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学園生活をエンジョイする
閑話:或王国侯爵四男の心情
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ここまで感情を顕にするのは久しぶりだなあ。
僕ことテオドール・リュド・レーメルは幼馴染のウェル……シーウェルト王子が怒りに任せて教室を飛び出したのを見送りながらそんなことを思った。
ウェルは「反省の時間をくれてやる」スタンスで出て行ったけど、あれ絶対勢いに任せた行動だから、今頃「俺は何のために教室を出たんだ……?」って悩んでるだろうね。ウェルは賢そうに見えるし実際有能だけど、変な所で馬鹿だから。空色への愛憎歪んで他国の皇子に毒を盛るぐらいは馬鹿だから。
今回のエルネスティ皇子の一件も、周りには『物事を客観的に見て、はっきり物を言える人間』のように見えただろう。事実、その見解は間違いではない。しかし今回の件に関しては、実際は「てめえらごときがエルネスティ皇子の綺麗な空色の瞳を濁すんじゃねえ。これは俺のものだ。汚して良いのは俺だけだ」と言う私怨と独占欲が起こしたことだ。
ウェルはよく『彼の人生最大の不幸は2番目に生まれてきたことである』って言われるけど、僕は『空色に対するよくわからない執着を持って生まれてきたこと』だと思う。あの執着は物心ついた時から、下手したら物心つく前からウェルの行動理念の根底にあるからね。僕は天はウェルに二物を与える代わりに決定的な欠点も与えたんじゃないかって思ってる。ウェルにそのことを言ったら「有り得ない」って笑われたけど。あながち間違いじゃないと思うけどなあ。
そんな有能なのに残念すぎる幼馴染だけど、僕はどうしてもウェルのことを恨めない。いや、他国の皇子に毒を盛ったって聞いた時には、本気で絶交を考えたけど。結局ウェルに絆されて今も幼馴染を続けてる。
さっきも言ったけど、ウェルは基本『物事を客観的に見て、はっきり物を言える人間』だからね。ウェルの厳格な、それでいて明瞭で真っ直ぐとした正義論は人々を救い、魅力する。僕もその魅力された人間の1人だ。
僕は幼い頃から人見知りで引っ込み思案だった。人前でろくに喋ることが出来なかった。
……まあそれは今も克服した訳じゃないけど。エルネスティ皇子に初対面で魔法陣の話を振った時も、緊張しすぎてめちゃくちゃ噛んだし。エルネスティ皇子は気にせずきちんと聞いてくれたけど。動機がウェルの指示とは言え、頑張って話しかけて良かったな。当のウェルは蚊帳の外にしちゃってるのに少し罪悪感を覚えなくもないけど、今まで散々振り回されて来たんだし、これくらい許されるよね?魔法陣の話をするの、めちゃくちゃ楽しい。僕は同世代に友達少なかったし……と言うか昔、軽くいじめられてたし。
あがり症なのと、『テオドール』なんて仰々しい名前だったこともあり、昔はお茶会などに参加するとよく同世代の子にからかわれていた。俺は臆病者だったから言い返せなくて、いつも俯いて泣きそうになるのを必死で我慢していた。
そんな中、助けてくれたのがウェルだった。「『テオドール』の名を侮辱することは即ち王族を侮辱すること。テオドールを笑い者にすることは即ち王族である俺を笑い者にすること。それをお前たちは理解しているのか?」と。
僕はウェルのその堂々とした後ろ姿に強く惹き付けられた。同世代とは思えない大人びた物言いに強い憧れを抱いた。
だから他国の皇子に毒を盛るなんて馬鹿な真似をしても見限れなかった。強い光に目が眩んでいたのだ。いつか僕の目は焼き付くされて失明するんじゃないか、なんてことも割と真面目に思っている。
ウェルには為政者の風格があると、僕は本気で思っているのだ。
だから先天性の意味不明な執着が本当に勿体ない。いくらウェルの内面性に惹かれても、その暴走でふと我に返ってウェルから離れてしまうのだ。ウェルもそのことに気づいて何とか直そうとして、そのお陰か感情をいくつかコントロール出来るようになったけど。今はエルネスティ皇子の瞳を前にしても暴走しない。ちょっと女々しい執着は垣間見えるけど。
だからあんな風に独占欲増し増しで罵るウェルは本当に久々だった。昔はよくあったけどね。僕が空色のハンカチを持っていると半狂乱でそれを奪おうとしたりとか、仕方なしに渡したそのハンカチに頬ずりしたかと思えば、次の瞬間にはビリビリに破ったりとか。あれは僕の精神的にキツかった。あの後めちゃくちゃ泣いた。
……まあそんな過去は今はどうでもよくて。ウェルは今や『白馬の王子様』なんて呼ばれるくらいには人々の理想に擬態出来ていたのに。余程エルネスティ皇子が瞳の輝きを奪われたことに腹が立ったんだろうな。まあさっきのアレは空色執着云々を抜きにしても、胸糞悪い出来事だったけどね。僕も聞いてて不快だった。
……まあでも辛そうなエルネスティ皇子の顔を見ても動くことの出来なかった僕も、人のことを言えないんだけどね。人の悪意が僕にまで向けられるんじゃないかって怖くて、エルネスティ皇子を庇うことが出来なかった。
『何もしないでただその場に座っていただけの人間が、行動した人間を非難する資格なんてない』かあ。ははっ。やっぱりウェルの言葉はいつも痛い所を付くなあ。
僕を背に庇ってくれたウェルのためにも、しどろもどろな僕にも丁寧に接してくれたエルネスティ皇子のためにも、僕も動かないと。……ひ、人前で話すのは怖いけど、頑張らなきゃ。
僕は何とか勇気を振り絞って、出来る限り大きな声ではっきりと、教室のみんなに向かって口を開いた。
「……いっ、いつまでみんな、そそそんな風に落ち込んでいるんでっか!?」
やばい。死にたい。恥ずかしすぎて死にたい。
何だよ『でっか』って!?何処の方言!?無理無理生きるのつらい舌噛み切ろう(真顔)
「……テオドール。君もシーウェルト王子と同じように我々を蔑んでいるのだろう?良い気味ではないのか?」
ウェルに突っかかってた男勝りなご令嬢は、俺がめちゃくちゃ噛んだことを総スルーしてそんなことを聞いてきた。えっ待って。そんな悪趣味僕にはないよ?熱い風評被害反対!
「そっ、そんな訳ない……です。僕も、みみ皆と同じだ……し。それっ、それに、今のこの葬式みたいな沈みきったこの場を見て、だっ、誰も清々したとは思えない……よ、きっと。だから、その……さっさと平常運転に戻って欲しい……です」
やばい。本気で死にたい。今すぐ窓ガラスぶち破いて人生最初で最期のダイナミックフライングを楽しんで頭から地面とこんにちはしたい。めちゃくちゃ恥ずかしい。何でこんなに噛むんだ。このあがり症、どうにかならんのか。ならんから今こんな目に会ってるんだけどなあ(遠い目)
「……我々と同じ、とは?」
またしてもご令嬢は僕の噛み噛みスピーキングを全スルーした。逆にアワアワしてるのが恥ずかしいくなって来るほどのスルースキル高さ!
「……僕は怖がってエルネスティ皇子を庇うことが出来なかった。だから皆と同じ、何もしなかった怠け者だよ」
「……テオドール……」
「だから、ね。せせ、せめてエルネスティ皇子が帰ってきた時に、ちゃんと謝りたいんだ。そして、その……沈みきった空気を見て『自分がこの空気を作ったんだ』って傷つけないようにしたい……かな」
「……謝れば、許してもらえるだろうか」
「……許してもらえるよ、きっと」
エルネスティ皇子は割と自分本位な所もあるけど、ある程度の空気は読める人だって、少しの間の関わりでも十分感じ取れた。怒ると怖いけど、優しい人なんだって思う。
後、魔法陣好きに悪い人はいない。これ不変の真理。次のテストに絶対出る(確信)
「……まあ許してもらえるかどうかは関係ないか。重要なのはどれだけ我々が誠心誠意謝罪出来るか……だな。ありがとう、テオドール。我々を励ましてくれて」
ご令嬢は頬を綻ばせて僕に礼を言った。僕の言葉が励ましになったのかな?ただの自己満足のような気がしなくもないけど。……まあ感謝は有難くもらっておこう。普段感謝されるようなことをしない僕には滅多にない機会だし。
「……どっ、どういたしまし……て?」
僕ははにかみながら、感謝され慣れていない、ぎこちない返事をした。
僕ことテオドール・リュド・レーメルは幼馴染のウェル……シーウェルト王子が怒りに任せて教室を飛び出したのを見送りながらそんなことを思った。
ウェルは「反省の時間をくれてやる」スタンスで出て行ったけど、あれ絶対勢いに任せた行動だから、今頃「俺は何のために教室を出たんだ……?」って悩んでるだろうね。ウェルは賢そうに見えるし実際有能だけど、変な所で馬鹿だから。空色への愛憎歪んで他国の皇子に毒を盛るぐらいは馬鹿だから。
今回のエルネスティ皇子の一件も、周りには『物事を客観的に見て、はっきり物を言える人間』のように見えただろう。事実、その見解は間違いではない。しかし今回の件に関しては、実際は「てめえらごときがエルネスティ皇子の綺麗な空色の瞳を濁すんじゃねえ。これは俺のものだ。汚して良いのは俺だけだ」と言う私怨と独占欲が起こしたことだ。
ウェルはよく『彼の人生最大の不幸は2番目に生まれてきたことである』って言われるけど、僕は『空色に対するよくわからない執着を持って生まれてきたこと』だと思う。あの執着は物心ついた時から、下手したら物心つく前からウェルの行動理念の根底にあるからね。僕は天はウェルに二物を与える代わりに決定的な欠点も与えたんじゃないかって思ってる。ウェルにそのことを言ったら「有り得ない」って笑われたけど。あながち間違いじゃないと思うけどなあ。
そんな有能なのに残念すぎる幼馴染だけど、僕はどうしてもウェルのことを恨めない。いや、他国の皇子に毒を盛ったって聞いた時には、本気で絶交を考えたけど。結局ウェルに絆されて今も幼馴染を続けてる。
さっきも言ったけど、ウェルは基本『物事を客観的に見て、はっきり物を言える人間』だからね。ウェルの厳格な、それでいて明瞭で真っ直ぐとした正義論は人々を救い、魅力する。僕もその魅力された人間の1人だ。
僕は幼い頃から人見知りで引っ込み思案だった。人前でろくに喋ることが出来なかった。
……まあそれは今も克服した訳じゃないけど。エルネスティ皇子に初対面で魔法陣の話を振った時も、緊張しすぎてめちゃくちゃ噛んだし。エルネスティ皇子は気にせずきちんと聞いてくれたけど。動機がウェルの指示とは言え、頑張って話しかけて良かったな。当のウェルは蚊帳の外にしちゃってるのに少し罪悪感を覚えなくもないけど、今まで散々振り回されて来たんだし、これくらい許されるよね?魔法陣の話をするの、めちゃくちゃ楽しい。僕は同世代に友達少なかったし……と言うか昔、軽くいじめられてたし。
あがり症なのと、『テオドール』なんて仰々しい名前だったこともあり、昔はお茶会などに参加するとよく同世代の子にからかわれていた。俺は臆病者だったから言い返せなくて、いつも俯いて泣きそうになるのを必死で我慢していた。
そんな中、助けてくれたのがウェルだった。「『テオドール』の名を侮辱することは即ち王族を侮辱すること。テオドールを笑い者にすることは即ち王族である俺を笑い者にすること。それをお前たちは理解しているのか?」と。
僕はウェルのその堂々とした後ろ姿に強く惹き付けられた。同世代とは思えない大人びた物言いに強い憧れを抱いた。
だから他国の皇子に毒を盛るなんて馬鹿な真似をしても見限れなかった。強い光に目が眩んでいたのだ。いつか僕の目は焼き付くされて失明するんじゃないか、なんてことも割と真面目に思っている。
ウェルには為政者の風格があると、僕は本気で思っているのだ。
だから先天性の意味不明な執着が本当に勿体ない。いくらウェルの内面性に惹かれても、その暴走でふと我に返ってウェルから離れてしまうのだ。ウェルもそのことに気づいて何とか直そうとして、そのお陰か感情をいくつかコントロール出来るようになったけど。今はエルネスティ皇子の瞳を前にしても暴走しない。ちょっと女々しい執着は垣間見えるけど。
だからあんな風に独占欲増し増しで罵るウェルは本当に久々だった。昔はよくあったけどね。僕が空色のハンカチを持っていると半狂乱でそれを奪おうとしたりとか、仕方なしに渡したそのハンカチに頬ずりしたかと思えば、次の瞬間にはビリビリに破ったりとか。あれは僕の精神的にキツかった。あの後めちゃくちゃ泣いた。
……まあそんな過去は今はどうでもよくて。ウェルは今や『白馬の王子様』なんて呼ばれるくらいには人々の理想に擬態出来ていたのに。余程エルネスティ皇子が瞳の輝きを奪われたことに腹が立ったんだろうな。まあさっきのアレは空色執着云々を抜きにしても、胸糞悪い出来事だったけどね。僕も聞いてて不快だった。
……まあでも辛そうなエルネスティ皇子の顔を見ても動くことの出来なかった僕も、人のことを言えないんだけどね。人の悪意が僕にまで向けられるんじゃないかって怖くて、エルネスティ皇子を庇うことが出来なかった。
『何もしないでただその場に座っていただけの人間が、行動した人間を非難する資格なんてない』かあ。ははっ。やっぱりウェルの言葉はいつも痛い所を付くなあ。
僕を背に庇ってくれたウェルのためにも、しどろもどろな僕にも丁寧に接してくれたエルネスティ皇子のためにも、僕も動かないと。……ひ、人前で話すのは怖いけど、頑張らなきゃ。
僕は何とか勇気を振り絞って、出来る限り大きな声ではっきりと、教室のみんなに向かって口を開いた。
「……いっ、いつまでみんな、そそそんな風に落ち込んでいるんでっか!?」
やばい。死にたい。恥ずかしすぎて死にたい。
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ウェルに突っかかってた男勝りなご令嬢は、俺がめちゃくちゃ噛んだことを総スルーしてそんなことを聞いてきた。えっ待って。そんな悪趣味僕にはないよ?熱い風評被害反対!
「そっ、そんな訳ない……です。僕も、みみ皆と同じだ……し。それっ、それに、今のこの葬式みたいな沈みきったこの場を見て、だっ、誰も清々したとは思えない……よ、きっと。だから、その……さっさと平常運転に戻って欲しい……です」
やばい。本気で死にたい。今すぐ窓ガラスぶち破いて人生最初で最期のダイナミックフライングを楽しんで頭から地面とこんにちはしたい。めちゃくちゃ恥ずかしい。何でこんなに噛むんだ。このあがり症、どうにかならんのか。ならんから今こんな目に会ってるんだけどなあ(遠い目)
「……我々と同じ、とは?」
またしてもご令嬢は僕の噛み噛みスピーキングを全スルーした。逆にアワアワしてるのが恥ずかしいくなって来るほどのスルースキル高さ!
「……僕は怖がってエルネスティ皇子を庇うことが出来なかった。だから皆と同じ、何もしなかった怠け者だよ」
「……テオドール……」
「だから、ね。せせ、せめてエルネスティ皇子が帰ってきた時に、ちゃんと謝りたいんだ。そして、その……沈みきった空気を見て『自分がこの空気を作ったんだ』って傷つけないようにしたい……かな」
「……謝れば、許してもらえるだろうか」
「……許してもらえるよ、きっと」
エルネスティ皇子は割と自分本位な所もあるけど、ある程度の空気は読める人だって、少しの間の関わりでも十分感じ取れた。怒ると怖いけど、優しい人なんだって思う。
後、魔法陣好きに悪い人はいない。これ不変の真理。次のテストに絶対出る(確信)
「……まあ許してもらえるかどうかは関係ないか。重要なのはどれだけ我々が誠心誠意謝罪出来るか……だな。ありがとう、テオドール。我々を励ましてくれて」
ご令嬢は頬を綻ばせて僕に礼を言った。僕の言葉が励ましになったのかな?ただの自己満足のような気がしなくもないけど。……まあ感謝は有難くもらっておこう。普段感謝されるようなことをしない僕には滅多にない機会だし。
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