前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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乗り越えるべき壁

作戦会議は続く ※No Side※

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会議はそのまま詳しい計画を立てることに移った。といっても、ほぼ皇帝とエルネスティの独壇場であるが。

「同行は私の専属護衛騎士であるヴァイナモ・アッラン・サルメライネンとオリヴァ・クレーモラとサムエル・ランデル、後は医療要員でアスモ・クレーモラなどを考えています。また、近衛騎士団第四部隊の出られる方にも護衛をお願いしたい所です」

「そうだな。それが妥当だ」

「後、私は魔法や魔力に関する知識に乏しいので、知識に富んだ近衛騎士団第四部隊所属のダーヴィド・ヤロ・カルッティアラも同行させたいと思います」

「……うむ、確かに知識人がいた方が良いな。そうしよう」

「ちょっと待ってください」

2人の会話に慌てて入り込んで来たのは、今まで傍観していた帝国第二皇子のアルットゥリ・ミエス・ピルギッタ・ニコ・ハーララであった。皇帝とエルネスティはキョトンとした表情でアルットゥリを見る。

「どうした?アルットゥリ」

「魔力の知識なら魔力学の研究者の方が適任でしょう。何故近衛騎士などに任せるのですか。力不足でしょうに」

アルットゥリは怪訝な表情で苦言を呈した。近衛騎士が学問に精通しているのに違和感しかないのだろう。エルネスティはそう判断し、説明を付け加えた。

「ダーヴィドは近衛騎士ですが、帝国学院に進学し、きちんと卒業までしています。専攻は魔法学でしたが、魔力学の知識も十分です。決して力不足ではありません」

「そうであったとしても、魔力学のことは学者に任せるのが一番です。立場や職業にはそれ相応の役割というものがあります。魔力の知識提供は近衛騎士の役割ではありません。学者の役割です。ですから学者を派遣するべきです」

「なら危険な現場に足を運ぶのも学者の役割なのか?」

異様なほどに食い下がるアルットゥリをエルネスティが不思議に思っていると、皇帝から抑揚のない言葉が発せられた。アルットゥリは思わず口を噤む。皇帝は険しい表情でアルットゥリを睨みつけた。

「魔窟付近はモンスターも発生していて非常に危険だ。そんな中、危険な現場に慣れておらず、自衛方法も持たぬ学者はお荷物だ。ただでさえ帝国中が大混乱しており、人手が足りない状態だ。学者の知識を借りる状況になるかもわからんのに、学者の護衛にまで人手を裂くことはできん」

「……ですがっ!」

「お前は知識面で心配しているのかもしれんが、大丈夫だ。奴の能力は我が保証しよう」

皇帝にそこまで言われてしまえば、アルットゥリは何も言えない。腑に落ちない様子だが、渋々身を引いた。

すると次に帝国第三皇子のカレルヴォ・ラリ・ユッタ・ハーララが手を挙げた。

「……どうした、カレルヴォ」

「ひとつ提案なのですが、エルネスティに我々帝国軍が同行するのはいかがでしょうか」

「……その意義は?」

「皇族の護衛である近衛騎士がこの混乱状態で宮殿を離れるのは良くないかと。また、帝国軍ではモンスターに対峙する訓練なども行われています。いざと言う時に良い戦力となるかと。あと、もし作戦が成功した場合、ヘルレヴィ旧男爵領では復興支援が必要です。それには帝国軍が派遣されるでしょう。ならエルネスティの護衛も兼ねて先に帝国軍を派遣しておく方が、迅速な対応が出来るかと」

「……なるほどな。一理ある」

訝しげに聞いていた皇帝だが、カレルヴォの意見に納得したようだ。顎に手を添えて考える素振りを見せる。数秒の後、皇帝は結論を出す。

「うむ。確かにその方が良さそうだ。護衛任務をしたことのない帝国軍に皇族の護衛をさせるのは些か不安ではあるが、先程エルネスティが名を挙げた者を同行させれば事足りるだろう。皇帝の名のもと、帝国軍臨時部隊を結成することを命じる。総隊長はカレルヴォ、お前に任せる。人員もお前が用意しろ」

「承知しました」

皇帝の命令にカレルヴォは恭しく頭を下げた。またしてもアルットゥリが何か言いたげだったが、皇帝が一瞥して咎める。アルットゥリは皇帝に睨まれ、何も言えず上げかけた腰を下ろした。アルットゥリは恨めしそうに、そして何かに打ちひしがれたように顔を歪めた。

皇帝はそんなアルットゥリを無視して話を続ける。

「あと考えるべきは他国との折り合いか。我が国が混乱しているのを好機と見て攻め入ってくる不届き者が出てこないとも限らん。比較的交渉が容易な国には外務大臣が早速向かっているが、問題はパロメロ皇国とベイエル王国か……」

「非友好国の交渉なら私にお任せください。伊達に世界中を飛び回っていません」

外交に名乗りを挙げたのは帝国第一皇子であるエドヴァルド・ユハナ・ハンナマリ・ニコ・ハーララであった。平和主義であるエドヴァルドは、敵対する国々を巡っては友好関係を築く努力をしているのだ。それを知っている皇帝はエドヴァルドの申し出を快諾する。

そこでエルネスティが手を挙げた。

「パロメロ皇国につきましてはサルメライネン伯爵に、事前にパロメロ皇国大使であるパレンシア侯爵へ不可侵条約締結の交渉を依頼するべきかと」

「……パレンシア侯爵は性格に難ありと聞くが、大丈夫なのか?」

「はい。私がサルメライネン伯爵領に訪問した際に彼とは親しくなりまして。サルメライネン伯爵とも時折夕食を共にする仲だとか」

「……私もパレンシア侯爵とは対話したことがありますが、彼と親しくするのは至難の業だと見受けました。どのように親しくなったのか、気になる所ですね」

「料理について少々熱く語り合っただけですよ」

エドヴァルドの問いかけにエルネスティは良い・・笑顔で答えた。エドヴァルドはキョトンとした後、くすくすと笑う。つられて皇帝もくつくつと笑い出した。周囲は何故3人が笑っているのかわからず、困惑の色を見せる。皇族には皇族にしかない笑いのツボがあるのだ。

「あ、それともうひとつ。ベイエル王国につきましては、ある方が交渉要員として立候補しているのですが、よろしいでしょうか?」

「む?その人物と交渉方法によるな。出来れば本人から話を聞きたいものだが」

「はい。会議室の外で待機しています。今、呼びますね。気になる方は重要書類を仕舞ってください」

エルネスティの言葉に会議の参加者は訝しみながらも書類を仕舞った。わざわざそう言うのであれば、本来ならこのような場に来れるような人物ではないのだろう。そんな人に交渉を任せられるのか?と疑問を抱きながら。

だがそんな中ただ一人、皇帝だけが誰が来るのか見当がついたらしく、悪役が如くにやりとした。

会議の参加者の動きが止まったのを確認し、エルネスティは側に控えるヴァイナモに視線を向けた。ヴァイナモは一礼して扉の方に向かう。会議室には防音と防魔が施されており、中から合図を送ることが出来ないのだ。

ヴァイナモはギィっと扉を少し開き、外にその人物がいることを確認して、大きく扉を開いた。

そして中に入ってきた人物に一同、驚きを隠せなかった。

なんとそこにいたのは。

「……私は帝国の人間ではありませんが、今、帝国と衝突するのは危険であることを一番良く知っています。どうか私シーウェルトに、我が王国との衝突回避の交渉を任せてもらえないでしょうか?」

ベイエル王国第二王子の、シーウェルト・レフィ・エリアン・テオ・ベイエルであった。
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