前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

見守られ体質(無自覚)

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俺とヴァイナモはその後、2人であーだこーだ言いながらなんとかゴールにまで辿り着いた。出て来る時には俺たち2人とも気疲れでヘトヘトだったけど、顔を見合わせて「楽しかったですね」と笑った。もうずっとヴァイナモと一緒にいるけど、こういった体験は全然して来なかったから、新鮮だ。もっとヴァイナモと色んな場所に行って、色んなことを楽しみたいな、と強く思った。

その後俺はクラスの出し物を再開する時間が迫っていることに気づき、教室に戻ることにした。ヴァイナモは勿論教室までついて来てくれて、扉の前で名残惜しそうに「それではまた。頑張ってください」と一礼してくれた。これからカレルヴォ兄上の元へ戻るそうな。俺も笑顔で「ありがとうございます」と答えた。

ヴァイナモと別れると既に教室にいたテルからヴァイナモのことについて聞かれたから、俺の婚約者だって答えると凄く驚かれた。なんでもベイエル王国ではまだ同性婚が主流ではないらしい。でも直ぐに「ででででもお2人はおおっ、お似合いでしたので、なっなっ納得でふ!」と慌てて付け加えられた。別に変だと言われても何とも思わないけどね。前世の日本では同性婚すら認められてないことがザラだったし、嫌悪感を持ってしまう人がいても仕方ない。

ウェル王子はヴァイナモがいた扉の方を見つめて「うへぇ、化け物に磨きがかかってる」と眉を顰めた。こら!人の婚約者に化け物って、失礼な!

ちなみにウェル王子はヴァイナモが俺の婚約者だってことに全く驚かなかった。それどころか最近婚約したことに「えっ今更?」といった反応を見せた。周りには随分前から両片想いだって認識されていたとは聞いたけど、まさか一度会ったっきりの他国の王子ウェル王子にまで思われてたなんて……。

そんな話をしながら店を再開し、俺たちは目まぐるしく接客をした。客足は遠のくことはなく、いつまで経っても廊下には長蛇の列。有り難い反面、もう少し客足は疎らでもええんやで?と謎の関西弁を使いたくなる忙しさに疲労困憊。回らせても回らせても客の山。俺田山頭火、心の一句。

だがそれだけ忙しいと時間もあっという間に過ぎていくもので。

「ありがとうございました!」

俺たちは最後の客を見送ると、全員で床にへたりこんだ。中には寝転がる生徒まで居る。掃除してるとはいえ、色んな人が土足で歩いた場所に寝っ転がるんじゃありません!ばっちい!

皆疲れすぎていて誰も話だそうとしない。そんな中ウェル王子学級委員長は自分の疲労をものともせず徐に立ち上がり、教室を見渡した。

「……みんな、最後までよく頑張ってくれた。お前たちが沢山協力してくれて、一生懸命に取り組んでくれたからこそ、私たちの出し物は成功したんだ。学級委員長の私からお礼を言わせてくれ。ありがとう」

ウェル王子は深々と頭を下げた。クラス全体の空気が張り詰める。王族、しかも他国の王子が頭を下げるなど、まず有り得ないこと。しかもその内容が、学園のクラスの出し物に全力で協力してくれたから、だなんて。下手したら今後、「ベイエル王国の王族の価値はこんなもの」と見くびられてしまうかもしれない。国際問題に発展しなかねない軽率な行動、と言うべきものなのだ。

何をしているんだコイツ、と言いたくなるのを我慢して、周りを見渡す。他のクラスメイトはどう反応すべきか困っているようで、俺に助けを求める視線を向けてくる者もいる。テルは呆れて溜息をついていた。過去にも何度かこういうことがあったのかな。良い迷惑だやめてくれ!扱いに困る!

「私はこの文化祭の出し物を通して、他人と協力して物事を成し遂げる重要性と楽しさを学ばせてもらった。上に立って部下を指示することしかしなかったら知りようもない、大切なことだ。私に偉大な気づきをもたらしてくれて、本当に感謝している」

ウェル王子は頭を上げると、真っ直ぐ全員の目を見ていきながら話した。自分の知らないことを教えてくれた師には敬意を払う。何とも誠実だ。これが彼の性格なのだろう。為政者として足を引っ張ってしまう場面もあるかもしれない。でも、俺はそんなウェル王子が人間として好ましく思う。

そんな彼に俺たちからも敬意を払わなければいけない。ここは学園。曲がりなりにも校訓に「平等」があるのだから、それを実行するのだ。

「こちらこそ、ありがとうございました。ウェル王子の指揮があってこそ、クラス一丸となって頑張れたのです。こちらこそお礼を言わせてください」

俺はゆっくりと立ち上がり、ウェル王子の前で頭を下げた。これで一応、頭を下げた方と下げられた方という上下関係がリセットされる。裏技で荒業だけどね。

俺の行動の意図を読み取ったのか、テルが続けて感謝の言葉を述べて頭を下げた。それに倣うようにアンティア嬢男勝りな公爵令嬢も頭を下げ、追随するようにクラスメイトが頭を下げていく。中には意図をよく理解せずに頭を下げている人もいるようだったので、後で説明しておこう。マナーの授業で扱われない内容だが、社交界では割とよく使う手段だからね。知ってて損はない。

その後俺たちが談笑していると、担任の先生が労いのお菓子とジュースを持ってきてくれた。みんなは先程までの疲れはどうしたって勢いで喜び、我先にと飲食し始めた。普段もっと上等なお菓子を食べてるだろう人たちまでも、「冷たいジュースで生き返る」「今まで食べたお菓子の中で一番美味しい」と大絶賛しながら食べてるのを見て、おかしくてクスッと笑ってしまった。みんなで食べるから美味しさ倍増、って感じかな?

クラスメイトのことを微笑ましく眺めていると、テルが遠慮がちに聞いてきた。

「……あああ、あのっ!エル皇子!そっ、そのっ、つかぬことお伺いしますが、エル皇子のこここ婚約者とはっ、一体どんな方なのですかっ!?」

テルの言葉に驚いていると、クラスメイトが全員こちらに耳を傾けているのに気づいた。えっ?みんな、そんなにヴァイナモ俺の婚約者のこと気になる?なんかちょっと恥ずかしいんだけど……まあ、隠すようなことではないし、いっか。

「近衛騎士団第四部隊所属で私の専属護衛騎士である、ヴァイナモ・アッラン・サルメライネンです。伯爵家三男で、私が入学する少し前に付き合い始め、最近婚約内定しました」

「……えええエル皇子とヴァイナモ様は恋愛結婚、という訳ですかっ?」

「まだ結婚してませんが……多分、そうなると、思います」

小っ恥ずかしくて俯きながら答えると周りから「はうっ!」とかいう呻き声がちらほら聞こえてきた。俺が気になってそっと目線を上げると、クラスメイトは胸を押さえて悶えていたり、生暖かい視線をこちらに向けていたり、はたまた気まずそうに目を逸らしたり、ニマニマしながらこちらを見ていたりと、様々だった。一番謎なのが、ウェル王子が何故か面白くなさそうにむくれていたことだ。おいっ!なんだよその反応!空色への固執特殊性癖は克服したんじゃないのかよっ!?

「……末永くお幸せに」

テルはとても綺麗な微笑みでそう祝福してきた。おいっ!いつもの噛み噛みはどうしたっ!?なんでそんな慈愛に満ちた表情してんだよっ!?

俺は凄くいたたまれなくなりながらも「……ありがとうございます」とだけ答えて、そっぽを向くのであった。
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