前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

聖歌部の横暴令嬢

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「……聖歌部の横暴令嬢をどうにかして欲しい、ですか?」

「はい。友人が聖歌部に所属していて、今困っていると相談されたのです」

とある日の昼休み、テオドールが委員会で暇だった俺は1-Bまで赴いてユルヤナ代表挨拶君と話していた。ユルヤナのクラスメイトはちらちらとこちらを見てくるが、俺もユルヤナもガン無視する。人気のない所へ行くと逆に変な噂が流されそうだから、あえて人前で堂々と話しているのだ。何故かみんなの中に『俺=怖い』って方程式が成り立っているみたい。解せぬ。

まあそれはともかく。

その会話の中でユルヤナが徐に神妙な表情をしたのでどうかしたのかと尋ねたら、相談したいことがある、と言われて先程の話をされたのだ。

なんでもユルヤナの友人が所属している聖歌に、「我こそはトップスターになるのだ」と意気込んで来た辺境伯のご令嬢が入部して来たらしい。それで「自分の歌がもっと目立つべき」とソロを強請ったり、好き勝手歌って聖歌を台無しにしているらしい。咎めたいが他が下流貴族の子息令嬢ばかりで、誰も言い返せない状態なのだそうだ。

「聖歌とは『調和』を重んじる歌です。そこに身勝手な歌が混じっては台無しです。それを心得ていないそのご令嬢には、是非とも考えを改めて欲しいのですが……」

ユルヤナは語尾を窄めて弱々しく溜息をついた。元々聖歌とはお祈りの間に流れる、所謂BGMのようなものだ。目立つことはご法度である。例え目立つ理由が『上手だから』でもだ。お祈り中に別のことに気を取られてしまうのは神に失礼だと言う考えである。

だから一流の聖歌隊は存在を忘れられることを誇りとしている。一応ソロとかソリはあるのだが、それは1人で歌っても神聖な空気に溶け込めるような癖のない・・・・歌が歌える人に任される役割であり、目立ちたがり屋の駄々こねっ子が出来るようなものではない。

そう言う理由があるので、歌で目立ってトップスターになるのは、聖歌部では不可能なことだ。そのことを先輩が一度はっきりと言ったが、そのご令嬢は聞く耳を持たず、逆に自分を追い出そうとしたその先輩を恨んで、自分のお友達取り巻きに先輩への嫌がらせを指示したらしい。

その先輩は子爵令嬢で横暴令嬢のお友達腰巾着と同階級なのだが、バックに横暴令嬢がいるため抵抗が出来ず、辺境伯以上の子息令嬢との関わりもないため守ってもらえる人もいなくて困っているそうだ。心配になったユルヤナの友達が、俺にその先輩の保護を頼めないかと相談して来て、こうして俺まで話が来たと言う訳だ。

「目には目を権力には権力を、です。お願いします、エルネスティ殿下。先輩を助けてくださいませんか?」

ユルヤナは藁にもすがる思いで嘆願して来たが、俺は少し躊躇われた。いくら羊頭狗肉とは言え、この学園には平等の精神があるのだ。それを先輩を助けるためとは言え、皇族が無視してもいいのだろうか。ただでさえ俺はみんなから怖がられているんだし、あまり身分格差を助長するようなことは避けたい。

「……少し、良い案がないか考える時間をください。私は皇族故、無闇矢鱈と権力を振りかざす訳にはいきませんから」

「そう、ですか……ありがとうございます」

俺が返事を濁したことにユルヤナは残念そうに肩を落とした。本当なら快諾するべき所なんだけど、俺も俺で色々配慮が必要だから……。見ず知らずの先輩のために俺の学園生活を台無しに出来るほど、俺もお人好しじゃないんだ。ごめんね、ユルヤナ。

俺とユルヤナの間に微妙な空気が流れる中、俺は5時間目の予鈴を聞き、一言断ってその場を後にした。


* * *


「……ってことがあったのです」

「……横暴令嬢をどうにかしたい、ですか」

「はい。私としてはその先輩を守ってあげたいのですが、私にも立場がありますし、せっかくクラスメイトとは少し話せるようになったのに、この一件でまた恐れられてしまわないか、関係が崩れてしまわないか……と心配なのです」

その日の帰りの馬車にて、俺はこのことをヴァイナモに相談してみた。ヴァイナモは顎に手を添えて考え込む。

「……すみません。浅学な俺には良い考えが思い浮かびません」

「良いんですよ。いざとなれば私が直接そのご令嬢を説得しますし。……まあ聖歌隊の知識の少ない私が言っても、説得力はないでしょうが」

「聖歌隊……と言うか、歌と言えばやはりサムエルでしょうか」

ヴァイナモの言葉に俺はサムエルを思い浮かべた。確かにサムエルは歌も上手いし、サムエルに一曲歌わせて腕前を見せつけ、その後聖歌隊とは何たるか、トップスターになるにはどうすれば良いかを話せば、横暴令嬢も納得してくれるかな?……でも。

「問題はそのご令嬢が素直にサムエルの話を聞いてくれるか、ですね……」

サムエルは近衛騎士とは言え平民の、しかも我が国の・・・・孤児院出身と言うことになっている。貴族至上主義や選民思想を持っていたら、話を聞かないどころか逆ギレして来る可能性だってある。そうなったら本気で俺は身分を盾にしないといけなくなる。まあサムエルを守るためと思えばどうってことはないけど。

「……エルネスティ様。とりあえず、一度サムエルに話をしてみましょう」

「そうですね。もしかしたらサムエルが良い案を出してくれるかもしれませんし」

ヴァイナモの提案に俺は頷き、この話は一旦ここで終了となり、沈黙がその場に流れた。カタコトと言う音だけが響く居心地の良さに心を休めていた俺は、ふとあることが気になった。

「……そう言えば、ヴァイナモって私と2人きりの時でも『エルネスティ様』呼び、ですよね」

「うえっ?はい。そうですね。それがどうかしたのですか?」

「……いえ、なんでもありません」

俺は首を横に振ると、ヴァイナモはキョトンとした。……ヴァイナモが別に気にしてないのかな。それはちょっと……寂しいかも。

恋人同士だから、愛称で呼び合いたい……とか思っているのが、俺だけだなんて。


* * *


馬車に揺られて宮殿まで戻ってきた俺は、早速サムエルを捕まえてさっきの話をした。

「ふむふむ~。横暴令嬢の説得ですかあ」

「はい。どうでしょう。頼めますか?」

「殿下の思し召しならなんなりと、と言いたい所ですが、僕が言っても逆効果な気がします~」

「……やはりそう思いますか」

サムエルの苦笑いに俺は肩を落とした。やっぱり聞く耳を持たないだろうって思うよね。話を聞く限り、歌は手段であって目的じゃなさそうだし。

気を落とす俺にサムエルはほわほわといつも笑顔を浮かべて口を開いた。

「ですがあ、僕、ひとつ良い案を思いつきましたあ」

「えっ!?本当ですか!?」

俺は思わず前のめりになってサムエルに確認をとった。サムエルは嬉しそうに人差し指を立てる。

「はい~。やはり身分を振りかざして来る人には身分で対抗するべきです~」

「……と言うことはやはり私が直接咎めるべきでしょうか……」

「う~んと、直接話すのは殿下ですが、とある人を話題に出すんです~」

「とある人、とは?」

俺は皆目見当もつかなくて、首をコテンと傾げた。サムエルは立てた人差し指を唇の前に持って行き、悪戯っ子のような笑みを浮かべて、予想外の人の名前を口にした。

「我が国第一皇女、サラフィーナ・ソイリ・アッツォ・ニコ・ハーララ殿下、です~」




* * * * * * * * *




2020/12/26
一部脱字修正しました。
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