202 / 219
乗り越えるべき壁
ダーヴィドの身の上
しおりを挟む
その会議の翌朝、俺たちは早速ヴァルヴィオ子爵領から出発して、拠点となるヘルレヴィ旧男爵邸へ向かった。元々隣合っている領地であるため、そこに着くのには一日もかからなかった。もちろんこれまで同様、多少無理をしたからではあるが。
そして俺たちは着くや否や、作戦に向けての準備に取り掛かっていた。
「ダーヴィド殿、言われた通り、魔窟付近の土地の地形や高低差のより詳細な情報を計測してきたぞ。まあ魔窟付近と言いつつ、ほとんど魔窟には近づくことは出来なかったが」
「ええ、それで構いません。ありがとうございます」
俺が封印魔法陣の最終点検をしていると、視界の端でダーヴィドが帝国軍兵から大きめの紙を数枚受け取っているのが見えた。紙は恐らく帝国軍兵たちが大急ぎで作成した、地形図やらなんやらの資料であろう。帝国軍兵は戦争を目的として組織されているから、戦場の地形の把握と周知のために、地形図の書き方などを叩き込まれるのだ。ダーヴィドは今、作戦の二次被害を出来るだけ無くせるよう、効率がよく安全性の高い防御魔法陣の配置を考えているのだ。
「……ふむ。やっぱり現地に行ってみないと、実際の様子とかはわからないものだね。クスター、出番だよ。今から書き表していく計算式を、片っ端から計算していって」
「わかった」
ダーヴィドは帝国軍兵から受け取った資料とにらめっこしながら、白紙の紙にすらすらと何かを書いていく。視線は資料に集中しており書く手元は一切見ていない様子だった。ダーヴィドの隣にいるクスターはその書かれた内容を見ながら、次々と何かを書き足していく。それを見たダーヴィドが、資料に何か書き足す。そんな作業を繰り返していた。
……なんという流れ作業。職人技みたいだな。一体どんなことをしてるんだ?
俺は2人の作業内容が気になり、自分の作業の手を止めて2人の元へ向かうことにした。
「……うわぁ、えげつない計算式ばかりですね……」
「あっ、殿下!お疲れ様です!」
「……皇子殿下様、お疲れ様です」
俺が2人が色々と書き連ねている紙を覗き込んで思わず声を漏らすと、2人は手を止めて挨拶してくれた。ダーヴィドはいつもと変わらない笑顔だが、クスターは未だに俺の顔を見るとビクッと肩を揺らして縮こまってしまう。う~ん。もう宿屋の一件のことは気にしてないんだけどなあ。
「ああ、作業の手を止めてしまってすみません。あまりに綺麗な流れ作業をしていたので、つい気になって。……それにしても、このひたすら桁数の多い計算式で何がわかるのですか?」
「防御魔法陣や結界魔法陣の数には限りがありますから、より少ない数で魔窟を綺麗に囲み込められるように、魔法陣間の距離を計算しています」
「……へえ。ダーヴィドはこういう計算をするってわかっていたから、クスターを連れて来たいって言ってきたのですね」
「はい。私が計算機を使って計算するのでも良かったのですが、何分数が多いですし、クスターが暗算する方が速くて正確ですから」
ダーヴィドがニコッとクスターに笑いかけると、褒められて満更でもないのか、クスターは控えめにニヤッとした。ライラが言うには、クスターは人見知りが激しいらしい。今までダーヴィドとはあまり関わる機会もなかっただろうから、人見知りが発動しているのだろう。
そう、以前ダーヴィドが俺に話を持ってきた今回の作戦に連れて来たい人物とは、クスターのことだった。俺はクスターの名前を聞いた時、その意図がわからなくて首を傾げた。ダーヴィドは「現地で膨大な数の計算をする必要があるから、計算の得意な人材が欲しい」と説明したが、そもそも何故計算をする必要があるのか理解出来なかった。まあ最終判断をするのは父上であったから、その旨を書面にして父上に報告すると、割とあっさり認められた。あんなにアルットゥリ兄上に対して「必要以上の人材を現地に派遣できるかボケェ!(意訳)」って言ってたのにね。ちょっと拍子抜けした。まあクスターは成人男性でガタイも良いし、いざと言う時に自分の身は自分で守れるだろうけど。
「……ならこの計算が終われば、早速現地に向かって魔法陣を配置していくのですね?」
「ああ、いえ!まだ魔法陣一つに対して必要な魔力量から必要となる総魔力量を計算して、必要な派遣人数を出したり、いつ頃魔法陣の交換を行うべきか割り出したりもしますよ」
「ええ……?そこまでしなくても、帝国軍兵はかなりの人数いますので、人手に困ることはありませんし、そこまでやりくりしなければいけないほど魔法陣の数も少なくないですよ?」
「備えあれば憂いなし、と学者根性が融合した結果ですよ!」
ダーヴィドは良い笑顔でそう言った。ダーヴィドって恋バナ大好き人間って印象が強いけど、やっぱり帝国学院まで進学して研究してただけあって、ちょっと研究者気質な所があるみたい。魔法学とか魔力学の知識も豊富だし。……ここまで来ると、なんでダーヴィドは研究者にならずに騎士になったのか、不思議だな。
俺はふと感じた疑問を、何の気なしにダーヴィドに聞いてみることにした。
「……ダーヴィドって帝国学院にまで進学したのに、何故そのまま研究者にならずに、全く関係のない分野である騎士の道を選んだのですか?」
「……あ~、えっと……。一時期、私も学者の道を進もうと考えていたのですが、そのことを聞くと婚約者が『学者なんて金食い虫で恥ずかしいから辞めて』と言い出しまして……。それで婚約者が、給料の良い騎士になりなさいって、勝手に入団募集に応募してしまって、手を抜いたはずなのに何故か入団試験にも合格してしまって、そのまま……」
「……えっ?ダーヴィド、婚約者がいるのですか?初耳です」
俺はぱちくりと目を見開いた。ダーヴィドから婚約者の話を聞いた事などなかったから、てっきりフリーかと思ってたのだ。俺の驚いた反応に、ダーヴィドは気まずそうに頬をかいた。
「……まあ、一応……。政略結婚ですし、向こうは年老いて自分の相手をしてくれる男が寄って来なくなったから、その代わりに、って感じですし……。未だに婚約者止まりなのも、残ってる数少ない言い寄ってくる男性との関係を正当化するためだったりしますし……」
ダーヴィドは苦笑いして言いにくそうにそう話した。何かダーヴィドも色々複雑な立ち位置にいるんだな……。もしかしてこれ、あまり聞かれたくなかった話なんじゃ……?
「……すみません。そんなデリケートな話をさせてしまって」
「あっ!別に良いですよ!今では私も、騎士になって良かったと思ってますし!何せ騎士団では日々色んな色恋沙汰が起きてますから!それを間近で見られるなんて、最高じゃないですか!」
俺が申し訳なくしていると、ダーヴィドは明るい様子でフォローしてくれた。その言葉は本心で言っているように感じた。いつものダーヴィドの様子から、騎士として生きることを十分に楽しんでいることは明らかであるからだ。だから騎士になったことを後悔している訳ではないのは、確かだろう。
でも少しその表情に影が見え、俺はちくりと胸を痛める。恐らく婚約者の存在が、ダーヴィドに影を落としているのだろう。何とかしてあげたいけど、赤の他人が口出しして良い話でもない。そもそも皇族が一個人の婚約に口出しするのは、社交界のパワーバランス的にも良くない。この話を俺が聞いても、俺がダーヴィドにしてあげられることは、何もないのだ。
そう思うと、どうしようもないやるせなさが、俺の胸に重くのしかかるのであった。
そして俺たちは着くや否や、作戦に向けての準備に取り掛かっていた。
「ダーヴィド殿、言われた通り、魔窟付近の土地の地形や高低差のより詳細な情報を計測してきたぞ。まあ魔窟付近と言いつつ、ほとんど魔窟には近づくことは出来なかったが」
「ええ、それで構いません。ありがとうございます」
俺が封印魔法陣の最終点検をしていると、視界の端でダーヴィドが帝国軍兵から大きめの紙を数枚受け取っているのが見えた。紙は恐らく帝国軍兵たちが大急ぎで作成した、地形図やらなんやらの資料であろう。帝国軍兵は戦争を目的として組織されているから、戦場の地形の把握と周知のために、地形図の書き方などを叩き込まれるのだ。ダーヴィドは今、作戦の二次被害を出来るだけ無くせるよう、効率がよく安全性の高い防御魔法陣の配置を考えているのだ。
「……ふむ。やっぱり現地に行ってみないと、実際の様子とかはわからないものだね。クスター、出番だよ。今から書き表していく計算式を、片っ端から計算していって」
「わかった」
ダーヴィドは帝国軍兵から受け取った資料とにらめっこしながら、白紙の紙にすらすらと何かを書いていく。視線は資料に集中しており書く手元は一切見ていない様子だった。ダーヴィドの隣にいるクスターはその書かれた内容を見ながら、次々と何かを書き足していく。それを見たダーヴィドが、資料に何か書き足す。そんな作業を繰り返していた。
……なんという流れ作業。職人技みたいだな。一体どんなことをしてるんだ?
俺は2人の作業内容が気になり、自分の作業の手を止めて2人の元へ向かうことにした。
「……うわぁ、えげつない計算式ばかりですね……」
「あっ、殿下!お疲れ様です!」
「……皇子殿下様、お疲れ様です」
俺が2人が色々と書き連ねている紙を覗き込んで思わず声を漏らすと、2人は手を止めて挨拶してくれた。ダーヴィドはいつもと変わらない笑顔だが、クスターは未だに俺の顔を見るとビクッと肩を揺らして縮こまってしまう。う~ん。もう宿屋の一件のことは気にしてないんだけどなあ。
「ああ、作業の手を止めてしまってすみません。あまりに綺麗な流れ作業をしていたので、つい気になって。……それにしても、このひたすら桁数の多い計算式で何がわかるのですか?」
「防御魔法陣や結界魔法陣の数には限りがありますから、より少ない数で魔窟を綺麗に囲み込められるように、魔法陣間の距離を計算しています」
「……へえ。ダーヴィドはこういう計算をするってわかっていたから、クスターを連れて来たいって言ってきたのですね」
「はい。私が計算機を使って計算するのでも良かったのですが、何分数が多いですし、クスターが暗算する方が速くて正確ですから」
ダーヴィドがニコッとクスターに笑いかけると、褒められて満更でもないのか、クスターは控えめにニヤッとした。ライラが言うには、クスターは人見知りが激しいらしい。今までダーヴィドとはあまり関わる機会もなかっただろうから、人見知りが発動しているのだろう。
そう、以前ダーヴィドが俺に話を持ってきた今回の作戦に連れて来たい人物とは、クスターのことだった。俺はクスターの名前を聞いた時、その意図がわからなくて首を傾げた。ダーヴィドは「現地で膨大な数の計算をする必要があるから、計算の得意な人材が欲しい」と説明したが、そもそも何故計算をする必要があるのか理解出来なかった。まあ最終判断をするのは父上であったから、その旨を書面にして父上に報告すると、割とあっさり認められた。あんなにアルットゥリ兄上に対して「必要以上の人材を現地に派遣できるかボケェ!(意訳)」って言ってたのにね。ちょっと拍子抜けした。まあクスターは成人男性でガタイも良いし、いざと言う時に自分の身は自分で守れるだろうけど。
「……ならこの計算が終われば、早速現地に向かって魔法陣を配置していくのですね?」
「ああ、いえ!まだ魔法陣一つに対して必要な魔力量から必要となる総魔力量を計算して、必要な派遣人数を出したり、いつ頃魔法陣の交換を行うべきか割り出したりもしますよ」
「ええ……?そこまでしなくても、帝国軍兵はかなりの人数いますので、人手に困ることはありませんし、そこまでやりくりしなければいけないほど魔法陣の数も少なくないですよ?」
「備えあれば憂いなし、と学者根性が融合した結果ですよ!」
ダーヴィドは良い笑顔でそう言った。ダーヴィドって恋バナ大好き人間って印象が強いけど、やっぱり帝国学院まで進学して研究してただけあって、ちょっと研究者気質な所があるみたい。魔法学とか魔力学の知識も豊富だし。……ここまで来ると、なんでダーヴィドは研究者にならずに騎士になったのか、不思議だな。
俺はふと感じた疑問を、何の気なしにダーヴィドに聞いてみることにした。
「……ダーヴィドって帝国学院にまで進学したのに、何故そのまま研究者にならずに、全く関係のない分野である騎士の道を選んだのですか?」
「……あ~、えっと……。一時期、私も学者の道を進もうと考えていたのですが、そのことを聞くと婚約者が『学者なんて金食い虫で恥ずかしいから辞めて』と言い出しまして……。それで婚約者が、給料の良い騎士になりなさいって、勝手に入団募集に応募してしまって、手を抜いたはずなのに何故か入団試験にも合格してしまって、そのまま……」
「……えっ?ダーヴィド、婚約者がいるのですか?初耳です」
俺はぱちくりと目を見開いた。ダーヴィドから婚約者の話を聞いた事などなかったから、てっきりフリーかと思ってたのだ。俺の驚いた反応に、ダーヴィドは気まずそうに頬をかいた。
「……まあ、一応……。政略結婚ですし、向こうは年老いて自分の相手をしてくれる男が寄って来なくなったから、その代わりに、って感じですし……。未だに婚約者止まりなのも、残ってる数少ない言い寄ってくる男性との関係を正当化するためだったりしますし……」
ダーヴィドは苦笑いして言いにくそうにそう話した。何かダーヴィドも色々複雑な立ち位置にいるんだな……。もしかしてこれ、あまり聞かれたくなかった話なんじゃ……?
「……すみません。そんなデリケートな話をさせてしまって」
「あっ!別に良いですよ!今では私も、騎士になって良かったと思ってますし!何せ騎士団では日々色んな色恋沙汰が起きてますから!それを間近で見られるなんて、最高じゃないですか!」
俺が申し訳なくしていると、ダーヴィドは明るい様子でフォローしてくれた。その言葉は本心で言っているように感じた。いつものダーヴィドの様子から、騎士として生きることを十分に楽しんでいることは明らかであるからだ。だから騎士になったことを後悔している訳ではないのは、確かだろう。
でも少しその表情に影が見え、俺はちくりと胸を痛める。恐らく婚約者の存在が、ダーヴィドに影を落としているのだろう。何とかしてあげたいけど、赤の他人が口出しして良い話でもない。そもそも皇族が一個人の婚約に口出しするのは、社交界のパワーバランス的にも良くない。この話を俺が聞いても、俺がダーヴィドにしてあげられることは、何もないのだ。
そう思うと、どうしようもないやるせなさが、俺の胸に重くのしかかるのであった。
240
お気に入りに追加
3,805
あなたにおすすめの小説
【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
優しい庭師の見る夢は
エウラ
BL
植物好きの青年が不治の病を得て若くして亡くなり、気付けば異世界に転生していた。
かつて管理者が住んでいた森の奥の小さなロッジで15歳くらいの体で目覚めた樹希(いつき)は、前世の知識と森の精霊達の協力で森の木々や花の世話をしながら一人暮らしを満喫していくのだが・・・。
※主人公総受けではありません。
精霊達は単なる家族・友人・保護者的な位置づけです。お互いがそういう認識です。
基本的にほのぼのした話になると思います。
息抜きです。不定期更新。
※タグには入れてませんが、女性もいます。
魔法や魔法薬で同性同士でも子供が出来るというふんわり設定。
※10万字いっても終わらないので、一応、長編に切り替えます。
お付き合い下さいませ。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。
攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。
慎
BL
───…ログインしました。
無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。
そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど…
ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・
『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』
「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」
本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!!
『……また、お一人なんですか?』
なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!?
『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』
なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ!
「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」
ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ…
「僕、モブなんだけど」
ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!!
───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる