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学園生活をエンジョイする

何の話なんです??

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ヴァイナモがアンティア嬢に対してどんな所が似ていると思ったのか聞いてみたが、アレコレ言ってはぐらかされてしまった。彼女の名誉のためにも言うべきではないらしい。ますますわからん。ヴァイナモにも俺に知られたらマズイことがあるのか……?

俺が訝しげにしていると、ヴァイナモは目を細めで俺の頭を撫でた。そして「俺には知られて困ることはありません。もう解決してますし、似ていると言うだけで同じではありませんから」と宥めるように言った。

……なんか子供扱いされた気分。いやヴァイナモにとって俺はまだまだお子ちゃまなんだろうけど。これでも身長伸びたのになあ。大分ヴァイナモの顔を見る時楽になった。前世の記憶を思い出した頃は本当、顔を見て話すだけで首が痛くなってたし。これからもっと成長して大人になって、ヴァイナモと色々……ゲフンゲフン、なんでもない煩悩退散なんでもないからな誰に対して誤魔化してんだ!!

マティルダ嬢はアンティア嬢が心配だからとその後すぐに帰ってしまった。イキシアが名残惜しそうにしていたが、マティルダ嬢が「また明日も来るから」と言うと笑顔満開で頷いた。……まあこうもあからさまだとマティルダ嬢も無下には出来ないか。これが俗に言う『人たらし』なのかな?

マティルダ嬢が帰りイキシアがクスター電卓人間達に混ざって魔法陣実験に取り掛かった頃を見計らって俺はヤルノに声のトーンを落として話しかけた。

「なんかここまで来るとどうにかしてイキシアの恋を成就させてあげたくなりますね」

「エルネスティ様もそう思われますか?私もどうにか手立てがないかと思っていた所です。これが母性でしょうか」

「母性ではないような……庇護欲?いえもっと違いますね。どちらかと言えば私が護られる側ですし」

ヤルノの冗談に乗るとヤルノはパチパチと目を瞬かせた後、フッと吹いた。

「確かにイキシアは元々騎士ですし、緊急時には護衛として役立ちそうですね。腕は鈍ってそうですが」

「確かにそうですね。ヴァイナモ、イキシアの稽古もお願いしても良いですか?」

「……わかりました」

ヴァイナモは変な間をあけて返事をした。いきなり話を振ったからって言うのもあるかもだけど、ヴァイナモだったらいつもすぐに返事をくれるのにな。何か考え事でもしてたのか?

俺が不思議がってヴァイナモの顔をまじまじと見ていると、気づいたヴァイナモが躊躇い気味に口を開いた。

「……いえ、イキシアは犯罪奴隷なので武力を与えてしまうのは少々危険では、と思ったので」

「ああ、なるほど。大丈夫ですよ、今のイキシアなら。何かしようとすればすぐに私に伝わり、抑制出来るようになってますから」

「……ああ、従属魔法ですか」

「はい、それです」

そう、イキシアには従属魔法がかけられているため、もしイキシアが暴走したとしてもすぐに抑えることが出来る。まあ今のイキシアなら暴走しないだろうけど、前科があるからね。てかその前科のせいで今こう犯罪奴隷なってるんだけど。

「なら早速明日からイキシアをしごきますね」

「よろしくお願いします」

ヴァイナモは心做しか生き生きしていた。ん?ヴァイナモって他人に教えるの苦手かなって思ってたけど、そうじゃないのかな?まあやる気があることは良いことだけど。


* * *


学園では着々と文化祭に向けての準備が始まっていた。

「仕事が終わったのですか?なら貴方は向こうの手伝いを、貴女はこれを向こうに持って行ってください」

「ここはその釘を使って……あっ!待って!そこの骨組みはそうじゃないから!」

「誰か!釘の補充を頼む!」

「はい!私が行きます!」

LHRに文化祭準備の時間が当てられたため、クラスメイトは忙しなくコーヒーカップ作りに勤しんでいる。かく言う俺も教室の前に飾る看板作りをしている。本当はコーヒーカップ作りを手伝いたかったけど、指示は設計図を書いたマティルダ嬢がするし、釘と金槌でトンカンしようとしたら皆に猛反対された。「殿下が怪我したら困る!」だそうな。

……ああ、これは決して俺が皇子だからって訳じゃなくて、俺の容姿が天使すぎて怪我でもしたら罪悪感で心臓が潰れそうだからだそうだ。そう言や俺って天使だったな自分で言うなし。最近言われてなかったから忘れてた。身長も伸びてきたし、俺も人間に近づいたのかな?てめえは元々人間だ

「……殿下って絵心あるのかないのか微妙な腕前ですね」

「失礼ですね。どこからどう見ても絵心があるでしょうに」

「いや~殿下、それは無理がありますよ。特に隣に美術部員が描いた絵があると際立って……」

「なんかすみません……僕がここに描いてしまって」

「謝らないでくださいよ。虚しくなります」

俺は一緒に作業するクラスメイトとそんな雑談をしながら木の板に絵を描いていた。文化祭準備を通して大分仲が深まったかな、って思う。こう言う冗談とか軽口とかを叩けるようになったし。ちょっと嬉しい。

「あっ、絵の具がもうない……」

「なら私が取って来ますね」

「えっ!殿下が行かなくても私が……!」

「私は絵心がないのでこれくらいの役には立たせてください」

「ぐぅ……」

俺が筆を置いて立ち上がり、ニッコリ笑顔でそう言うと、先程まで俺の絵を弄っていた男子生徒が居心地が悪そうに変な声を漏らした。……ふふっ。してやったり。俺の絵を馬鹿にした罰だ!

俺は内心勝ち誇った顔をしつつも教室を出た。文化祭に必要なもの一式は学園側が準備し、倉庫に保管してあるのだ。前世の記憶から皆でお金を出し合って準備をするんだと思ってたからちょっと面食らった。まあ家の財力の差が激しいから仕方ないけどね。特に俺のクラスなんて皇族とかいう強大なツテ巨大銀行を抱えてるし。

俺は倉庫に着くと少し古めかしい扉をギギギと開いた。ちょっと薄暗いが探し物は出来る程度なのでランプに火を灯さずに俺は中に入っていく。絵の具の保管場所を見つけた俺は必要な色を取り出し、中身を確認する。……うん。これだな。間違いない。

しっかし中々にデカいな。容器が俺の顔ぐらいある。まあいっぱい使うからこれでも足りるかどうかだけど。

なんてことを考えていると、ふと背後から人の気配がした。俺が反射的に振り返るとそこには、シーウェルト王子毒盛り前科委員長がいた。俺はキョトンとなりつつ身体を向き直す。

「どうかされましたか?シーウェルト王子」

声をかけても返事はない。表情を伺おうとしたが、俯いてしまっていて出来ない。訝しみながらも恐る恐る近づいて顔を覗き込もうとしたその時、俺は急に腕を掴まれ、グッと後ろに押された。

「痛っ!」

俺はガンッと背後の棚にぶつかり、痛みで顔を歪める。シーウェルト王子は俺の腕を掴んだ手を棚に押さえつけ、俺を動けなくする。……あれ?これってもしかしなくても壁ドン??やめて!ヴァイナモにすらされたことないのに!こんなキュンのへったくれもないのが初壁ドンとか嫌すぎる!乙女脳か

「……さない」

「えっ?」

シーウェルト王子がやっと何か呟いたが小声すぎて聞き取れなかった。しかし俺の声に反応してか、シーウェルト王子は徐に顔を上げ、俺の目を見てはっきりとこう言った。

「……許さない」




* * * * * * * * *




お久しぶりです。作者の当意即妙です。
前回の更新からもうすぐ一年となるという事実に戦々恐々としながら投稿しています。お待たせしてしまった方々には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
この一年は自分でも思ってもみなかった程に忙しく、続きを書くことも億劫になっていました。せめて一言休載することを告げるべきだったと思いつつ、それも面倒だと思ってしまったのは私の怠惰です。本当にすみません。
私生活に余裕が出て来たので投稿を再開しましたが、今までのような定期更新はまだ難しいので、投稿は不定期になります。私自身この作品を完結させたいという気持ちがありますので気長に待っていただけると幸いです。
あと一度全て読み返しましたが、何分一年もこの作品から離れていたため、所々辻褄が合わない部分や回収されない伏線などがあるかもしれません。指摘を受ければ出来るだけ修正したいと思いますが、少々のミスは生暖かい目で見ていただければ幸いです。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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