【完結】最後の人類の僕と唯一のアンドロイドの彼女が出会ったら(瓦礫の街、小さな花束)

田中マーブル(まーぶる)

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第1章:アンドロイドの少女

アンドロイドの少女と秘密の場所

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 昨日の今日でまた会えるとは思わないけど、期待だけはしてしまう。ニンゲンとはそういうものなんだろう。ロボットの父さん母さんには理解できない感情だ。
 崩れかけのビルが建ち並ぶ道を歩く。ガラスは割れたまま、傾いたビルも直る事はない。過去の人類の栄華はことごとく崩壊に向かっている。
 家と学校を往復する日々。ロボットしかいない世界でたった一人のニンゲンの僕はどう生きるべきなのだろう。

「あ」

 つい声が漏れ出る。
 あの子だ。
 アンドロイドの彼女。
 今日も花束を持って何処かへ行く。
 淡々とただ生きるだけだった僕の生活は、昨日、彼女を見た時に変わろうとしていたのかもしれない。
 僕の事に気づいていない様子の彼女。何故だか僕は彼女の後の追う事にした。自然とそうするのが当然のように思えた。

ーーー

 彼女はビルを抜け橋を渡る。
 河を越えた先は雰囲気が違って感じる。
 住宅街というのだろう。一軒家が多く並ぶエリアだ。年月が経ち崩れて瓦礫の山になった家がポツポツと点在している。しっかりと建っている家も植物に侵食されていて、家としての機能が果たせるのか疑問になるくらいだ。
 鳥の声がした。
 鳥の鳴き声なんて初めて聞いた。
 植物がこれだけあるという事は、鳥の食料になる昆虫なんかも十分にいるという事なんだろう。
 僕が住んでいる辺りは、野草を採る空き地以外に生き物がいそうな場所はなかったから、新鮮な体験だ。
 初めての場所、経験にドキドキと胸は高鳴る。あちこちの家が気になる。お店の跡、本物の学校らしき建物、誰かが住んでいた家々。ここにはニンゲンが生活してたという事がはっきり分かる物で溢れていた。ロボットだらけの街にいるより、ここの方が心地よく暮らせるんじゃないかって考えてしまう。

 ようやく彼女が目的地に着いたらしい。
 とある建物へと入っていく。
 門をくぐった彼女は建物の中へは入らず奥へ進む。
 四角い石が並ぶエリアのある地点に来ると彼女は立ち止まった。

 ここはどういう施設なんだろう。
 僕はニンゲンではありながら、ニンゲンの事が分かっていない。そう感じた。

「あなた。こんな所に何の用かしら」

「え?」

「私の後を着けてきたの?」

「あ、うん」

 彼女の問いに僕はしどろもどろになりながらようやく返事をした。

「そう。ここがどんな所が知ってるの?」

「いや、全然。僕はニンゲンなのに、ニンゲンの習慣も文化も全然知らないんだって思ったよ」

「あなたニンゲンなのね?」

 驚いた表情になる彼女。
 ロボットではこんな事は出来ない。
 父さんや母さんは一度だって表情を変えた事などない。いや、変えようがないんだけど。

「君は、何者?」

「私の質問に質問で返さないで」

「う、あ、そ、そうだね。確かに僕はニンゲンだ。ケンタローって名前がある」

 僕は胸に手を当て言った。手が震えてた。ドキドキする。鼓動が強くなるのを感じた。

「ニンゲン。そう、あのニンゲン……」

「ニンゲンがいるって言っても、僕だけ。僕は一人ボッチなんだよ。だからニンゲンみたいな君を見て気になってしまったんだ」

「でも、私もニンゲンでは無いわ。分かってるんでしょ?」

「そうだけど。でも君はロボットとも違うじゃないか」

「そうね。私はアンドロイドだもの。ロボットとは、少し、違うわ」

 彼女の顔が微かに曇る。

「でも君はニンゲンみたいじゃないか」

「所詮はニンゲンみたいな物なのよ。ニンゲンじゃない」

「それがイケナイ事なの?」

「ニンゲンのあなたには分からない事よ」
 そう言ってから彼女は何も言わなくなった。

「僕、一人では帰れないんだけどさ……」

「…………」

「ここ初めてだから道が分からなくて」

「…………」

「ここは何をする所なの?」

「…………」

 僕もいつしか何も言わなくなった。言えなくなった。彼女のする事を見ているだけになる。

 文字の刻まれた四角い石に花を手向け、手を合わせ何か祈る。凛とした空気。ここが特殊な場所なんだとようやく理解した。何が特殊なのかは分からないけれど、僕が軽々しく立ち入るべきではない場所なんだ。

「…………」

 彼女が僕を見る。
 何も言葉を発しないけれど、多分「帰るから着いて来い」というメッセージだろう。
 僕の前を彼女が歩く。
 僕は彼女の後ろを着いて行く。
 何故か少し懐かしさを覚えた。
 そんな記憶なんてないはずなのに。
 橋を渡り終えた所で彼女は振り返って僕を睨む。

「もう自力で帰れるでしょ。もう私には構わないで」

 そう言い残してそそくさと去ってしまった。もっと聞きたい事があったのに。呼び止める間もなく、彼女の背中はすぐに遠くなっていった。

「また会いたいな。今度はもっと話したいな。名前も知らない。まずは名前を聞かなきゃ」

 僕は一人呟く。
 日が暮れてきた。
 僕は急いで家へと向かう。
 
 明日も彼女に会えるだろうか。
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