【完結】最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら(瓦礫の街、小さな花束)

田中マーブル(まーぶる)

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第2章:謎の町にて

ニンゲンとロボットとロボットの街と

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「ただいま」

 僕は玄関の扉を開ける。

 ようやく帰って来た我が家。

「おかえりなさい」

「ワンワン!」

「無事で良かった」

 たかが数日の旅。
 それでもこんなに家族と離れるのは初めての経験だった。

 崩れかけた建物が多いこの街と違ったあの町。
 初めて食べるご馳走の数々。

 そして謎の人々。

 不安。

 寂しさ。

 恐怖。

 命の危険を感じたあの事件。

 目まぐるしく甦る記憶。

 僕は泣いていた。

「大丈夫、大丈夫よ」

 母さんが僕を抱き締めてくれる。
 ロボットだけど、ほんのり暖かい。
 この匂い。
 鉄と草の匂い。
 ああ、本当に帰って来たんだ。

「お腹、空いてないか? 何か欲しい物はあるか?」

「もう、お父さんは。今はそっとしてあげて」

「あ、ああ。すまん」

ーーーー

「それでね……」

 夜。
 僕は食事をしながら、あの町での出来事を話す。

 教会。
 地下の施設。
 謎の人々。
 エリーそっくりのニンゲンがガラスケースの中にいた事。
 そして、僕がどんな目に遭ったかも。

「そう」

「大冒険だったな」

「うん」

 じゃがいもを潰した物を口に放る。

「ごめんな」

 父さんのいきなりの謝罪に戸惑う。

「え? 何で?」

「だってな」

「うん」

「いつもこんなじゃがいもばかりだろ? それと他に食べられるのは雑草くらいだ。お前にもっと美味しい物を食べさせてやれないから」

「そんな」

 そんな事全然思ってない。

 でも僕がご馳走の事を喋ってしまったから。

「もう、お父さん! これからって時にそんな事を言うなんて!」

「いや、これからって時だからだよ」

「???」

「まだ。ケンタローはまだ知らなくても良い事よ」

「でも……」

「母さん。どのみち話さなきゃいけない事だ」

「お父さん。最初からそのつもりだったわね」

 何だ、何だ?
 全然着いていけない。

「そうね。お父さんから話してね」

「ああ」

 僕は唾を飲み込む。
 緊張してきて、無意識に持っていたスプーンを机に置いていた。

「ケンタロー。あの町は偽物のニンゲンの町だ」

「???」

 偽物のニンゲン?

「父さんも母さんも知識としてしか知らないがな。エリーさんの生体パーツをあの町に取りに行ったのなら、間違いないはずだ」

「ど、どういう事?」

「エリーさんから説明されてないのか?」

 どうだっただろう。
 多分、何も聞いてないと思う。

「ふむ。直接エリーさんから聞いた方が良いとは思うのだが……。エリーさんはニンゲンに近い見た目だろ?」

「そうだね」

「あれは、皮膚とか一部の機能に本物のニンゲンの身体が使われてるからなんだ」

「何だって!?」

「つまり、半分はニンゲン、半分は機械ってわけだ。だから生体パーツが必要なんだ」

「どゆこと?」

「機械の部分は部品を交換して修理すれば治る。でもニンゲンの身体の部分はそうはいかない。彼女の遺伝子に合わせて造られた機械部品もあるから、オリジナルの生体パーツが必要になるんだ」

「遺伝子が必要なら、彼女自身の皮膚からでも採取できるんじゃないか?」

「そこまでは知らないよ。私たちはエリーさんから旅の目的を聞かされただけだからね」

「そう……」

 全然知らなかった。

「それから。もしかしたら、偽物のニンゲンと争う事になるかもしれないとも聞いている」

「え?」

「最初は私たちも信じてなかったさ。
 偽物とは言え、ニンゲンが存在しているなんて私たちにとってはあり得ない話だったから。だがケンタローの話を聞いて本当の事だって分かったんだ。だからな、だから、ケンタローは、もしロボットとニンゲンの争いが起こった時にどうするか、考えておいて欲しい」

「そんな。いきなりそんな事を言われてもさ」

 僕は机を叩いた。
 食器がガシャンと音を立てて跳ねる。
 冷めてしまった料理が散らかった。

「ケンタロー! お前はあの町ですでに見たんだろ? 地下の町でニンゲンとロボットが争う所を。それがこの街でも起こるかもしれないんだ。少しは想像してたんじゃないか?」

「う……。でも、でもあいつらはあの町から出られないんだ。それはこの目でちゃんと見た」

「地下の町が知られたのなら、外に出る方法だって見つけられるかもしれないだろ」

「そ、それは、そうかも……」

 ニンゲンとロボットがこの街で争う。
 父さんや母さん、ワンダが、あのニンゲンたちに壊されたりしたら……。

 想像して怖くなる。
 体が震えた。

「もう! お父さんたら! ケンタローを怖がらせて!」

「大事な事だ。これはケンタロー自身が自分で決めなければいけない事だ。ケンタローは知らねばならない事だったんだ。だって、私たちは本当の親ではなくて、ただのロボットなんだから……」

「そう、ね。
 ケンタローが本当の両親の事を調べたいなら止められないし。
 ニンゲンの味方をするなら、それも私たちには止める事なんて出来ないわね。
 ケンタローのニンゲンとしての幸せを、ロボットである私たちが与えるなんて無理なのかもしれないものね」

 母さん……。

 僕がニンゲンだから、僕がニンゲンのせいで。
 二人にそんな事を考えさせてたなんて……。

 父さんが僕に謝ったのは僕がご馳走の話をしたからだけど。
 でも、ただご馳走の事だけで謝ったわけじゃなかったんだ。
 ニンゲンとしての幸せを僕に感じさせられなかった、と、思ってしまったからなんだ。

「そんな事ない。僕はロボットでも今の家族が大事だし、本当に家族だと思ってるから!」

「ケンタロー……」

「ありがとう、ケンタロー……」

 僕たちは泣いた。

 父さんも母さんもロボットだけど、きっと泣いてたと思う。涙は流せないけれど、きっと……。


   2章 終わり
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