前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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乗り越えるべき壁

優秀な近衛騎士たち

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「____って感じでその場を静まり返らせたサラフィーナ殿下があ、大丈夫だよ~、神は全て見てて手を差し伸べてくれるよ~、ついでに国も色々動いてくれてるよ~、って色々熱弁して~、その言葉や姿に民衆が感動して~、今やサラフィーナ殿下は聖女として崇められてます~」

ヘルレヴィ旧男爵邸にて。ついさっき俺たちと合流したサムエルは、にっこにこの笑顔で帝都での出来事、主にサラフィーナ姉上第一皇女の武勇伝について語ってくれたが、その内容に俺は頬が引きつった。

「……へ、へえ。ま、まあそれで帝都の混乱が治まったなら良いのですが……サラフィーナ姉上は大丈夫でしょうか……主に精神的に」

「ん~。サラフィーナ殿下は胃が痛いって言ってましたね~。あの方は本来目立つことが苦手ですからあ」

「耳の良い姉上にとっては、賞賛の声すらもいたたまれない気持ちになるでしょうね……」

「ですがまあ、殿下ならいずれ慣れるでしょう~」

サムエルがサラフィーナ姉上のことを知った口で語るので、俺はきょとんとした。サムエルとサラフィーナ姉上の接点は、今回の件で二回目だったはず。諜報員として色々情報を仕入れていたとしても、まるでよく知る相手のように語るのは不自然だ。まあサムエルなら有り得るっちゃ有り得るか。サムエルは変人ブーメランだからな!

「何にせよ~殿下あ、今回は僕のお願いを聞いてくれてありがとうございます~お陰で山積みだった問題が色々解決しましたあ」

「いえいえ、ぶっちゃけ、今回の作戦においてサムエルはそこまで重要ではありませんでしたし。いたら都合が良いって感じでしたから。それに問題を解決出来たなら、そのまま帝都に残っていても良かったのですよ?なのにここまで律儀に来てくれたのですから、感謝ならこちらが言うべきですよ」

俺の言葉にサムエルは少し困ったように笑った。実はサムエルは帝都を出発する数日前に、この作戦への不参加を申し出ていた。なんでも帝都でしなくてはならないことが山積みだったらしく、そちらを早急に解決したかったそうな。先程も言った通り、この作戦におけるサムエルの重要度はむしろ低い方だったので、父上皇帝の許可が降りたら別に構わないよ、とサムエルにはその時伝えた。そして父上皇帝にこのことを話すと、二つ返事で了承してくれた。多分俺より先に父上皇帝に話をつけてたんだろうな。なのに律儀に俺からも了承を得ようとしたのだから、意外とサムエルにも俺の専属護衛騎士だって自覚はあるみたい。本当に意外だけど。

「ええ~?でも~殿下のお側の方が楽しいですし~何か役に立てればと思いまして~」

「……そう、ですか」

俺はサムエルの言葉を意外に思った。サムエルは歌にしか興味ないから、極論俺のこととかどうでも良いのだと思ってた。今の宮殿なら、サムエルがどれだけ歌っていても咎められないだろうし。てか皆てんてこ舞いで、咎める暇もないだろうからね。それでもサムエルは俺といた方が楽しいし、俺の役に立ちたいって思ってくれている。なんかちょっと……嬉しいな。

そんなことを思っていると、背後から小走りで誰かが近づいてきている気配を感じた。

「殿下ー!治癒院の方の現状報告に来たッス!」

「おい、アスモ。走ったら危ないだろ」

「オリヴァはそうやっていつも俺を子供扱いする!」

振り返るとそこにはアスモ薬師騎士が小走りでこちらにやって来ており、その後ろから呆れた様子のオリヴァ伴侶全肯定botが歩いて近づいて来ていた。俺は身体をそちらに向ける。

「アスモ、オリヴァ、お疲れ様です。そちらは順調そうですか?」

「はいッス!アルバーニ公国のあの……何ですっけ?チェルシー?って奴に吐かせた技術が役立ってるッス!」

「吐かせたと言えば聞こえが悪いですが、まあ役立っているなら良かったです。それとチェルシーではなく、チェルソですよ」

アスモは「そうだったッスか?」と悪びれもなく言う。アスモらしいというか、興味のないことに脳の容量を裂きたくないってのがひしひしと感じられる。まあその代わり興味のあること薬学全般の知識への信頼は絶大なんだけどね。だからこそチェルソからの情報をアスモに伝えたんだし。

実は皇族殺人未遂の罪で投獄中のチェルソからは、事情聴取と並行して魔力操作学についての知識も聞き出している。チェルソについてはアルバーニ公国チェルソの母国から直々に「どう扱っても構わない」って許可を得てるからね。どうせ処刑されるなら帝国に有益な情報を落として行けと言う訳だ。

そしてそこから得た魔力操作学の知識をまとめ、アスモに教えた。もちろん、父上皇帝から許可を得てる。物を使って人間の身体に何らかの影響を与える力を、良いように使えないかと思ったのだ。例えば、魔力の影響を受けた身体を、平常時の状態に戻したりだとか。アスモは優秀な薬師だから、魔力操作を上手いこと薬に応用してくれるんじゃないかって期待して情報を渡したら、期待以上の働きをアスモはしてくれた。なんてったって、帝都を出発するまでに臨床実験の段階の薬にまで開発を進めたんだから。凄すぎて経過報告を聞いた時顎が外れるかと思った。比喩だけど。

そして今はヘルレヴィ旧男爵領にて、魔力の影響を受けて弱っている人々にその薬を投与し、その効果を検証している所だ。もちろん薬が試作品段階であることは、患者にも伝えてある。それに同意してくれた人にのみ薬を服用してもらい、身体の変化を教えてもらっているのだ。

「薬の効果は人によってまちまちって所ッスね。中には全く効かなかった人もいたッス。まあそれはどの薬にも言えることッスけどね。副作用としては多少の倦怠感と吐き気が発見されたッスけど、どれもごくごく短期間なものッス。これなら市販薬としても申し分ないッスよ」

「……そうですか。ですがまだ改善点はあるでしょう。引き続き薬の開発の方をよろしくお願いします」

「もちろんッス!腕が鳴るッスよ~!」

アスモは肩を回しながら快活にそう答えた。良い薬を作ろうと、どこまでも探究していくアスモには、魔法陣学者として共感しかない。だからこそアスモが信頼出来るんだ。

まあ探究心が強すぎて偶に暴走しそうになるから、ストッパーが必要なんだけどね。

「オリヴァ、アスモが頑張りすぎて暴走しないように見守ってくださいね」

「ああ、アスモのことは任せとけ」

オリヴァは自信満々に頷いた。本来なら俺の護衛に就くはずだったオリヴァだが、正直俺の護衛はそこまで必要じゃない。命の危険があるのは、作戦を実行する時ぐらいだからね。それもヴァイナモがいれば十分だ。オリヴァが俺の傍にいても人手を持て余すだけだろうから、アスモの手伝いをお願いしている。被害者の保護も、俺たちの重要な任務だからね。

……まあアスモ全肯定botなオリヴァが本当に土壇場でアスモの暴走を止められるかと聞かれたら、何とも言えないけど。オリヴァらアスモさえ関わらなければ常識人だけど、アスモが関わると途端に突拍子のない行動を起こしかねない。こればかりはオリヴァがアスモの意思よりアスモの安全の方を優先してくれると信じるしかない。

俺は何とも言えない感情を抱えながら、意気揚々とその場を去る2人を見送った。
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