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学園生活をエンジョイする

予期せぬ大暴露

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ヴァイナモとの距離が少し縮まった日から暫くして、マティルダ嬢が冷蔵庫とコーヒーカップの両方の設計図を完成させて持って来てくれた。同時進行でしかも仕事が早い……!確かこう言う人ってマルチタスカーって言うんだっけ?なんかカッコイイな(小並感)

俺はマティルダ嬢から受け取った設計図を、拙い知識ながらも問題がないか確認して行く。……うん。多分大丈夫かな。まあマティルダ嬢の仕事だから疑ってないし、問題があれば俺が責任を負えばいっか。

俺は早速、マティルダ嬢に冷蔵庫の試作品を造って欲しいとお願いをした。魔法陣に関してわからないことがあれば、俺やヤルノ限定的ドMにいつでも聞いて良い、と付け加えて。マティルダ嬢は「時間がかかる」と言ってたけど、それは100も承知だ。マティルダ嬢がいなかったらもっと時間がかかってたんだから、感謝しかない。

そして俺は翌日、コーヒーカップの設計図を学校へ持って行った。流石にこれを造るのはマティルダ嬢1人に任せられない。みんなで準備してこそ文化祭だと思うし。

シーウェルト王子毒盛り委員長に設計図を渡すと、シーウェルト王子は興味深そうにそれを見た。隣にいたテオドール我が同士も興味津々で設計図を覗き込む。クラスメイトの面々も気になるようで、チラチラとこちらの様子を窺っていた。

「……凄いですね。とてもよく作り込まれています。これはエルネスティ皇子が?」

「いえ、知り合いにその分野に強い方がいるので、依頼しました」

「……依頼と言うことは、仕事として頼んだってことですよね。依頼料とかクラスで割り勘しますか?」

今回は見知った顔クラスメイトとして頼んだから、依頼料を払ってない。でもシーウェルト王子は俺が依頼人と職人の関係でお願いしたことだと思ってるから、ちゃんと依頼料を払った方が良いって思ってるみたい。マティルダ嬢クラスメイトが作ったってバレないようにするためにも、依頼料を割り勘した方が良いのかな。

ちらっとマティルダ嬢の方を見ると、俺たちの話を聞いていたそうで俺にわかる程度に小さく首を横に振った。俺は何事もなかったようにシーウェルト王子に視線を戻す。

「いえ、依頼と言っても知り合いのよしみでお願いしただけで、お金のやり取りとかはないので大丈夫ですよ」

「……そうですか?なら良いのですが」

シーウェルト王子は俺の返答が少し遅れたことを怪訝に思っているようだが、俺は気づかないフリをする。変に踏み込まれてバレても困るし。

シーウェルト王子は片眉を上げながら設計図に目を落とし、何かに気づいたように目をぱちくりとさせた。

「……おや?この部分、長さの表記がありませんよ」

シーウェルト王子が指差す先を見ると、そこには確かに長さの単位のみが書かれていた。……あれ?昨日見た時はちゃんと数字も書かれてたはずなんだけど……。これは万年筆で書かれてるから普通消えないと思うんだけど……。

「……あれ?何故でしょう。昨日見た時は書かれていたはずなのですが……。マティルダ嬢、ここの長さを教えてくれませんか?」

俺はシーウェルト王子から紙を返してもらって、マティルダ嬢の元へと持って行った。ザワついていた教室が一気に無音の空間と化す。マティルダ嬢はまるで宇宙人を見たかのように俺を凝視していた。……ん?あれ?俺、今何をしてる?数値が消えていることに気づいて、マティルダ嬢に聞いて……ってこんな皆の前で聞いたら駄目じゃん!何やってんの俺!?

俺は自分でも信じられないようなミスをしてしまい、思考と動作が停止した。あれ?何で俺はこんなことをしたんだ?意味不明!社会的死を覚悟するレベル!!

「あっ……ええっと……」

「……本当ですね。きちんと書いたつもりだったのですが」

俺がマティルダ嬢以上に困惑していることに気づいたのか、気を使って何事もないかのように会話を繋げてくれた。俺はマティルダ嬢に心の中で平謝りしながらマティルダ嬢に設計図を渡す。マティルダ嬢はサラサラと数字を書いて俺に返してくれた。

「……その、すみません」

「いつかバレると思っていたので大丈夫ですよ。逆にバレるよりは自分から発信した方が良いとまで思ってましたし」

マティルダ嬢は迷いの無いスッキリとした表情でそう断言した。……マティルダ嬢に何かあったのかな?少し前までは学生らしく色々悩んでたのに、今や熟練の貫禄すら見える希ガス気がする

マティルダ嬢は席から立ち上がり、静まり返った教室に向けて軽くお辞儀をした。

「改めまして。今回、殿下のご依頼よりコーヒーカップの設計図を書かせていただきました、テラスト工房のマティルダと申します。以後、お見知り置きを」

余りに当たり前かのように自己紹介をするので、事の動向を窺っていたクラスメイトは慌てて頭を下げた。ガセネタを喚いていたマティルダ嬢のご友人方面倒な女子テンプレ集団は何かを察したように顔を引き攣らせる。

「まま、マティルダ嬢が描かれたのですか!すごっ、凄いですね!もももしかして、一時期変なうわっ噂が流れてたのは……!」

「多分殿下から依頼を受けている姿を誰かに見られたからでしょうね。それがあんなに嘘が肥大するとは思いませんでしたが……」

マティルダ嬢は目を伏せながらもチラリとお友達()の方を見た。ご友人方は怒りと焦りとその他様々な感情から、声にならない言葉を零している。

「……ほっ、本当に貴女が描いたのかしら?男爵家の令嬢である貴女が何故工房で働いているのか、私は疑問に思いましてよ。トゥオメラ男爵家は娘を働きに出さないといけないほど困窮しているみたいね!」

マティルダ嬢と目が合ったご令嬢は謝る所かマティルダ嬢の実家を馬鹿にした。その場の空気にピリッと張り詰めた。俺の前で憶測や家柄で馬鹿にしたらどうなるか、ユルヤナの一件入学式初日でみんなわかってるみたいだね。

俺が一言もの申そうと一歩前に出ると、マティルダ嬢に手で制された。

「……確かに我が家は貴女のご実家ほど裕福ではありません。ですがこれだけははっきり言わせてください。この仕事は私の誇りです。やりたくて今の仕事をしています。お金とか、そんなもののためにしている訳ではありません」

そしてキリッとした表情でそう告げたマティルダ嬢の堂々たる姿や。カッコイイなおい。

嫌味を言った令嬢は気圧されて一歩下がった。負けじと何かを言おうとするが、それはある人の拍手によってかき消される。

音がした方を見ると、男勝りな公爵令嬢が感心した様子で拍手をしていた。それに釣られて1人、また1人と拍手をマティルダ嬢に送る。

拍手に包まれたマティルダ嬢は困惑しながらも照れくさそうに笑う。すっかり居心地が悪くなってしまった嫌味令嬢はそそくさと教室を後にする。

……あれ?なんでこんな展開になったんだ?
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