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1章:鬼ごっこ

本編 11 男の子

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「アー、ヤッパリ、ユキノトコロニイタ」

 この気持ち悪い声、マサキだ。

「ツヅキシヨ。オニゴッコノツヅキ」

 僕はマサキをじっと見つめる。

「ニラムノ? ボクヲニラムノ? ユキヲタベチャッタカラ?」

「そうだよ。マサキが有希を食べたからだよ」

 目線は逸らさず淡々と答える。

「ドウスルノ? ボクヲドウスルノ?」

 不敵な笑いを浮かべたマサキはなんとも楽しそうにして言う。
 まるで子供のように。
 地に着けた長い四肢でピョンピョン跳び跳ねる。

「殺す」

 自分でもこんな言葉が出るとは思わなかった。自然と、当たり前のように口が動いた。

「タノシイネ。ツヅキダネ。ヤルキダネ」

「今度は僕が鬼だ」

「ナンデ? ナンデナンデ? ボクノホウガツヨイノニ?」

 マサキが不思議そうに首を傾げる。さっきまで跳び跳ねていたのをピタリと止めて。

「で?」

「デ?」

「僕が、いや、俺が弱いから何。俺はお前を殺すんだから逃げるのはお前だろ。当たり前の事を聞くなよ」

 あはは。

 何だろ。

 有希の最後の記憶を見たからなのか、妙にきもが据わってしまった自分がいた。

 何故か何とかなるような気でいた。

 言葉では説明できない何かが俺に宿ったような、そんな感覚。

 俺は有希を見た。

 腹をぐちゃぐちゃにされて尚、穏やかな表情で眠る有希。

 なんだかな。

 俺の方が随分とちっぽけな人間みたいに思えるわ。

「で? どうする? 逃げる? 闘う?」

 俺はマサキの頬を撫でる。
 冷たい皮膚の感触がした。

「タタカウ? イイヨ」

 そう言うや否やマサキの腕が俺をなぎ払う。
 吹っ飛ばされた俺は体をくの字に曲げたまま起き上がれない。

「ヨワイ。ヨワイ。ツマラナイ」

 マサキが倒れている早い俺の方へと近づいてくる。ツマラナイと言いつつもニヤニヤと薄ら笑いを張り付けている。

 ?

 何か違和感。
 その正体はすぐに分かった。
 真っ暗な口の中。
 真っ暗だったはずの口の中に何かがいたのだ。

「ツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイ!」

 マサキの声、いやマサキの声だと思っていたものは、口の奥にいる何かから発せられていた事に、ようやく気付く。

「モウ、オワリ? オワリ?」

「まだだよ。化物」

 マサキは取り憑かれてただけなのかもしれない。この家に巣くう化物に。

「トモダチダッタノニ『バケモノ』ッテヨブナンテ!」

「本当はマサキじゃないんだろ? 化物さん」

 俺はゆっくりと立ち上がる。

 マサキの敵討ちだ。

「ツマラナイ。モウバレタ。モウスコシアソビタカッタノニ」

 マサキの口の奥から男の子の顔が出てくる。小学生くらいの丸顔の少年。真っ白な肌、目や口は黒く塗り潰したように真っ暗だった。

「オニゴッコも終わりだ」

「ボクヲコロスナンテ、デキナイヨ」

 ニヤニヤと少年は笑う。

「違うよ。殺すなんて言うもんじゃない」

 俺は爺ちゃんの言葉を思い出す。

『死んだ人を大事にしないとバチが当たるぞ』

 きっと、この子は遊び相手が欲しかったんだ。だからあの時、俺をすぐに襲わずに「オニゴッコ」というゲームを提案したに違いない。
 思えばマサキも寂しい奴だったのかもしれない。大学で話し掛けてきたのも、仲の良い友人がいなかったからだろうし。小学生の時も1人でいる所しか見かけた事がなかった気がする。

 あの子供の化物と同じ寂しさに共感して、あんな姿になって、そして、俺に遊んで貰おうと甘えている。
 何故かそんな風に思えた。

 俺の選択肢は『本気で向かい合って遊んでやる事』一つだけだ。

「今度はお前が逃げる番だ。俺が走れなくなって倒れたら、俺を食えば良い。それまでは鬼としてお前を追いかけるからな」

「ナニソレ。イイヨ。ゼッタイ、ツカマラナイヨ」

 こうして、ただの学生である俺が化物を追いかけるという奇妙なオニゴッコが始まったのだった。
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