【完結】最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら(瓦礫の街、小さな花束)

田中マーブル(まーぶる)

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第3章:ロボットとニンゲンの距離

瓦礫の街と僕の日常

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 学校の窓から見る景色は毎日代り映えしない。
 同じロボットが同じ時間に同じように歩いていく。建物はボロボロのままで、道路だけがメンテナンスされてそれなりの状態が保たれている。
 空を流れる雲だけが少しだけの違いを見せる以外は、何もかもが同じ日常だ。

 あの日以来、すっかり元通りの毎日。

 エリーとも会わなくなって、すでに一ヶ月が過ぎていた。

 学校で人類の事を学び、家に帰って、食用の雑草を取り、イモを食べる。
 繰り返される日常。
 
 あのアンドロイドの女の子エリーは、幻だったかのような気さえし始めていた。

「ケンタロー?」

「ん? 母さん、何?」

「ボーッとしてたけど何か悩み事?」

「いや。……ただ、何も無いなぁ、って」

「ワンワン!」

 僕の足元でロボット犬のワンダが吠える。

「あはは。ゴメンゴメン。ワンダのお陰で何にも無い事はないね」

 そう言ってワンダの頭を撫でる。

 ワンダはしっぽを振って喜ぶ。
 そして、僕のズボンの裾を引っ張る。

「何?」

 「ケンタローをどこかに連れて行こうとしたいのかしら」

 母さんが言う。

「散歩にでも行きたいのかな? ついでに畑でジャガイモ採ってくるよ」

「いってらっしゃい」

「ワンワン!」

 畑に着くなりワンダはそこらを駆け回る。
 僕はワンダをそのまま遊ばせて、イモを掘る事にした。
 沢山掘って、余った物は倉庫にしまっておこう。

「ああ。またご馳走が食べたいな」

 ジャガイモを見ているうちに、あの日食べたご馳走の事を思い出す。

 サクサクとした衣のトンカツ、色とりどりの野菜、唐揚げも美味しかったな……。

 思い出すだけで唾液が出てきた。

「クーン?」

 ワンダが僕の顔を覗き込んでいた。

「あはは。ちょっと変だった?」

「ワンワン!」

 ダダダっと走り出し、元気にまた駆け回るワンダ。

 僕は再びジャガイモを掘る。

 優しい風がサッと僕の体を通り過ぎた。

 遠くにエリーが見えたような気がした。

 立ち上がり、周囲を見渡す。

 誰もいない。

 足元には掘ったイモがゴロゴロと転がっていた。

「そろそろ終わるか」

 片付けが終わる頃には少しだけ日が落ちてきていて、空はゆっくりと夜を迎え入れようとしていた。

「帰ろう、ワンダ」

「ワン!」

 まだ雲は夕焼けにも染まろうとしない時間ではあったが、僕らは家に向かって歩き始める。
 歩いてる内に空はうっすらと赤みを帯びて、一日の終わりが近い事を告げる。

 何体かのロボットとすれ違う。

 知ってるロボットたち。

 こちらに手を振ったり、会釈をしたり。言葉を話す事はできなくても、僕がロボットたちのコミュニティの一員なのだと認めてくれている彼ら。

 いつか、ニンゲンとロボットが戦う日が来たとしても、僕は…………。

 僕は……。

 まだ、その答えを僕は……。

「ワン!」

 いつの間にか僕は家の前に立っていた。

「食用の雑草採るの忘れた」

 籠の中を見てジャガイモしかない事に気付く。

「僕、採ってくるよ」

「ワン!」

 一人で行こうとしたが、ワンダが着いて来た。家に帰そうとしても僕の側から離れないので仕方無く連れていく。

「さあ、真っ暗になる前にさっさと済ませよう」

「ワン!」

 日が落ちきる前に次々に食べられる草をむしり採る。
 ワンダも食べられる雑草を見つけては吠えて知らせる。
 五分もかからずに充分な両が集まった。

 早く帰ろうとワンダに声を掛けようとした時だ。
 ワンダが遠くを見ていた。

「ワンダ?」

「グルル、ワンワン!」

 敵意の籠った吠え方。
 いつもの感じとの違いにこちらもびっくりする。

「ワンワン!」

 僕からは何も見えないが、確実に何かに向かって吠えるワンダ。

「帰ろう。大丈夫だ」

 ワンダの頭を撫でて落ち着かせようした。

「ワンワン!」

 それでも吠えるのを止めなかったので、僕は腰を下ろしてワンダを抱き締める。

「大丈夫だ。目の前には何もいないだろ」

「クーン」

 ようやく落ち着かせた時にはもう暗くなっていた。
 早足で帰る。
 ワンダは辺りを警戒するように、耳をあちこちに向けながら僕の後を着いて来た。

「お帰りなさい。遅かったわね」

「うん。雑草を取り忘れててね」

「そう。心配したのよ」

 僕はイモと雑草の入った籠を母さんに渡した。
 ワンダは母さんに着いていき、僕は洗面所へと向かった。
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