186 / 219
乗り越えるべき壁
癖の強い奴らの対峙 ※No Side※ 【後半】
しおりを挟む
「……それは真ですかあ?」
その場に緊張が走る中、男は若干語気を強めてきいてきた。チェルソは慎重に言葉を選ぶ。
「……貴方が伝えられていないってだけではアリマセンカ?」
「僕が知らないことは皇帝陛下も知りませんよ~」
その言葉にチェルソはギョッとした後、やはり父親が懸念していた通りになっていた、と思案し始める。
チェルソのもうひとつの目的である情報収集は、魔力操作学についてであったのだ。
魔力操作学は一歩間違えると悪用される危険があるため、 門外不出と言っても良い。しかし学術提携を結んでいる帝国は例外として、魔力操作学の基礎を帝国に伝え、帝国での魔力操作学の地盤が固まり次第、共同研究をする話が持ち上がっていた。
だから数十年前、学術交換留学生として来ていた帝国の研究者の卵に魔力操作学について教え、帝国で研究を始めてもらうことになった。その者は当時の皇帝の覚えも良いため、知識を渡すのに信頼に値すると考えたのだ。もちろんその時、当時の皇帝にもその話は通してある。
しかし待てど暮らせど帝国から共同研究の話が来ない。情報提供の手紙を送れど、しばし待ての一言のみ。流石におかしいと感じたチェルソの父親は、チェルソに帝国での魔力操作学についての情報収集を命じていたのだ。
魔力操作学研究者として帝国に来てみたらおかしなことに、皆口をそろえてそのような学問は帝国で全く発展していないと言うのだ。危険故にごく一部の人間のみが知っているのか、とも考えたが、目の前の男曰く皇帝も知らないとのこと。どこかで情報が遮断されていたのは明らかだ。
まさか……彼女が?
思い悩むチェルソの様子を男は穴が開くほど凝視した後、深刻な空気に切り替えて質問を続けた。
「……魔力操作学研究の情報はどちらに送っているのですかあ?」
「……数十年前に公国へ交換留学生として来た女性に送ってイマス。その女性はもう研究者ではないのデスガ、他の研究者とも繋がりがあり、皇帝にもパイプがあると言うノデ、今も彼女に送ってイマス」
「その人は何者なんですかあ?」
「……ワタシは手紙を書いていないので名前はわかりマセンガ、その女性がどのような地位を帝国で持っているかは知ってマスヨ」
「……その役職はあ?」
チェルソは昔、自分の魔力操作学の恩師が言っていたことを思い出す。彼はその女性も教えており、随分と可愛がっていた。しかし彼女は今の地位を手に入れ、研究者を辞めざるを得なくなってしまった。恩師は残念がっていたが、その道は他でもない彼女自身が決めたことなのだから、自分に何か言う権利などない、と言っていた。彼の口ぶりからその女性がとても優秀であったことが伺えるので、自分も研究者として会ってみたかった、とチェルソも常々思っていた。
そんなことを考えながらチェルソは徐に口を開いた。
「……皇族に輿入れすることが決まり、研究者を続けられなくなった彼女は確か今は……第二皇妃だったはずデスヨ」
チェルソがそう発言した、その時。
どこからともなく発せられた強大な魔力がその場を充満したのを、2人は感じ取った。
「っ!?!?」
「なんですかあっ!?」
流石手練と言うべきか、男はすぐさま警戒態勢をとった。しかし何か行動を起こす間もなく、屋外から巨大な爆発音が聞こえてきた。その余波は2人がいる場所までやってくる。
「うわっ!?」
「……くっ!」
凄まじい爆風が研究者の扉や窓を開け破り、一瞬にして膨大な魔力が研究室に入り込む。吐き気がしたチェルソはその場に膝をつき、男も苦虫を噛み潰したような表情で、倒れこまないように足腰に力を込めた。
「なんなんですかあ!?」
「……カレはとんでもない薮蛇だったのデスネ……」
らしくもなく男が半ギレで叫ぶ中、チェルソは先程会った皇子を思い起こす。この魔力は間違いなく、先程チェルソが花を渡した帝国皇子だ。何か大きな秘め事をしているとは思っていたが、まさかここまでの魔力を隠し持っていたとは。
この爆風だと校舎が半壊してもおかしくない。それどころか人命も危ないところだ。自分が渡した花が原因でこのような大災害が起こったと知られたら最後、極刑に処させることは避けられないだろう。
エルネスティやシーウェルトに花を渡した件とは訳が違う。最悪、死刑になるだろう。
そう思うと何故か張り詰めていた全身の力が一気に抜けた。恐ろしいことのはずなのに、心のどこかで安堵している自分がいた。
そうか。自分は死にたかったのか。本音を隠す、気持ち悪い人間たちのいるこの世から、早く抜け出したかったのか。
だから自分はこんな危なっかしい性格にねじ曲がってしまったのか。
全てが腑に落ちたチェルソは乾いた笑みを浮かべる。チェルソの呟きを聞き取った地獄耳な男は、キッとチェルソを睨みつける。
「これ、貴方の仕業ですかあ!?」
「……そうデスネ。ワタシが撒いた種デス」
「なら即刻貴方の身柄を拘束します~!弁明は檻の中でしてください~!」
魔力の爆風が収まりかけた頃を見計らい、男はチェルソに手を伸ばす。だが全てを諦めたチェルソは、年貢の納め時か、と呟き、なすがままに拘束されるのであった。
その場に緊張が走る中、男は若干語気を強めてきいてきた。チェルソは慎重に言葉を選ぶ。
「……貴方が伝えられていないってだけではアリマセンカ?」
「僕が知らないことは皇帝陛下も知りませんよ~」
その言葉にチェルソはギョッとした後、やはり父親が懸念していた通りになっていた、と思案し始める。
チェルソのもうひとつの目的である情報収集は、魔力操作学についてであったのだ。
魔力操作学は一歩間違えると悪用される危険があるため、 門外不出と言っても良い。しかし学術提携を結んでいる帝国は例外として、魔力操作学の基礎を帝国に伝え、帝国での魔力操作学の地盤が固まり次第、共同研究をする話が持ち上がっていた。
だから数十年前、学術交換留学生として来ていた帝国の研究者の卵に魔力操作学について教え、帝国で研究を始めてもらうことになった。その者は当時の皇帝の覚えも良いため、知識を渡すのに信頼に値すると考えたのだ。もちろんその時、当時の皇帝にもその話は通してある。
しかし待てど暮らせど帝国から共同研究の話が来ない。情報提供の手紙を送れど、しばし待ての一言のみ。流石におかしいと感じたチェルソの父親は、チェルソに帝国での魔力操作学についての情報収集を命じていたのだ。
魔力操作学研究者として帝国に来てみたらおかしなことに、皆口をそろえてそのような学問は帝国で全く発展していないと言うのだ。危険故にごく一部の人間のみが知っているのか、とも考えたが、目の前の男曰く皇帝も知らないとのこと。どこかで情報が遮断されていたのは明らかだ。
まさか……彼女が?
思い悩むチェルソの様子を男は穴が開くほど凝視した後、深刻な空気に切り替えて質問を続けた。
「……魔力操作学研究の情報はどちらに送っているのですかあ?」
「……数十年前に公国へ交換留学生として来た女性に送ってイマス。その女性はもう研究者ではないのデスガ、他の研究者とも繋がりがあり、皇帝にもパイプがあると言うノデ、今も彼女に送ってイマス」
「その人は何者なんですかあ?」
「……ワタシは手紙を書いていないので名前はわかりマセンガ、その女性がどのような地位を帝国で持っているかは知ってマスヨ」
「……その役職はあ?」
チェルソは昔、自分の魔力操作学の恩師が言っていたことを思い出す。彼はその女性も教えており、随分と可愛がっていた。しかし彼女は今の地位を手に入れ、研究者を辞めざるを得なくなってしまった。恩師は残念がっていたが、その道は他でもない彼女自身が決めたことなのだから、自分に何か言う権利などない、と言っていた。彼の口ぶりからその女性がとても優秀であったことが伺えるので、自分も研究者として会ってみたかった、とチェルソも常々思っていた。
そんなことを考えながらチェルソは徐に口を開いた。
「……皇族に輿入れすることが決まり、研究者を続けられなくなった彼女は確か今は……第二皇妃だったはずデスヨ」
チェルソがそう発言した、その時。
どこからともなく発せられた強大な魔力がその場を充満したのを、2人は感じ取った。
「っ!?!?」
「なんですかあっ!?」
流石手練と言うべきか、男はすぐさま警戒態勢をとった。しかし何か行動を起こす間もなく、屋外から巨大な爆発音が聞こえてきた。その余波は2人がいる場所までやってくる。
「うわっ!?」
「……くっ!」
凄まじい爆風が研究者の扉や窓を開け破り、一瞬にして膨大な魔力が研究室に入り込む。吐き気がしたチェルソはその場に膝をつき、男も苦虫を噛み潰したような表情で、倒れこまないように足腰に力を込めた。
「なんなんですかあ!?」
「……カレはとんでもない薮蛇だったのデスネ……」
らしくもなく男が半ギレで叫ぶ中、チェルソは先程会った皇子を思い起こす。この魔力は間違いなく、先程チェルソが花を渡した帝国皇子だ。何か大きな秘め事をしているとは思っていたが、まさかここまでの魔力を隠し持っていたとは。
この爆風だと校舎が半壊してもおかしくない。それどころか人命も危ないところだ。自分が渡した花が原因でこのような大災害が起こったと知られたら最後、極刑に処させることは避けられないだろう。
エルネスティやシーウェルトに花を渡した件とは訳が違う。最悪、死刑になるだろう。
そう思うと何故か張り詰めていた全身の力が一気に抜けた。恐ろしいことのはずなのに、心のどこかで安堵している自分がいた。
そうか。自分は死にたかったのか。本音を隠す、気持ち悪い人間たちのいるこの世から、早く抜け出したかったのか。
だから自分はこんな危なっかしい性格にねじ曲がってしまったのか。
全てが腑に落ちたチェルソは乾いた笑みを浮かべる。チェルソの呟きを聞き取った地獄耳な男は、キッとチェルソを睨みつける。
「これ、貴方の仕業ですかあ!?」
「……そうデスネ。ワタシが撒いた種デス」
「なら即刻貴方の身柄を拘束します~!弁明は檻の中でしてください~!」
魔力の爆風が収まりかけた頃を見計らい、男はチェルソに手を伸ばす。だが全てを諦めたチェルソは、年貢の納め時か、と呟き、なすがままに拘束されるのであった。
183
お気に入りに追加
3,806
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね大歓迎です!!
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる