前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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学園生活をエンジョイする

設計図のご令嬢

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その後滞っていた委員会決めが早急に進められ、なんとか時間内に決めきることが出来た。シーウェルト王子はいつの間にかに戻って来ていて、さらりと進行役をしていたのに気づいた時は本気で驚いた。お前一体いつ戻って来たんだ……。

1時間目が終わった後、担任の先生はこっそり俺の元に来て、変な空気になった時に助けられなくてすまなかった、と謝って来た。あれはもうどうしようもなかったんだから、気にしなくても良いのに。律儀だな。

俺がそんな風の言葉を返すと、担任の先生はただの自己満足だ、と頼りなさげに笑った。……この人、根っからの善人なんだろうな。変に見栄を張らず、自分に非があるなら例え相手が子供であろうが謝らずにはいられない。だけど謝罪が常に相手のためになるとは限らないことを心得ている。スッパリしていて、それでいて息苦しくない程度に混じり気の少ない・・・人。そんな印象を抱いた。

……若い教師にこんな胃痛クラス任せるなよ、と思っていたけど、今なら「よくやった」と褒めてやらんでもない何様やねんてめえ

まあそれはともかく。

そんなこんなで俺の委員会は図書委員に落ち着き、早速放課後に図書委員会の集まりがあった。テオドールと共に図書室に行くと、他クラスの図書委員に三度見ぐらいされた。俺が図書委員ってそんなに意外か……?いや確かに図書委員は目立たない委員会だろうけど。基本的にカウンター当番と本棚整理しかないし。

「エル皇子はいつ当番を入れますか?」

当番日決めの時にテオドールが俺にそう聞いてきて、他の委員の子がテオドールを二度見した。そんなにエル愛称呼びが変か。だけどエルネスティ皇子って長いんだよ。言う度に向こうもこっちも辟易しちゃう。他のクラスメイトなら『殿下』って呼べば良いんだけど、テオドールは他国の人間だからね。下手に俺を殿下呼びしたら首を跳ねられてしまう。

それにしても、誰かにエル呼びされるのって久しぶりだな。帝都にお忍びで行ってた時はヴァイナモとかに呼ばれてたけど、基本的にエルネスティだもんな。ヴァイナモも未だに『エルネスティ様』呼びだし。……2人きりの時ぐらいは、愛称で呼んで欲しいな……。

なんて考えているたらテオドールから聞かれていたことをすっかり忘れていて、不思議に思ったテオドールに肩を叩かれた。おっと。失敬失敬。

俺はLHRの出来事を教訓に、どの日でも良いと伝えた。ガチでいつでもいいし。部活とかは入る予定ないし、放課後に習い事があるとかでもないし。時間さえあれば魔法陣研究ばっかしてるある意味暇人なんで。

進行役の図書委員長は俺の返答に戸惑いつつも、私事が忙しい子から順番に希望を聞いて行き、当番表を作って行った。良かった。LHRみたいなことにならなくて。

そんなこんなで当番はトントン拍子で決まり、最後に余った日に俺を入れてもらった。テオドールはテオドールで色々用事があるらしいから、いつも一緒にはなれないようだ。まあずっと俺に拘束するのは良くないし、丁度良いか。これを機に他の図書委員の子とも仲良く……は無理か。

……いや、今から諦めちゃ駄目だな。俺より過酷な状況だった父上はちゃんと学友と仲良く(?)なったんだし。いけるいける。多分。


* * *


そんなことを考えていたとある日。俺は昼休みに図書委員の当番として図書室まで来ていた。同じく当番である同学年の子に話しかけてみたが、ビクビクされて話が続かなかった。しょぼん。

まあ落ち込んでもいられないので、俺は気分を切り替えて本棚整理を始めた。返却された本を戻したり、違う分野の本が紛れ込んでいないか確認したりするのだ。カウンターの方はもう1人の当番の子に任せた。俺がカウンターだと借りたくても借りれない子が出て来そうだし。別によっぽどのことがない限り、俺は怒らないんだけどな……。

利用者の様子も確認しながら図書室を歩き回っていると、ふとある女子生徒に目が止まった。あの子は確か同じクラスの子だよな。いつも一緒にいるご令嬢方お友達の雰囲気的に、図書室に来るような子だとは思ってなかったんだけど……。これは流石に偏見か。友達でその人の性格を推し量るのは、流石に失礼だな。心の中で謝っとこ、ごめん。

と言うか別に本を読んでる訳じゃなさそうだな。ペンを持ってるし、何か書いてるのか?

ぼんやりとその女子生徒を眺めていると、彼女の手元から紙が1枚ひらりと落ちた。彼女はそのことに気づいていない様子なので、俺はそれを拾い上げた。これって……家具の設計図?なんで貴族のご令嬢が?

「あの、落としましたよ」

「っ!?すみませっ……って殿下!?!?」

俺が彼女に話しかけると、肩をビクッとさせて俺から紙を奪い取るように受け取ろうとした。しかし俺の顔を見るなり動きがピタッと止まる。貴族のご令嬢にあるまじき間抜け顔でこちらを凝視して来るので、失礼も承知で笑ってしまった。俺がクスッと笑うと彼女はハッとなって慌てて口を手で隠し、恥ずかしそうに目を逸らした。

「……あの、見ました?」

「紙の内容もあんぐり顔もバッチリ見てしまいましたね」

「……ああ……グッバイ私の学園生活……」

彼女は絶望するように頭を抱えた。俺はなんでそんなに落ち込んでいるのかわからず、首を傾げた。なんか既視感があるような……あっ。この反応、前世の友達ヲタク友達同士が同人誌描いてるのを俺にバレた時のと一緒だ。……もしかして、自作の設計図なのか?

「これってもしかしてご自身で?」

「……はい、その通りです……」

「凄いですね……まるで職人が描いているようです……将来は設計士にでもなるのですか?」

「えっ……」

俺の質問に彼女は固まった。あれ?俺なんか変なこと言った?これだけの設計図描けるってことはそれだけ練習したってことで、それは将来の夢だから頑張ったんだと思ったんだけど。あっでも元々上手かったって可能性もあるか。

「……殿下は、男爵令嬢がこんなことをしているのがおかしいとは思わないのですか……?」

すると彼女が震えながらそんなことを聞いて来た。ああ、そっか。一般的に貴族のご令嬢が嗜む趣味でもないし、なるような職業じゃないもんね。周りの目が気になるのかな?

「私は思いませんよ。好きなことならやらないと損ですし、上手ならそれは誇って良いことです。誰々だから何々やるのはおかしいとか、古い考えでしょう。そんな偏見で優秀な芽を摘むなんて、馬鹿馬鹿しいですし」

「……いぇあっ!?ゆゆ、優秀、ですか!?」

「ええ。凄く考え込まれていて、それでいてわかりやすいです。実は私、丁度今、腕の良い家具職人を探しているのですが、どうです?設計士として私に雇われてくれませんか?」

彼女は真剣な表情で考え込んだ。おっ。良い反応。もしかしたら引き受けてくれるかも。俺はソワソワしながら彼女の返事を待った。

「……少し、お返事に時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「わかりました。いつでもお返事をください」

流石に即決は出来ないらしく、申し訳なさげに謝って来た。まあ仕方ない。親御さんとの兼ね合いとかもあるだろうし。

彼女はじっと俺の顔を見つめた後、自分の手のひらを見てグッと握りしめた。俺がキョトンとしていると、彼女は誤魔化すように微笑んだ。……何だろう。まあいっか。
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