つかった事は無かった。
初めて見るアンドロイド。
「もう、助からないのかしら……」
何とか持って帰れないかと試みるも、さすがに女一人の力ではここから動かす事などできなかった。
せめてこのアンドロイドの事を知る手立てはないか、と凛子は部屋を捜索する。すぐにノートが見つかった。
『最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら』
ノートの表紙に書かれたタイトル。
小説のようなそのタイトル。
その文字は長い時間によって消えかけていた。
目の前にアンドロイドがいる今、凛子は彼女と僕という人物の事実が記されたノートに違いないと直感した。
風化して手にすれば崩れてしまいそうなノート。
僕という人物はもうとっくに死んでいるのだろう。二人の物語の結末が幸せであって欲しいと凛子は思わずにはいられなかった。
凛子は写真だけ撮って帰る事にした。
彼女一人では何もできないから。
アンドロイドを運び出す事も、ノートを傷付けずに持ち帰る事も。彼女は彼女ができる事をするしかなかった。ここで見た事を伝える事を。だから彼女は写真を撮った。この遺跡を、アンドロイドを、ノートを。ロボットやアンドロイドがかつて人間と暮らしていた事を世に知らせるために。
自己満足と言われればそうかもしれない。でも彼女にとってそれは使命のようなものだった。
今は無理でも、きっと、きっとまた人類はロボットと生きていく事ができる。そんなロボットを人類は生み出せる。凛子はそう信じていた。そんな未来を夢見た。
もう一度アンドロイドの頬を撫ぜる。
凛子は立ち上がる。
去り際に凛子はアンドロイドに微笑んだ。
「ありがとう」と言って。
凛子は外から城を眺める。
彼女にはその城がお墓のようにも見えた。
終わり
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
【完結】最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら(瓦礫の街、小さな花束)
田中マーブル(まーぶる)
キャラ文芸
ある日突然「この世界に人類はアナタ一人です」と言われたら?
一人きりの僕はある街に住んでいる。父さんも母さんもいるけど、僕は一人きり。今までもこれからも。何故なら僕はただ一人、生身の人間だから。
でもある時、僕はある少女と出会った。僕よりも年上の少女。そんな彼女はアンドロイドで。
アンドロイドの彼女のためにある街に来た僕ら。そこにはとんでもないひみつがあって……。
僕は一体何者なの?
日本昔話村
たらこ飴
SF
オカルトマニアの唐沢傑は、ある日偶然元クラスメイトの権田幻之介と再会する。権田に家まで送ってくれと頼まれた唐沢は嫌々承諾するが、持ち前の方向音痴が炸裂し道に迷ってしまう。二人が迷い込んだところは、地図にはない場所ーーまるで日本昔話に出てくるような寂れた農村だった。
両親が若い頃に体験したことを元にして書いた話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
ゴースト
ニタマゴ
SF
ある人は言った「人類に共通の敵ができた時、人類今までにない奇跡を作り上げるでしょう」
そして、それは事実となった。
2027ユーラシア大陸、シベリア北部、後にゴーストと呼ばれるようになった化け物が襲ってきた。
そこから人類が下した決断、人類史上最大で最悪の戦争『ゴーストWar』幕を開けた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
イカロスの探求者
多田羅 和成
SF
文学フリマ広島6で配布する予定のSF小説です。1章と2章は常時公開ですが、3章と4章は期限が過ぎると非公開させていただきます。
この土地はいつでも闇が支配している。獣と鉄の悪魔に怯える人々は絶望の世界で死を待つのみであった。その中現れたのは火神 イグニスであった。イグニスは各村に神の箱と火を与えた。人々はイグニスの加護により獣と鉄の悪魔に抵抗し得る力を得たのである。
それから幾つかの月日が経った。少年ルフは変わらない日々に退屈していた。インノ祭に捧げる獣を探していると鉄の悪魔がルフを襲う。そんな中ケラー教を崇める異教徒アランがルフを助けた。アランのことをもっと知りたいと思ったルフは毎日会いに行く。
アランは知らないことをルフに教えてくれて次第に意気投合をする。そして、イグニス教では重要な神の箱を案内することになる。神の箱にある洞窟では緑髪をした神の使者と村の村長ベル・ウィークスがいた。ベルが引き返すようにいうと、壁一面が青くなり丸くて明るいものが浮かんでいる。
戸惑うを隠せない三人は何だとなっていると、神の使者が「太陽」だと答えた。太陽の神秘的な姿に衝撃を受けたルフ達はまだ見ぬ太陽を探しに冒険へと出るのである。
出会いと別れを繰り返し、夜だけの世界で彼らは何を得るのだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる