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学園生活をエンジョイする

兄上と義姉上の来店

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そんな話をしているうちに、文化祭が開始した。開会式があったようだが、一年生は出し物の準備があったため、参加していない生徒も多い。俺やウェル王子、テルがその例だ。開会式に参加して来たクラスメイトから文化祭が始まったことを知らされ、俺たちは客を迎える体勢を整えた。

「ようこそお越しくださいました。不思議な国のコーヒーカップ、是非お楽しみください」

人力コーヒーカップと言う物珍しさからか客が引くことがなく、俺たちは忙しなく受付業務に勤しんだ。コーヒーカップを回す要員も交代しながら一生懸命回してくれている。マティルダ嬢の設計手腕のお陰でそんなに力を加えなくても回るようにはなっているが、クラスメイトは普段身体など動かさない貴族子息の集まりだ。一回終わる毎にぜえぜえ言っている。

俺は近くで休んでいたウェル王子に話しかけた。ちなみにウェル王子は武術も嗜んでおり体力があるため、動力要員だ。

「ウェル王子、これは昼あたりに一度お店を閉める必要があるかもしれません」

「そうだな。予想以上の客数で皆が休める余裕がないからな。休業中の看板を大至急作ってもらおう」

俺の言葉に同意したウェル王子は即座に裏方へと向かった。多分テルや女子生徒に頼むのだろう。流石ウェル王子、行動が早い。

ウェル王子を見送った後、俺はすぐに受付に戻った。するとそこには見慣れた顔ぶれがいた。

「カレルヴォ兄上とユスティーナ義姉上?」

「よう、エルネスティ。繁盛しているようだな」

カレルヴォ兄上とユスティーナ義姉上が完全プライベートな格好で来店した。文化祭はOBやOGも自由に参加することが出来るため、来ていてもおかしくはないのだが、カレルヴォ兄上、お仕事は?

「弟が頑張ってる姿を見てくるっつって休んで来た」

「カレルヴォは真面目に勤務してるから、そう言った融通が効き易いのよ」

ユスティーナ義姉上は手に持つ扇子をミシミシ鳴らしながら俺の方を愛おしそうに見つめてくる。義姉上、萌えの発作が出ておりますよ。

カレルヴォ兄上は流れるようにユスティーナ義姉から扇子を取り上げ、代わりに木材の切れ端を持たせた。するとユスティーナ義姉上は片手で木材を粉砕した。そしていつものように傍に控えていたメイドがサッと残骸を片付ける。一連の流れを見ていた2人の後ろに並ぶ客はギョッとしてユスティーナ義姉上と木材の残骸を交互に見ていた。

「ユスティーナ義姉上、くれぐれもコーヒーカップを破壊しないでくださいね」

「あらやだ、エルネスティ。私にだってそれくらいの常識はあるわ」

「自分の先程の行動を振り返ってからものを言え」

ご令嬢の微笑み鉄壁スマイルを浮かべるユスティーナ義姉上にカレルヴォ兄上は肩をすくめる。ユスティーナ義姉上はどこ吹く風で俺の肩越しに教室の中を覗き込んだ。……そう言えばいつの間にかユスティーナ義姉上の身長に追いついて来ているんだな。まだ俺の方が低いけど。

「あれがエルネスティが考えた人力コーヒーカップってものかしら?」

「はい。今は稼働中なので交代の時間になるまで暫くお待ちください」

「しっかしまあ、よくあんなモン考えついたな。どこから発想を得たんだ?」

「どこかの本に載っていたのだと思います。正直な所、私も何故思いついたのかわかっていません」

カレルヴォ兄上の質問に俺は曖昧な返答をする。ここで下手に「宮殿図書館にある本に載ってました!」なんて言ったら嘘がバレた時が怖い。カレルヴォ兄上は兎も角、エドヴァルド兄上帝国第一皇子の耳にでも入ったら最後、部下に宮殿図書館にある本隅から隅まで調べさせて「そんな本ないけどな~?」なんて笑顔で問い詰めて圧かけてきそう。想像しただけで身震いしちゃう。

そんな話をしていると、後ろでコーヒーカップの回転が止まった気配を感じ、チラッと後ろを振り返った。動力要員だった男子生徒たちはその場にへたれこみ、傍に控えていた女子生徒たちがコーヒーカップの扉を開けて行く。

「エル皇子。看板の用意が出来たそうだから次の客を乗せたら一度休憩しよう」

「早いですね。わかりました。定員分案内した後に、待っている方々に説明しますね」

「ああ、頼む。私ももうひと頑張りして来よう」

テルが視界の端でクラスメイト達に何か伝えて回っているのを確認し、俺は客への対応に集中するよう頭の中を切り替えた。

「ん?どうしたんだ?」

「いえ、動力要員の方が余りにも負担なので一度休憩を挟もうという話をしていたのです。カレルヴォ兄上達の番が終われば一時的に店を閉めます」

「……エルネスティの魔法で回せばいいんじゃないか?」

「それは俺一人の負担が大きすぎると言うことで学校側から却下されました」

カレルヴォ兄上は俺の返答に「……ああ、そう言えばそんなこと俺の時も言われたな」と苦笑いした。俺は最初、動力は俺の魔法で賄おうとしていたのだが、それを知った担任の先生から、「文化祭はクラスの団結力を高める目的があるから、一人が働き過ぎるようなことはやめてくれ」と申し訳なさげに注意された。俺的には一日中稼働させても何の負担にもならないんだけどね。

それなら動力源となるような魔法陣を作ろうとも思ったのだが、適した魔法陣が既存のものの中にはなく、研究して作り出すにしても、本番までに安全面で合格点がとれるレベルにまで品質を上げることが難しかった。下手したら人命に関わる大事故を引き起こす可能性だってあるんだ。妥協はしたくなかった。

「ならこの後エルネスティは暇になるのか?」

「えっ?ええ。私は受付係だったのでそこまで疲れてませんし」

「なら後でちょっとついて来い。会わせたい人がいる」

「……?わかりました」

俺は怪訝に思いながらも頷いた。わざわざ文化祭の日に俺と引き合せる人なんて、誰だろ?帝国軍の人かな?

「前のお客様がご退出されましたので、どうぞ中へ。係の者が案内いたします」

俺は疑問に思いつつも一旦思考を端に置いて、営業スマイルを浮かべた。よし、もうひと頑張りだ!


* * *


店が一時休業となり、俺はカレルヴォ兄上に連れられて1-Bの教室にやって来た。1-Bの出し物はオシャレなカフェだ。ユルヤナ期待の次期子爵いるかな?挨拶ぐらいしたいけど。

カレルヴォ兄上は教室を見渡した後、ある人物を見つけてそちらへ歩み寄った。俺はその後ろをついて行く。

「おっ、いたいた。よう!ご待望の奴連れて来たぜ」

カレルヴォ兄上の背中越しにその人物の方を見て、俺は思わず目を丸くした。

文化祭では学園のOBやOGが自由に出入り出来る。しかし、学園関係者以外は従者などの例外を除いて立ち入り禁止だ。

騎士見習いになる為に実家を飛び出し、学園に通うことなく騎士団に入隊した彼は、普通ならこの場にいることが出来ないのに。

「えっ!?ヴァイ!?」

俺の目の前には、席でコーヒーを飲むヴァイナモの姿があった。
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