前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

父上大暴走

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とある休日。俺は何故か朝から父上に呼び出しをくらった。

それを知らせに来たサムエルはどこからか持って来たおめかし用の服を俺に手渡す。俺は困惑しつつもそれを受け取り、パパッと着替えて身支度を整えた。

父上はなんでいきなり俺を呼び出したんだろ。俺はなんもしてないはずなんだけど。

着替えを済ませて部屋を出ると、珍しくゴテゴテの正装をしているヴァイナモが俺の部屋の前で待機していた。なんで?最近は俺が謁見する時でも軽装だったし、正装したとしても簡略化していたのに。このゴテゴテ正装って護衛に向かないから、騎士は護衛任務がある時は基本的に正規の正装を着ないはず。何時ぞやの建国記念式典以来じゃない?

ヴァイナモに何があるのかと尋ねてみたが、何も知らないらしい。朝、オリヴァ配偶者全肯定botに正規の正装をして俺と一緒に父上のもとへと向かえ、と命じられたそうだ。理由を聞いても「行けばわかる」の一点張りだったそうな。オリヴァは何があるのか知ってるのかな?なら教えてくれても良いのに。

疑問は解けないまま、俺たちは2人揃って頭の上に???クエスチョンマークを浮かべながら玉座の間まで向かった。

玉座の間に入るといつもの如く父上が威厳威圧ましましで玉座に座っており、側には枢長が控えていた。でもいつもと違って、父上の側には大司教の姿もあった。

「よく来たな、エルネスティ。早速だがこの書類にサインをしろ」

父上は枢長にハンドサインを送ると、枢長はサッと俺の前にサイドテーブルを置いた。父上は心做しか真剣な様子なので、俺は困惑しながらも威儀を正して枢長から書類とペンを受け取る。

勢いに任せて書類にサインしようとして、はたと何に関しての書類なのか気になった。俺は下ろしかけたペン先を止め、書類をまじまじと見る。

……誓約書?……って!!

「父上!これ、結婚誓約書じゃないですか!?」

「ああ、そうだぞ」

俺のツッコミに父上は平然と返事をする。いや、「ああ、そうだぞ」じゃないよ!?結婚誓約書とはその名の通り、署名することで将来結婚することを誓い合うものだ。ちょっと待って話し合おう?いきなり何の前フリもなく結婚誓約書を息子に書かす父親ってどうなの!?あっコラ!肩揺れてるぞ!笑いを堪えてるのバレバレなんだからな!

ほら見てみい!枢長が気苦労で溜息をついてんぞ!大司教は困惑してオロオロしてるじゃん!部下を困らせんな!報・連・相!これ大事!

「安心せい。ヴァイナモの分も用意してある」

「安心出来ませんよ!何なんですか藪から棒に!」

「ん?ヴァイナモと婚約したくないのか?」

「勿論したいですよありがとうございます!ですが!今はそう言う問題ではなく!」

「ヴァイナモはエルネスティと婚約するのが嫌か?」

俺との会話の途中でいきなり父上から話を振られ、ヴァイナモは驚いてしどろもどろになりながらも答える。

「えっ、えっと、その、俺は出来るのであれば今すぐにでもしたいと思ってますが……」

「なら何も問題はないだろう。グズグズせずさっさとサインしろ」

「問題大アリですよ!こう言うのは事前に連絡しておいてください!それに婚約の儀式は教会でするものではないのですか!?」

「我は忙しいからな。我の時間が空いている時に行うためには寸前まで日程を決められなかったのだ。それに安心せい。大司教が来てくれたから教会でなくても婚約の儀式は出来るぞ」

「それにしても!突拍子すぎますって!と言うより父上が出席する必要あるのですか!?」

「ない。我は出席したいから出席した」

「完全なる私情!職権乱用!暴君反対!」

俺がバンッと机を叩くと、父上は愉快そうにくつくつと笑った。絶対確信犯じゃん……俺がこんな反応するってわかってた素振りじゃんやだー。

枢長は呆れた様子で「だから事前に知らせた方が良いとあれほど……」ボソッと呟いた。ほらやっぱり確信犯じゃん!許しまじ!

「で?どうするのだ?このチャンスを逃すと次はいつ婚約出来るかわからないぞ?婚約するのか?しないのか?」

「するに決まってるじゃないですか!もう!」

俺は半ばヤケクソで書類にサインした。枢長は俺の側で「この流れでサインするのですね」と苦笑いする。ん?なんかおかしい?俺はヴァイナモのの婚約に抵抗はない、ってか逆に願ったり叶ったりだし。

俺は署名し終えるとそのペンをヴァイナモに渡した。枢長もヴァイナモ用の誓約書を取り出し、ヴァイナモに手渡す。ヴァイナモは未だに話について行けてないようで、視線を行ったり来たりさせていた。

バチッとヴァイナモと目が合ったので、俺はニッコリ微笑んでみた。ヴァイナモは安心したのか肩の力を抜くように息を吐き、へにゃりと笑みを返してくれた。ぐう……久々のプライスレスその笑顔、可愛い……荒んだ心の癒し……。

ヴァイナモは覚悟を決めたように真剣な表情になり、丁寧に書類にサインをした。

名前を書き終えたヴァイナモは、ペンをゆっくりと机の上に置く。

「よし。次は誓いのキスだな。お互いの頬にキスをし合え」

「待ってください。ここでですか?」

父上の言葉に俺は思わず聞き返した。父上はキョトンとして頷く。

「当たり前だろう」

「出来る訳ないじゃないですか!?」

俺は再び叫んだ。ヴァイナモも顔を真っ赤にさせて言葉を失っている。父上は目を逸らして耳を塞ぐ素振りを見せた。いや、父上アンタのせいだから!俺がやかましいのは父上大魔王のせいだから!

「そもそも誓いのキスってヴァイナモが私の右手薬指の付け根にキスをするのではないのですか!?」

「それだとお前は女だと言うことになるぞ?それは男女間の婚約の際の儀式であって、同性なら頬にキスをし合うのだ」

俺が半信半疑で大司教を見ると、大司教は可哀想なくらい縮こまってコクコクと頷いた。……おっといけない。怒りを大司教無関係な人に向けたら駄目だ。全て父上諸悪の根源に向けなくては。

俺はジト目で父上を睨みつけるが、父上に効果がないのは言うまでもなく、クツクツと笑った。

「そう睨むでない。まさか頬にキスすらしたことないなどと言うまいな?」

「ありますよそれぐらい!馬鹿にしないでください!」

俺はヤケクソでヴァイナモの襟元を掴んでグイッと引っぱり、抵抗なく引き寄せられたその頬にキスをした。

触れたのは一瞬。俺は恥ずかしくて直ぐに離してしまった。ヴァイナモはポカンと間抜けに口を開けて固まっている。

「ほら!ヴァイナモも私の頬にキスをしてください!」

俺は1秒でも早く羞恥と狂気の沙汰父親の面前でキスから逃れたくて、ヴァイナモの袖を掴んで催促した。するとヴァイナモはハッと我に帰り、真っ直ぐな瞳で俺を見つめ返して来た。俺は思わず息を飲む。

そしてヴァイナモは壊れ物を扱うが如く優しく俺の右の頬に手を添え、俺の頬にキスを落とした。

それは余りにも長く、俺は全身が沸騰していくように感じられた。

どれくらい経っただろうか、ヴァイナモの唇がゆっくり俺から離れる。

「……これでよろしいでしょうか、陛下」

「うむ。良いものを見せてもらった」

ヴァイナモの問いに父上はニヤニヤ満足気に頷いた。……はっ!さては父上、これを見たかっただけだな!?この性悪人間非道暴君!!息子の恋愛事情で遊ぶんじゃねえ!!




* * * * * * * * *




2021/01/02
誤字修正しました。
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