【完結】最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら(瓦礫の街、小さな花束)

田中マーブル(まーぶる)

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第3章:ロボットとニンゲンの距離

眠りから醒めて

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「起きろ! 起きろよ」

 誰だよ。

 僕はまだ寝たいんだよ。

「おい! あんた!」

 だから起こすなよ。

 僕は、

 ん?

 は?

 誰だ?

 僕に話し掛ける誰かだって?

「ひっぱたいてみるか」

「起きてます! 今起きました!」

 僕は勢い良く体を起こす。

「何だ。起きたのか。それより、あんた、こんな所で何してるんだ?」

「え? あなたこそ誰なんですか? ここは無人だったはずですよ?」

 目の前にいる男は不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
 少々ふくよかな体型の30代位の男だ。
 畑を荒らしてた三人組とは別の男。

「変な事を言うな。無人なら何故あんたはここにいるんだい?」

「え? ぼ、僕は……」

 素直に言っていいものか僅かに悩む。

 そう、僕以外に人間はいないのだ。

 もし他に人がいるのなら、それは、偽物のニンゲン。
 あの町にいたニンゲンだけのはずなのだ。

「ちょっと、探し物をしてて……」

「無人の寺に?」

「ええ。お墓を」

「ふむ。お墓とか何かね?」

 男は首を傾げる。

 お墓が分からないのか。

「ところでさ、あんた、誰だい?」

「え?」

「いや、何人かで町を出てここに来たんだけどさ、全員知ってるわけじゃないんだ」

「そうか。僕は……」

「あんたは?」

「カン、カンジ。そう、カンジっていうんだ」

 咄嗟に出たのがカンジという嘘の名前だった。
 なんとなく本当の事を言ってはいけないような気がしたから。

「カンジか。聞いた事のない名前だな。まあ良いや。カンジもオレみたいに一人でエリーというロボット女を探してたんか?」

 ドキリとした。

 エリー。

 そうだ。

 僕はエリーを探していた。

「あなたはエリーを見つけましたか?」

「何だよ。何か変な感じだな」

「いや、僕、その、あなたの名前とか聞いてないし……」

「あ、そうかそうか。そうだな。オレはタイチだ。よろしくな」

 右手を差し出すタイチ。

 僕は誘われるようにして彼と握手をした。

「ところで、カンジは料理できるのか?」

「と、唐突ですね……」

「ほら、オレたちの住んでた町は誰も料理なんかしなくても食い物が出てきたじゃん」

「それは……」

 僕に言われても知らないけど。

「でもさ、一部でわざわざ料理するヤツがいるって話はあってさ。カンジはどうなんだ?」

「できない」

 習った事なんてないもの。

「そっか。ここ数日さ、オレもまともな物を食べてなくてさ。カンジもそうだろ?」

「ま、まあ」

「早く帰って飯にありつきたいぜ!」

「なら帰れば良いんじゃ?」

「それはない」

 顔が近い。
 真顔の丸顔。
 ちょっと面白い。

「何で?」

「地下の施設が見つかった時に一部の奴らがロボットを壊しまくってたからな。そのせいで町の機能が止まってるんだよ。だからロボット女を探してるんだろ。あの女なら何とかできるかもしれないからな」

「へえ」

「お前、何にも知らないのな」

「あ、うん」

「それにしても腹減ったな。何か食えそうな物ないのか?」

「台所はありますし、水くらいなら……」

「それじゃ腹は満たせねえよ」

「ですよね」

「台所か。何か食べられる物はないのか?」

「そう言われてもずっと人のいなかった所に食べられる物なんてあるわけないでしょ」

 そんな事を言いつつ台所へと向かう。

 あれ?

 僕は確か台所で意識が……。

 それに何故か布団で寝ていた……。

 タイチがやったはずはない。それは彼が僕を起こした時の事を考えれば分かる。
 なら、別の誰かが来ていた?

 まさかエリー?

「ここが台所か」

 タイチの言葉で現実に引き戻される。

「はい。水はそこの蛇口から出ます。コップはそっちに置いてありました」

「ほうほう。これは使えるのかな」

 タイチは何やらスイッチをいじり出す。

「それは?」

「コンロだよ。火が出るの。知らない?」

「知らない」

「マジかよ。ま、オレもよく知らないんだけどな。料理は危険なんだと。だから特別な訓練が必要で、誰でもできるわけじゃないらしい」

「へえ」

「やっぱり動かないか。オレの使い方が間違ってるのか、そもそももう動かないのか……」

 タイチはコンロから離れて台所内をごそごそと漁る。

「何か食べられる物が、あ、り、ま、す、よ、う、に!」

 そう言って棚の扉を開ける。

 ニヤリとタイチが笑う。

「な、何かあったの?」

「おう。これ見ろよ」

 タイチが僕に向けて袋をかざす。
 袋には美味しそうな料理の写真と『フリーズドライ』の文字が書かれている。

「これは食べ物で間違いないな」

 タイチは早速開封する。
 中から出てきたのはスカスカの塊だった。

「何だこれ? 本当に食べられるのか? 袋の写真と全然違うじゃないか」

 文句を言いながら塊をかじるタイチ。

「!?」

 何?

「すげえ! 口の中で食い物になった!」

 口の中で料理に!?

「カンジも食うか?」

「いや、いいよ。タイチが食べなよ」

「そうか。じゃあ遠慮なく」

 僕は何故かお腹が空いてなかった。

 タイチは食べ終わると僕らが元々いた部屋に戻って寝てしまった。

 僕は寝ているタイチを見て思った。

 これからどうなるんだろうか、と。
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