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学園生活をエンジョイする

諦めていたこと

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午後からの演目は何事もなく進行していった。演劇部ではクラスメイトが脇役ながら素晴らしい演技を見せており、思わず感心してしまった。謙虚で引っ込み思案な子だったから、あんな堂々とした俺様キャラを演じているのが、意外で仕方なかったのだ。役者ってすごいなって思いました(小並感)。

そして文化祭の最後にあるのは、後夜祭。文化祭実行委員の手配で、学校裏にある屋外広間に立食パーティーの準備が成されていた。学園には2学年しかおらず、ほとんどが貴族ということもあり、そこまで全校生徒の数は多くない。だけどそれでもここまでの準備をするのは大変だっただろうに。てか全校生徒を収容出来る広さの屋外広間て。普段ほとんど使わないから、俺も初めて来たけど。流石王立の学園だな。

「それじゃあまあ、昨日も言ったが……改めて、文化祭、お疲れ様だ」

「「「お疲れ様でしたー!」」」

ウェル王子の言葉にクラスメイト達が続き、持っていたグラスを高く上げた。所謂乾杯だ。グラスを当て合って音を鳴らすことはしないけど。食器を鳴らすのは貴族としてマナー違反だからね。

あっちなみに飲み物はジュースだよ。未成年の飲酒は禁止こそされてないけど常識的に駄目だよねって言われてるし、学園内は飲酒禁止だからね。

「大変だったけど楽しかったね」

「うんうん!店も大繁盛したし!」

「コスプレ初めてやったんだが、割とクセになりそうだな」

「殿方は本当にご苦労さまですわ。何せずっとコーヒーカップを動かしていたのですもの」

「おうおう!もっと労ってくれ!」

「そう言えば演劇部での君の演技、良かったよ。普段とは違いすぎて目を疑ってしまった」

「えっ、そうですか?ありがとうございます」

そんな他愛のない会話をするクラスメイトたちを眺めながら、俺はチビチビとジュースを飲んだ。会話に参加したいなとは思うけど、距離感掴めないって言うか……。大分クラスにも馴染んでは来れたけど、まだちょっと遠慮しちゃうんだよね。

そう思っていると、クラスメイトの一人がこちらを振り返った。

「そう言えば、私は文化祭を通して殿下やシーウェルト王子と親睦が深められたのが凄く嬉しかったです」

「あっ!それわかります!やっぱり皇族とか王族とか、気を使うなあって思っていましたけど、いざ話してみると気さくで冗談とか言い合える方だって思えました!」

「なんか、気を使っていた私たちが馬鹿馬鹿しかったと言いますか……もっと早く仲良くなれば良かったと思います」

「殿下の婚約者も見れましたし!大満足です!」

クラスメイトのそんな優しい言葉たちに、俺は胸がジーンと暖かくなった。俺は前世から社交的な人間ではなかった。別に嫌われてたとか孤立していた訳では無いけど、いてもいなくてもどうでもいいってポジションにいた。それが嫌だった訳じゃない。尊敬出来る母親に可愛い弟妹、俺の心を救ってくれた恩師に大人になっても仲の良かった友達ヲタク。俺はとても周りに恵まれていた。

でもどこかで人と仲良くなるのを躊躇っていたように思う。職場の人達とはビジネスライクな関係だったし。あの子・・・との出来事がトラウマになっていたのだ。あまり深く知らない相手と下手に親しくなって、自分の知らない所で相手を傷つけてしまうのが、怖かった。だからよく知った家族や一部の人間としか、本当に親しくしなかった。親しくなれなかった。

そして前世ではどんどん人付き合いを切り捨てていった。人と疎遠になると興味もなくなった。興味がなくなると人を気にすることもなくなって、どんどん自分勝手になった。なるだけ「その他大勢の人」という存在を意識しないようにして、自分の殻の中に籠るようになった。

それは今世でも引き継がれていた。なるだけ利害の一致による関係を築こうとしていた。母親第二皇妃ペッテリ天使狂信者ヤルノ限定的ドMも、サムエル歌好きぴオリヴァ全肯定botアスモ薬師騎士も、他の多くの人々も。Win-Winな条件をつけることで、良い関係を築こうとしていた。

でもヴァイナモは違った。彼はお互いによく知らない状態だった最初から、俺の味方でいてくれた。父上皇帝カレルヴォ兄上第三皇子もそうだった。家族でありながら、俺は2人のことをよく知らなかった。多分向こうも、俺のことをよく知らなかったと思う。でも何だかんだ2人は俺のことを気にかけてくれた。その無条件の愛情がむず痒くて、でも暖かくて。ずっとどこかで凝り固まっていた肩の力が、すっと和らいだ気がした。

そしてふと周りを見てみると、周りの人々は自分が思っている以上に俺のことを信頼して、大切にしてくれていた。利害関係なんかじゃ説明出来ないその優しさに、人と関わるのも悪くないかも、と思うようになっていた。

だから少しずつ、自分の友好関係を広げることにした。ユスティーナ義姉上と言いダーヴィドと言い、そして学園での学友達と言い。少しずつ、普通に・・・人と関われるようになろうと頑張ってみた。

だけど学園では皇子という身分が邪魔をして、なかなか上手くいかなかった。どうすれば仲良くなれるか知らなかったから、手探りで距離感を測った。人と必要以上関わらないことに慣れすぎてしまって、名前を覚えることすら、意識しないと出来なくなっていた。もう無理かも、と思ったこともあった。俺にはヴァイナモがあるからいいや、なんて甘えたことを考えたこともあった。

でも今、俺の目の前には俺に笑いかけてくれる学友がいる。一瞬、あの子・・・が脳裏を過ぎった。あの子・・・とも、こうやって笑いあっていた。俺が間違えなければ、ずっとこう笑いあえたかもしれない。少し胸が痛んだけど、今更悩んだ所でどうしようもない。もうあの子とは存在する世界線すら違うのだから。

俺が密かに夢描いていた現実が、今ここにある。俺なんかには不可能だと思っていたことが、今ここに。

そう思うと、何だか泣きたくなった。

「えっ!?殿下!?どうされたんですか!?」

とあるクラスメイトからの驚きの声で、俺が今、涙を流していることに気づいた。みんなが心配そうにこちらを覗き込んでくる。その様子がまた暖かくて、俺は笑って首を振った。

「いえ、なんか今、凄く幸せだなあって思いまして」

俺の言葉にみんなキョトンとして顔を見合わせた。その様子がおかしくて、俺はクスクスと笑う。するとみんなも頬を緩め、次第に俺の笑い声につられて声を出して笑い始めた。クラス全体が暖かい笑いに包まれた。……これが人と人とが繋がる、ってことなのかな。そうなら俺は今まで、とても勿体ないことをしてたのかもしれない。人と関わることはこんなに幸せなことなのに、今まで避けてきただなんて。

ああ、こんな幸せがずっと続けば良いな。

そう思った、次の瞬間。

俺は背後から強大な魔力を感じ取った。

「っっっ!!!」

俺はほぼ反射で背後に巨大な防御魔法を展開した。クラスメイト含め、その場にいる人達を守ることが出来るように、めいっぱい強力な魔法を。

そしてその刹那。

殺人的な爆発音が、その場に鳴り響いた。




* * * * * * * * *




これにて本章は終了で、次回から最終章です。やっとここまで来れた……。最終章はシリアス多めですが、是非最後までお付き合いしていただけると幸いです。
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