前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

これくらいなら良いでしょう?

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はあ……。手っ取り早く誤解を解く方法はないかなー。「誤解だー!」って念じていたらある日突然誤解が解けてないかなー。

……なんて馬鹿げたことを思ってたら実現してしまったようだ。なんてこった。

何があったかと言うと……何があったんだろ?俺もよくわからない。でも何故か好奇の目が潮が引くようになくなって、なんだか謝られているような目を向けられるようになった。何でだ。いや確かに迷惑な噂流されたんだから謝られる立場にはいるんだが。どうしてそうなった。

そう考えているとふと、今朝のユルヤナの行動を思い出した。あの時、クラスメイトに目配せしてたけど、もしかしてこれのこと……?いや、まさかね。いくらユルヤナでも、直ぐに噂を覆すのなんて無理でしょ。……無理、だよね?

ユルヤナが思った以上に有能説が俺の中でまことしやかに流れていると、いつの間にか放課後になっていた。やばい。今日の授業、全然聞いてなかった。……まあ放課後になるヴァイナモに会うのをソワソワしながら待つよりかは幾分かましか。……だよね?

そんな風に自分の中で言い訳をしながら、俺は迎えの馬車へと向かう。そこにはヴァイナモが気まずそうに萎縮して立っていた。俺はにっこりと微笑んで口を開く。

「おはようございます、ヴァイナモ」

ヴァイナモは俺の言葉にキョトンとした。予想通りの反応に少し意地悪な気持ちが膨れてしまった俺は、何でもないように言葉の意図を説明する。

「平日にヴァイナモと会う時は、まず最初におはようの挨拶をしようって決めているのです。もう午後ですが、今まで続けていたことなので、それを崩したくなくて。……すみません、困惑させてしまいましたね。今までそれで弊害がなかったので、このような例外に備えてませんでした」

もちろん嘘である。そんな面倒な決め事してない。でも何もわからないまま避けられるのは癪に障るし、そもそもヴァイナモがいないと寂しい。休みの日でヴァイナモがいないことがわかっていたら別だけど、いつもいるのに今日はいないのは、思ってた以上に寂しかった。それをヴァイナモにもわかって欲しい。

ヴァイナモは目を見開き、申し訳なさそうに手を彷徨わせた。どう反応すれば良いのかわからないんだろう。……仕方ないな。

「……ちゃんと聞かせてくれますか?昨日、何故あのようなことをしたのか。そして何故今朝来なかったのか」

「……わかりました」

ヴァイナモは腹をくくったようで、渋々ながらも頷いてくれた。大まかなことはダーヴィドたちから聞いてるけど、やっぱり本人の口から聞きたい。

ヴァイナモが馬車の中で語ったのは、大体ダーヴィドが言ってたことと同じだった。

マティルダ嬢と俺が親しげに話しているのを見て、焦りと嫉妬を感じてしまった。見当違いな感情である自覚があったためおくびに出さないようにしていたが、俺の真っ直ぐ向けられる瞳に我慢しきれなくて、衝動的にやってしまったとか。俺の部屋を去った後我に返り、猛省して暫くは俺に会わないことを決めたらしい。

「……ですがダーヴィド先輩とオリヴァ先輩に『殿下がめちゃくちゃ寂しがってた』と言われたので、エルが俺に会うことを許してくださっているのなら……と思いまして参上しました」

ヴァイナモは申し訳なさそうに縮まり込んでそう言う。俺は胸の前で腕を組んでヴァイナモを見つめる。いや、威圧する必要はないんだけど、なんとなくそうするべきかなって思いまして。

ヴァイナモは俺の反応を伺うように顎を引いてこちらをチラチラ見て来る。その様子がちょっと可愛い……コホン。

……まあ許すも何も、俺はそもそも怒ってはいない。本当に、ちょっと寂しかっただけ。割とヴァイナモが生活の一部になってるからね。

「……そんな不安がらないでください。私はそもそも怒ってません。きちんとヴァイの口から説明して欲しかったのと、会えないのが寂しかっただけですから」

「……怒っていないのですか?」

「ええ。……婚約者として、あれぐらいのことは普通だと思いますし」

ヴァイナモは俺の発言に瞠目した。俺は気恥ずかしくなって髪を弄りながら目を逸らす。

「……しても、良いのでしょうか?昨日のようなことを」

「はい。ヴァイが望むのであれば……その先のことも」

ヴァイナモが息を飲む音が聞こえた。破廉恥なことを言っている自覚はある。でもヴァイナモには俺に遠慮はして欲しくない。どんなヴァイナモでも、俺は受け入れる覚悟と自信があるから。

長い沈黙の中、俺はヴァイナモの返答を待った。鼓動の高鳴りが止まらない。ヴァイナモの顔を直視出来ない。俺は赤面を隠すように俯いた。

スッと、ヴァイナモの腕が動いたのを視界の端に映った。俺はキュッと目を瞑る。

ポンッ

ヴァイナモの大きな手が、俺の頭を愛おしそうに撫でた。俺は恐る恐る顔を上げる。視界の先には、ヴァイナモが蕩けそうな笑みを浮かべていた。

「……ありがとうございます、エル。ですが今はまだ、その先のことはしません」

「……何故、ですか?私が子供だからですか……?」

多分今、俺の瞳は不安に揺れているだろう。そう断言されると、自分に魅力がないって思われているように感じてしまう。ヴァイナモが俺のことを大切に思ってくれてるのは知ってるけど、でも……俺はヴァイナモと、もっと……。

「……端的に言えばそうですが、多分意味合いが違います。エルはまだ成長途中です。身体の負担になるようなことは、まだするべきではありません。俺はエルにいつまでも健康でいて欲しいので」

ヴァイナモは俺に目線を合わせ、壊れ物を扱うような手つきで俺の頬を撫でた。ヴァイナモの穏やかな瞳に、俺の不安はたちまち溶けていく。……そうだ。ヴァイナモはいつも、俺のことを第一に考えてくれる。なら受け取る俺が不安になったら駄目だ。ちゃんとヴァイナモの意図を汲み取って、尊重しないと。

……でも。

俺はヴァイナモの頬に両手で包み込むように触れた。ヴァイナモが驚いて俺の頬を撫でる手を止めた隙に、俺はぐっと自分の顔をヴァイナモに近づける。そして。

ヴァイナモの唇に、触れるほどのキスをした。

ヴァイナモはポカンと間抜けな表情で固まっている。俺はそれが愛おしくて、思わず頬が緩んだ。

「……ですが、これくらいなら良いでしょう?」

ヴァイナモはヒュッと喉を鳴らす。予想外に甘い声が出てしまったことに、自分自身も驚きが隠せない。

「……良いです、けど、あまり何回もされると俺の理性が仕事を放棄してしまいますので、ほどほどに……」

ヴァイナモは状況が理解出来たのかみるみるうちに顔を真っ赤にさせて、どもりながらそう言った。やっぱり、可愛い。ガタイの良い精悍な青年に向ける言葉じゃないことはわかってるけど、でも可愛い。可愛いは正義不変の真理

触れ合っている時間はほんの一瞬。だけど俺の唇は離れた後でも微かに熱を持っていた。




* * * * * * * * *




○お知らせ○
作者の都合上、来週の投稿はお休みさせていただきます。すみません。
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