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襲撃4
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「ひぃぃ!ひぃぃぃぃぃ!!」
腰を抜かし、汚れるのも構わず地面を這いずりながら上がり続けるひきつったような声と、ランプを思わず払い除けた金属音に反応するかのように、カウンターチェアに「設置」されたロングヘアの女は右目をギュルギュルと動かし大粒の涙を流した。
その女は両手足を根本近くまで失っており、さの切り口の先は止血のためか丁寧に炙られ、白い肌がうっすらと焦げ目がつけられてあった。見開いたその両目の一つは、ぽっかりとした穴が空きそこにあるべき物がなくなっていた。
椅子の上のその女は、潰れたようなしゃがれ声で呻きながら助けを求めるように、体をグネグネと動かし続ける。
どうやら腰元をしっかりとベルトで固定されているらしく、まるで虫の幼虫のように上半身を動かすことしかできないらしい。
薄ぼんやりとした中で浮かび上がるその姿はまさに異様であり、アリエラを怯えさせるには充分だった。
「もう...もうやだ!やだぁぁ!」
発狂したように髪を両手でかきむしりながら、小屋の中で大声をあげるアリエラ。
そのまま、叩きつけるように床に両手をつくと払い除けたランプを手探りで探す。
一刻も早くここから逃げ出したかったが、暗闇の中を灯りもなく逃げたくもなかった。
落とされた衝撃のせいか、ランプの光は小さくなり細かく点滅をしていた。
そんな頼りない灯りを探していると、アリエラの頭上で、ノイズ音のような耳障りな叫び声が響く。
「うるさい!静かにしろ!!」
思わず耳を塞ぎたくなるようなそれを至近距離でくらった彼女は、跳ねるように立ち上がると目を血走らせながら、先ほどの恐怖心も忘れて怒鳴り付けた。
だが、叫び続けていたそれはアリエラことを見てはおらず、その絶望に染まった瞳はアリエラの背後を見ながら明らかに狼狽していた。
恐らく、通常時であればその様子のおかしさに気づくことができただろう。
しかしこの異常な空間が判断を鈍らせていた。
彼女は気づくことができなかった。
背後からゆっくりと近づいてきた人物は、足元に落ちていたランプを軽くつまみ上げると、台座のそこにあるスイッチを一度押す。
ささやかながらも光っていたものがなくなり、アリエラはとっさにあたりを見回す。
その時にようやく、下の方から聞こえる獣の気配とは別のものを感じた。
暗闇で見えはしないが、自分の正面に立つ誰かがいる。
そう認識をした時だった。
ちくりとした痛みが腹部に感じると同時に、アリエラはそれが何かを考えるまもなく、全身を貫く電流によって立ち上がることができなくなった。
アリエラが意識を完全に失ったのを見届けた暗闇の人物は、片手に持っていたランプを軽く叩くと再度スイッチをいれる。
どうやら一時的な不具合だったのか、今度はしっかりと光だし、その明るさは冷たい瞳を写し出しながら最初に設置されていた棚へ戻っていく。
先ほどまで金切り声をあげていたそれは、うってかわって静かになり、チェアから落ちそうになるほど震えながら、不自由な目でその人物の動きを追っていた。
そんな様子を見た狩人の一人は、そっと手を伸ばすと優しくその頬を撫でた。
ひんやりとした手が皮膚についた土埃を丁寧に払う。
そしてその怯えた顔をした少女らしきものに向かい、まるで小さい子に言い含めるような口調で語り始めた。
「助けてほしかったのかい?助けてもらって、明るい場所にもう一度戻りたかった?」
頬に触れていた左手をゆっくりと上に移動させ、前髪をかきあげる。
ぼんやりとしたライトの明かりに照らされた、元は整っていたであろう左目を失った顔を、切れ長な茶の瞳が捉えた。
「そんな体で、戻りたいの?」
一文字ずつはっきりと発音するような口調だった。
「両手足のない壊れた人形みたいな体で、片目しかない顔で、焼かれて潰された声で、戻りたかったのか?」
まるで少女の意志を確認するかのように、執拗に話しかける。
残った片目から、再度涙が流れ出す。
「きっと君の親はとても素晴らしい人達なんだろう。そんな体になっても、優しく抱き締めてくれて、生きてて良かったと言ってくれるような」
静かに涙を流す少女に向かい、穏やかに語りかける。
どこか冷ややかな印象を持たせる顔立ちが、薄暗いこの空間でさらに際立っていた。
「でもな」
薄い唇が、歪みを見せる。
「そんな綺麗なもんじゃねえよ。親なんて」
前髪を抑えていた左手に、力がこもる。
ブチブチと音をたて、頭皮から髪の毛がちぎれ落ちる感触を感じ、かすれた悲鳴をあげ始めた少女を気にもかけず話しを続ける。
「虫みてぇに這いずり回るしかない、汚物も垂れ流しの娘を、いつまでも聖人のように見守ると思うか?世話すると思うか?いっそ死んでくれって思われないと考えないのか?普通のガキでも思われるのに、こんな体のお前が、思われないと本気で思うのか?」
先ほどまでからは考えられないほど豹変し、嫌悪を丸出しにし吐き捨てるように毒をつくと、片手に絡み付いた長髪を乱暴に払い落とす。
その目線の先には床に伸びている馬鹿な女。
なぜだか知らないが、この女を見ると腹が立つ。
心の奥底からムカムカと、なんとも言えない感情が込み上げてくるのだ。
男はため息を一つ吐くと、嫌々ながらアリエラを担ぐ。
例の安物の香水がさらなる苛立ちを呼ぶが、奥歯をぎりぎりと食い縛り、行き場のない怒りを抱えながらその場を後にする。
残されたのは相変わらず泣き続ける少女と、自らの主人を見送る犬たちのみだった。
腰を抜かし、汚れるのも構わず地面を這いずりながら上がり続けるひきつったような声と、ランプを思わず払い除けた金属音に反応するかのように、カウンターチェアに「設置」されたロングヘアの女は右目をギュルギュルと動かし大粒の涙を流した。
その女は両手足を根本近くまで失っており、さの切り口の先は止血のためか丁寧に炙られ、白い肌がうっすらと焦げ目がつけられてあった。見開いたその両目の一つは、ぽっかりとした穴が空きそこにあるべき物がなくなっていた。
椅子の上のその女は、潰れたようなしゃがれ声で呻きながら助けを求めるように、体をグネグネと動かし続ける。
どうやら腰元をしっかりとベルトで固定されているらしく、まるで虫の幼虫のように上半身を動かすことしかできないらしい。
薄ぼんやりとした中で浮かび上がるその姿はまさに異様であり、アリエラを怯えさせるには充分だった。
「もう...もうやだ!やだぁぁ!」
発狂したように髪を両手でかきむしりながら、小屋の中で大声をあげるアリエラ。
そのまま、叩きつけるように床に両手をつくと払い除けたランプを手探りで探す。
一刻も早くここから逃げ出したかったが、暗闇の中を灯りもなく逃げたくもなかった。
落とされた衝撃のせいか、ランプの光は小さくなり細かく点滅をしていた。
そんな頼りない灯りを探していると、アリエラの頭上で、ノイズ音のような耳障りな叫び声が響く。
「うるさい!静かにしろ!!」
思わず耳を塞ぎたくなるようなそれを至近距離でくらった彼女は、跳ねるように立ち上がると目を血走らせながら、先ほどの恐怖心も忘れて怒鳴り付けた。
だが、叫び続けていたそれはアリエラことを見てはおらず、その絶望に染まった瞳はアリエラの背後を見ながら明らかに狼狽していた。
恐らく、通常時であればその様子のおかしさに気づくことができただろう。
しかしこの異常な空間が判断を鈍らせていた。
彼女は気づくことができなかった。
背後からゆっくりと近づいてきた人物は、足元に落ちていたランプを軽くつまみ上げると、台座のそこにあるスイッチを一度押す。
ささやかながらも光っていたものがなくなり、アリエラはとっさにあたりを見回す。
その時にようやく、下の方から聞こえる獣の気配とは別のものを感じた。
暗闇で見えはしないが、自分の正面に立つ誰かがいる。
そう認識をした時だった。
ちくりとした痛みが腹部に感じると同時に、アリエラはそれが何かを考えるまもなく、全身を貫く電流によって立ち上がることができなくなった。
アリエラが意識を完全に失ったのを見届けた暗闇の人物は、片手に持っていたランプを軽く叩くと再度スイッチをいれる。
どうやら一時的な不具合だったのか、今度はしっかりと光だし、その明るさは冷たい瞳を写し出しながら最初に設置されていた棚へ戻っていく。
先ほどまで金切り声をあげていたそれは、うってかわって静かになり、チェアから落ちそうになるほど震えながら、不自由な目でその人物の動きを追っていた。
そんな様子を見た狩人の一人は、そっと手を伸ばすと優しくその頬を撫でた。
ひんやりとした手が皮膚についた土埃を丁寧に払う。
そしてその怯えた顔をした少女らしきものに向かい、まるで小さい子に言い含めるような口調で語り始めた。
「助けてほしかったのかい?助けてもらって、明るい場所にもう一度戻りたかった?」
頬に触れていた左手をゆっくりと上に移動させ、前髪をかきあげる。
ぼんやりとしたライトの明かりに照らされた、元は整っていたであろう左目を失った顔を、切れ長な茶の瞳が捉えた。
「そんな体で、戻りたいの?」
一文字ずつはっきりと発音するような口調だった。
「両手足のない壊れた人形みたいな体で、片目しかない顔で、焼かれて潰された声で、戻りたかったのか?」
まるで少女の意志を確認するかのように、執拗に話しかける。
残った片目から、再度涙が流れ出す。
「きっと君の親はとても素晴らしい人達なんだろう。そんな体になっても、優しく抱き締めてくれて、生きてて良かったと言ってくれるような」
静かに涙を流す少女に向かい、穏やかに語りかける。
どこか冷ややかな印象を持たせる顔立ちが、薄暗いこの空間でさらに際立っていた。
「でもな」
薄い唇が、歪みを見せる。
「そんな綺麗なもんじゃねえよ。親なんて」
前髪を抑えていた左手に、力がこもる。
ブチブチと音をたて、頭皮から髪の毛がちぎれ落ちる感触を感じ、かすれた悲鳴をあげ始めた少女を気にもかけず話しを続ける。
「虫みてぇに這いずり回るしかない、汚物も垂れ流しの娘を、いつまでも聖人のように見守ると思うか?世話すると思うか?いっそ死んでくれって思われないと考えないのか?普通のガキでも思われるのに、こんな体のお前が、思われないと本気で思うのか?」
先ほどまでからは考えられないほど豹変し、嫌悪を丸出しにし吐き捨てるように毒をつくと、片手に絡み付いた長髪を乱暴に払い落とす。
その目線の先には床に伸びている馬鹿な女。
なぜだか知らないが、この女を見ると腹が立つ。
心の奥底からムカムカと、なんとも言えない感情が込み上げてくるのだ。
男はため息を一つ吐くと、嫌々ながらアリエラを担ぐ。
例の安物の香水がさらなる苛立ちを呼ぶが、奥歯をぎりぎりと食い縛り、行き場のない怒りを抱えながらその場を後にする。
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