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第2章:謎の町にて
謎の町と謎の人
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そこはそびえ立つ壁に囲まれていた。
「やあ、君はここへは初めてかい?」
目的地の町に着いた途端、全身黒い衣装の男が話し掛けてきた。
黒の帽子、黒いスーツ、黒い靴。
そして、黒いサングラスに、黒のマスク。
「は、は……」
「いいえ! 違います!」
いきなり手を引かれ、僕は謎の人物と別れた。
「あなた、ここの住人について行っちゃダメ。それがこの集落でのルール」
真剣な顔で彼女は言った。
僕にはその理由が分からない。
何故、ここにはニンゲンがいるのか。
何故、ここのニンゲンに着いて行ってはいけないのか。
僕はただ彼女に着いて歩く他なかった。
道を歩けば僕と同じように服を着て歩く人がいる。
人類は滅亡したと聞いて生きてきたのに。
学校でもそう習ったし、僕が住んでいる街では僕以外にニンゲンはいなかった。
だから、本当に自分以外にニンゲンがいるなんて思わなかった。
男も女も大人も子供も老人も。
色んな人が町を歩いている。
談笑し、食事をし、ゲームをし、そんなニンゲンの懐かしい日常がここにはあった。
「ねえ、エリー。本当にニンゲンは滅びたの? 僕以外のニンゲンには会った事無いって言ったよね? ここは初めて来たの?」
矢継ぎ早に疑問をぶつける。
他にも聞きたい事はあった。
でも、彼女は何も答えない。
無言で町を突っ切るように歩き続ける。
「ねえ、お二人さん。どこから来たの?」
「こんにちは。良かったらお話でもしていかない?」
「おい! お前ら! 無視すんじゃねえぞ!」
何度も何度も誰かが僕たちに声を掛けていく。
それを全部振り払って、僕は彼女の後をひたすらに着いて歩く。
だんだんと喉が渇く。
もう、随分歩いたから。
そういえばこの町に着いてから何も口にしていない。
少し休みたい。
この町に来るのにだって半日以上掛かったのだ。
アンドロイドの彼女と違って、僕はニンゲンだ。
疲れたよ。
疲れた。
あの時みたいに……。
「ねえ、休憩しようよ。僕、もう、クタクタだよ」
前を歩く彼女の背中に話し掛ける。
「…………」
彼女は無言で歩き続ける。
止まる気配はなかった。
あの時も僕はただ彼女を追いかけてた。
置いていかれないように必死だった。
並木道のずっと先に建物が見えた。
蔦が絡まっている洋館。
そこだけが別の世界のようだった。
「目的の場所はあそこなの?」
僕はまた彼女に問う。
「…………」
彼女はまた返事もなく歩き続けていた。
でも、確実に、洋館に向かって歩いていた。
僕は、あそこがゴールだと、もうすぐだ、あそこに着いたら休めるんだと、何度も自分に言い聞かせて歩みを続けた。
洋館が大きく見えてきた。
思ったよりもずっと大きな建物。
そう。
本で見た教会という物に近い。
もしかしたら、ここも教会なのかもしれない。
初めて見る教会の神聖な佇まいに、僕は疲れなど忘れてしまっていた。
いつの間にか前を歩いていたはずの彼女が僕の隣にいる。僕は彼女と並んで歩いている。
「キレイだね」
僕は自然とそう言っていた。
彼女はやはり黙ったままだった。
ただ、彼女の手が僕の手を握る。
彼女からの返事、なのだろう。
僕は彼女の手を握り返す。
皮膚の感触の奥に機械を感じる。
これがアンドロイドなんだ。
ニンゲンでもロボットでもない存在。
初めてアンドロイドを感じたのかもしれない。
本当の彼女の一端を知る事ができたような気がした。
「着いたわ」
教会の入口に立った時、ようやく彼女は口を開いた。
「早く休もう。僕、喉は渇くし、疲れたし、しばらく動きたくないくらいだよ」
「ごめんなさい。どうしても早くここに来なければならなかったから……」
彼女はそう言って頭を下げる。
ここの人たちと関わらないようにしていたけど、それと何か関係があるのだろうか。
きっと彼女から説明されるだろう。
今はやっと休む事ができるという喜びの方が大きく、僕は早速近くにあった椅子にドカッと座った。そして、そのままウトウトと眠ってしまっていた。
遠くで彼女の声がする。
「こんな所で寝ないで……」
僕はもう眠気に抗う気力は欠片もなかった。
「やあ、君はここへは初めてかい?」
目的地の町に着いた途端、全身黒い衣装の男が話し掛けてきた。
黒の帽子、黒いスーツ、黒い靴。
そして、黒いサングラスに、黒のマスク。
「は、は……」
「いいえ! 違います!」
いきなり手を引かれ、僕は謎の人物と別れた。
「あなた、ここの住人について行っちゃダメ。それがこの集落でのルール」
真剣な顔で彼女は言った。
僕にはその理由が分からない。
何故、ここにはニンゲンがいるのか。
何故、ここのニンゲンに着いて行ってはいけないのか。
僕はただ彼女に着いて歩く他なかった。
道を歩けば僕と同じように服を着て歩く人がいる。
人類は滅亡したと聞いて生きてきたのに。
学校でもそう習ったし、僕が住んでいる街では僕以外にニンゲンはいなかった。
だから、本当に自分以外にニンゲンがいるなんて思わなかった。
男も女も大人も子供も老人も。
色んな人が町を歩いている。
談笑し、食事をし、ゲームをし、そんなニンゲンの懐かしい日常がここにはあった。
「ねえ、エリー。本当にニンゲンは滅びたの? 僕以外のニンゲンには会った事無いって言ったよね? ここは初めて来たの?」
矢継ぎ早に疑問をぶつける。
他にも聞きたい事はあった。
でも、彼女は何も答えない。
無言で町を突っ切るように歩き続ける。
「ねえ、お二人さん。どこから来たの?」
「こんにちは。良かったらお話でもしていかない?」
「おい! お前ら! 無視すんじゃねえぞ!」
何度も何度も誰かが僕たちに声を掛けていく。
それを全部振り払って、僕は彼女の後をひたすらに着いて歩く。
だんだんと喉が渇く。
もう、随分歩いたから。
そういえばこの町に着いてから何も口にしていない。
少し休みたい。
この町に来るのにだって半日以上掛かったのだ。
アンドロイドの彼女と違って、僕はニンゲンだ。
疲れたよ。
疲れた。
あの時みたいに……。
「ねえ、休憩しようよ。僕、もう、クタクタだよ」
前を歩く彼女の背中に話し掛ける。
「…………」
彼女は無言で歩き続ける。
止まる気配はなかった。
あの時も僕はただ彼女を追いかけてた。
置いていかれないように必死だった。
並木道のずっと先に建物が見えた。
蔦が絡まっている洋館。
そこだけが別の世界のようだった。
「目的の場所はあそこなの?」
僕はまた彼女に問う。
「…………」
彼女はまた返事もなく歩き続けていた。
でも、確実に、洋館に向かって歩いていた。
僕は、あそこがゴールだと、もうすぐだ、あそこに着いたら休めるんだと、何度も自分に言い聞かせて歩みを続けた。
洋館が大きく見えてきた。
思ったよりもずっと大きな建物。
そう。
本で見た教会という物に近い。
もしかしたら、ここも教会なのかもしれない。
初めて見る教会の神聖な佇まいに、僕は疲れなど忘れてしまっていた。
いつの間にか前を歩いていたはずの彼女が僕の隣にいる。僕は彼女と並んで歩いている。
「キレイだね」
僕は自然とそう言っていた。
彼女はやはり黙ったままだった。
ただ、彼女の手が僕の手を握る。
彼女からの返事、なのだろう。
僕は彼女の手を握り返す。
皮膚の感触の奥に機械を感じる。
これがアンドロイドなんだ。
ニンゲンでもロボットでもない存在。
初めてアンドロイドを感じたのかもしれない。
本当の彼女の一端を知る事ができたような気がした。
「着いたわ」
教会の入口に立った時、ようやく彼女は口を開いた。
「早く休もう。僕、喉は渇くし、疲れたし、しばらく動きたくないくらいだよ」
「ごめんなさい。どうしても早くここに来なければならなかったから……」
彼女はそう言って頭を下げる。
ここの人たちと関わらないようにしていたけど、それと何か関係があるのだろうか。
きっと彼女から説明されるだろう。
今はやっと休む事ができるという喜びの方が大きく、僕は早速近くにあった椅子にドカッと座った。そして、そのままウトウトと眠ってしまっていた。
遠くで彼女の声がする。
「こんな所で寝ないで……」
僕はもう眠気に抗う気力は欠片もなかった。
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