前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

面倒なことになりました

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「……と何故か私の案が秒速で採用されたので、設計図を依頼しても良いですか?」

「……まあこう来るとは思ってました」

昼休み、図書委員の仕事で図書室を巡回していた所、1人でいるマティルダ嬢を見つけたので話しかけ、ついでに人力コーヒーカップの設計図の依頼をした。マティルダ嬢は複雑そうに口をうにうにさせる。

「冷蔵庫の方の依頼が少し遅れてしまいますが、人力コーヒーカップの性能をつぶさにお教えくだされば、謹んでお受けさせていただきます」

「ありがとうございます。……あっ、ですが流石にここで話し合うと、会話に夢中になって他の方の迷惑になる可能性がありますね。いつか空いている日を教えてください」

「……今日の放課後は空いているので、一度帰宅した後、宮殿の方へ向かわせていただいてもよろしいでしょうか?」

「それで構いません。ではまた放課後」

あまり話し込んで目立ってもマティルダ嬢が困るだろうから、俺は話を済ませるとさっと図書室の巡回に戻った。

……マティルダ嬢のご友人に俺とマティルダ嬢が話していたことがバレたら大変だろうな。面倒な女子筆頭みたいな感じだし。


* * *


放課後、宮殿の応接室にやって来たマティルダ嬢は見るからにげっそりしており、俺は何となく嫌な予感がした。

「……あの、マティルダ嬢。大丈夫ですか……?」

「大丈夫です……と言いたい所ですが、大丈夫じゃないです……。昼休み、殿下とお話ししていたことを友達に知られてしまい、執拗く問い詰められました」

「……詳しくお願いします」

マティルダ嬢の話によると、昼休みに図書室で俺とマティルダ嬢が話しているのを、ご友人の知り合いがたまたま目撃してそのご友人にバラしたらしく、いつの間に俺と仲良くなったのか、抜け駆けなんて狡い、なんで貧乏男爵令嬢のアンタなんかが、と半分罵りながら問い詰められたそうだ。だけどテラスト工房の依頼注文には守秘義務があるので、「詳しくは話せないけど、ただの事務的な会話だった」と断ったらしい。

すると何か疚しいことがあるだと勘違いしたご友人が、俺を紹介しろと強請ってきたそうだ。今日、宮殿で俺と会うことも知っていたそうで、私も連れてけと言い出したとか。でも今日は依頼の話をするのであって遊びに行くのではなかったし、何より俺の手を煩わせるのも気が引ける、と思ったマティルダ嬢はやんわりと断ったそうだ。

そうしたらご友人の勘違いがますます暴走して、マティルダ嬢が俺を独り占めしようとしていると非難し始めたらしい。周りには人もいるのに気にせず大声で騒ぐご友人に、マティルダ嬢は頭を抱えるのも無理はなく。火消しが面倒を通り越して不可能な域に達したと察したマティルダ嬢は、隙を見てその場から逃げて来たらしい。

「はあ……明日からどんな顔で学園に行けば良いのでしょうか……。今度こそグッバイ私の平穏な学園生活……」

「なんか、すみません。私のせいでマティルダ嬢に迷惑を……」

「あっいえ、近い将来バレるだろうことはわかっていたのですが、あまりにも早かったので心の準備が出来てないだけです」

表情を沈ませる俺に、マティルダ嬢は努めて明るい口調でそう答えた。……いや、事の張本人に気を使わせたら駄目だろ自分。気をしっかりしなきゃ。

「……あの、マティルダ嬢は家具職人であることがバレてしまうのに抵抗はありますか?」

「……少し迷いますが、そうしないと家具作りを続けられないと言うのであれば何の抵抗もなく公表出来ます」

マティルダ嬢の真っ直ぐな眼差しに、精神的な心配はいらないように感じた。だから俺が心配しなきゃいけないのは、彼女の社会的立場だな。そこまでしてでもやめたくないなら、俺は最善を尽くしてマティルダ嬢を守らないと。

「……まあそれは最終手段として、とりあえず明日は普通に登校してみましょう。もしかしたらあまり噂になっていないかもしれませんし。もし辛いようでしたら直ぐに早退しても構いません」

「……ですね。私たちの杞憂である可能性もありますし」

マティルダ嬢は深刻な表情で俯いた。口には出してみたが、その可能性が限りなく低いことをわかっているようだ。胸の前で握られている手が、微かに震えていた。慰めて励ましてあげたいけど、あまり意味が無い気がする。てかどうすれば良いのかわからない。

「……いざとなれば私がそのご友人と直接お話しするのも可能ですが……」

「いえ、それは構いません。十中八九、火に油を注ぐことになりますし、何よりどう言う形であれ、彼女たちが殿下と関わる機会を与えたくありません。低能で話す価値もありませんし、彼女たちの望みが叶ってしまうのは癪に障ります」

マティルダ嬢は強い口調で俺の案を却下した。最後の方に漏れ出た私情的な理由に、俺は思わずクスッと笑ってしまった。ごく普通の女の子だと思ってたけど、案外頑固で強い子なのかもしれないな。まあ貴族令嬢が家具作りしようと思い立つ時点で、彼女も結構な変わり者特大ブーメランだし。

「……何故笑っていらっしゃるのですか?」

「いえ……貴女はとても強い方なのだと思いまして」

「……まあ確かに私は家具作りをしているので、そんじょそこらのご令嬢よりは体力も筋肉もあると思いますが」

「いえ、そう言う意味ではなく……ふふっ」

俺は笑いが堪え切れなくて、顔を背けてクスクスと笑った。すっとぼけてる訳じゃないんだろうけど、まんま前世のコントみたいな会話をしちゃった。

マティルダ嬢は俺が笑っている理由はわからないが、なんだか恥ずかしくなって来たのだろう。焦った様子でソファから腰を上げた。

「……しっ、仕事の話に移りましょう!殿下も私も、色々と用事がありますし!?」

「ふふっ……そうですね、そうしましょう」

「笑わないでください!」

マティルダ嬢は恨めしそうに俺をジト目で見て来る。なんか小動物みたいだな。こう言う仕草に世の男共はキュンとするのかな?俺にはわかんないけど。何せヴァイナモ一筋だからね!……自分で言ってて恥ずかしくなって来た。やめよやめよ。

「そんなに笑われると、ウジウジしている私が馬鹿らしくなるじゃないですか!嫌な気分がどっかに吹っ飛んでしまいますよ!」

「それは良いことですよ。その調子で嫌なことを全て忘れるのです」

「茶化さないでください!……あーもうっ!学園中退も家からの勘当もドンと来い!成るように成れ!最悪私は家具さえ作れれば良い!……って思うことにします」

マティルダ嬢は勢いに任せて宣言した後、我に返ってボソボソと語尾を窄めた。……ふふっ。やっぱり強くて変わり者だな、マティルダ嬢は。なんかどんどん俺の中でのマティルダ嬢の評価が上がって行くな。

「それが一番ですよ。周りの目を気にしすぎて自分を見失っては元の子もありませんし」

「……自分を見失う、ですか。……肝に銘じておきます」

マティルダ嬢は一転して神妙な面持ちで頷いた。ん?なんか思い当たることでもあるのか?……まあ家具作りを隠さないといけないし、その辺のことで何かあったのかな。深く詮索はしない方が良さそうだ。

「では気を取り直して、仕事の話をしましょうか」

「……そうですね。元はと言えばそれをするために今日私はここに来たのですし」

マティルダ嬢は暗い表情を振り払って普段と変わらぬ調子で返事をする。そうして俺たちは仕事の話に入っていった。
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