前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

私服デートの約束

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みんなと別れた後、俺はヴァイナモとテキパキ予定を決め、ユルヤナに一言二言挨拶した後に1-Bを出た。ユルヤナはヴァイナモの方を見て「この人が……成程」と呟いた。何が成程なんだ?

「では時間も限られていますし、早速行きましょうか」

ヴァイナモの言葉に頷いてやって来た先は、食べ物の屋台が並ぶ中庭だった。ここでは様々な部活とかが出店している。なんかそこはかとなく現代日本の文化祭を感じるな。この世界、文化のサラダボウルだから、ふとした時に日本っぽい所があるんだよなあ。バリバリ中近世のヨーロッパみたいな世界観なのに。

「エルネスティ様は何か食べたいものはありますか?」

「ええっと……クレープ、ですかね」

俺はキョロキョロと辺りを見渡し、目についたクレープ屋を見てそう言った。日本で定番の屋台も、あるのとないのとがある。たこ焼きとか焼きそばとかはないが、だからと言ってB級グルメがない訳ではなく、焼き鳥は普通にある。どうなってんだこの世界観。

俺たちはクレープ屋に近づきメニューを見る。スイーツ系の他に惣菜系のクレープもあった。そう言うのはあるんだ……本当によくわからん。

「ヴァイナモは何を頼みますか?」

「……シーチキンサラダとか美味しそうだなと思います」

ヴァイナモはメニューを指差して答えた。シーチキンっていうのがヴァイナモらしい。ヴァイナモって甘いもの食べるイメージないし。

俺は何食べようかな。別段甘いものが好きって訳ではないけど、ヴァイナモが惣菜系ならスイーツ系の方が良いかな。

……あっ!チョコバナナカスタードがある。この世界……というか我が国帝国にバナナあるんだ。南の国からの貿易品かな?……まあどうでもいいか。これにしよう。

「じゃあ私はこれにします」

「チョコバナナカスタードですね。わかりました。……すみません、チョコバナナカスタードとシーチキンサラダをひとつずつお願いします」

「あっ、はい!かしこまりました!」

店員さんは俺たちの会話を惚けたように眺めていたが、ヴァイナモに声をかけられて弾かれたようにクレープ作りを始めた。奥にいる他の店員さんも何故かこちらに珍妙なものを見るような目を向けてくる。なっ、なんだよ。見ても面白いことなんてないぞ!?

……ああ、ちなみに文化祭では出し物で金銭のやり取りは禁止されてる。お貴族様の子息令嬢なんて、自分でお金を払うなんて経験したことないから、値段設定とか支払いの時とかにトラブルが起きやすいからだ。学園で社会経験を積むって考えはないの?と思わないでもないけど、身分が違いすぎる相手同士での揉め事が起きてしまったら悲惨だから、とのこと。こういう所が「平等(笑)」なんだよなあ。

「……そう言えば、ヴァイナモ。今日も近衛騎士の制服なのですね」

「はい。一応名目上はカレルヴォ殿下の護衛ですから」

待ち時間が手持ち無沙汰だったので、ヴァイナモにそんな話題を振る。そう言えば俺ってヴァイナモの私服を見たことないな。サルメライネン伯爵領ヴァイナモのご実家に行った時も、ヴァイナモは職務中だったから制服だった。ヴァイナモの私服……見てみたい。

「……いつも私服ってどんな感じなのですか?」

「……どんな感じと言われましても……お恥ずかしい話、服の種類とかはさっぱりで……。曲がりなりにも俺は貴族子息なので、流石にエルネスティ様と王都へ変装して行った時よりはきちんとしてますが、動きやすい服を選ぶようにはしています」

ヴァイナモは頑張って説明してくれているが、いまいち想像出来ない。……ヴァイナモが休みの日に会えば、見れるかな?

「……もしヴァイナモが良いのでしたら、今度、休日にどこか遊びに行きませんか?勿論、ヴァイナモは私服で」

「……えっと、それはつまり……」

「……デートのお誘いですよ」

俺は手をモジモジさせながら呟いた。恥ずかしくてヴァイナモの顔を見れないでいると、ヴァイナモは俺の目線に合わせるように腰を屈めた。昔なら俺の目線と合わせるためにしゃがみ込む勢いだったのに、それだけ俺の身長が伸びたんだなあ……なんて考えながらチラッとヴァイナモの顔を見ると、ヴァイナモは蕩けるような笑みを浮かべていた。俺は思わず息を飲む。

「是非ともよろしくお願いします。むしろ俺にエスコートさせてください」

「……えっと、良いのですか?折角の休日にまで私の世話を焼く羽目になるのですよ?」

「むしろ休日までエルネスティ様と一緒に居られるのが嬉しいぐらいです。エスコートは任せてください。いつかエルネスティ様と一緒に行きたいと思っていた所が沢山あるんです。……まあ、エルネスティ様の傍に居られるだけで、俺は大陸一の幸せ者なんですけどね」

ヴァイナモは俺の頭を撫でると、スッと上体を起こした。俺の顔は目も当てられないくらい真っ赤だろう。俺は両手で顔を覆って俯いた。

「……あの、お待たせしました。チョコバナナカスタードとシーチキンサラダです」

店員が遠慮がちに声をかけてきたので、俺の顔はもっと熱を帯びた。もしかしてさっきまでの会話、聞かれていたりします……?

俺がチラッと目線を上げると、頬を淡く赤らめた店員は肩身が狭そうに微笑んでクレープを二つ持っていた。まあ勿論そんな表情をしてるのは先程の俺たちの会話を聞いていたからであって。俺は声にならない悲鳴を上げてヴァイナモの背中に顔を埋めた。

「……?エルネスティ様、どうかされましたか?」

ヴァイナモはそんな店員の様子など気にしてない……というか気づいてない様子で俺の分のクレープも受け取ってくれた。俺はそのスルースキルもとい鈍感力が羨ましいよ……。

他の客に迷惑をかけないように少し傍に寄った後、中々羞恥心の渦から脱却出来ない俺を落ち着かせるように、ヴァイナモは何も言わず待ってくれていた。少し戸惑っているようだったけど、俺の心は大荒れすぎて気にしてる場合じゃない。

暫くして、漸く少し恥ずかしさが落ち着いたと思い、ヴァイナモの背中から顔を離すと、ヴァイナモは俺の全身をまじまじと見ていた。……ん?どした?

「……服と言えば、今日のエルネスティ様のお召し物、白い兎ですか?とても似合ってます。……可愛い」

ヴァイナモはそう口にし、ふっと頬を綻ばせると、俺の頭に付いている兎の耳をちょんちょんと突いた。俺は一瞬何を言われたのか理解出来ずに固まる。

かわいい……可愛い?

可愛い……だとっ!?

「……~~~~~~っっっ!」

言葉を理解した瞬間、俺は収まったはずの熱が一気にぶり返して、全身が茹でダコよろしく火照ったのを感じた。おまっ!なんで!折角落ち着いたのに!!そんな事言うかな!?

てかヴァイナモの後ろで店員さんとお客さんがこっち凝視してるし!絶対聞かれてる!恥ずかしいっ!恥ずかしいぃっ!!

「~~~~~っ、バカッ!!」

俺の羞恥心は限界を超えてしまい、俺は涙目になって、訳のわからないままに叫んでその場を全力疾走で立ち去った。全身から湯気が出てるみたいに暑いっ!何だこれ……何だこれっ!?

「えっちょっ、エルネスティ様!待ってください!」

後ろからヴァイナモの引き止める声が聞こえるけど、関係ない!とりあえずここから一秒でも早く離れないとっ!恥ずかしすぎて息の根止まっちゃう!!

俺はこの時、前世を含む俺の人生の中で最も速く、そして全力で走ったのだった。
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