前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

文字の大きさ
上 下
143 / 221
学園生活をエンジョイする

天才と変人は紙一重 ※No Side※

しおりを挟む
国立帝都学園。

ハーララ帝国に住む者なら知らない人はいないほどの名門校。その日はその誰もが羨む名門校の輝かしい入学式であった。

新入生たちは緊張の面持ちで学園の門を潜る。彼らはこれまで社交界にほとんど顔を出したことがなく、親同士の繋がりがない限り同世代の子たちと関わる機会がほとんどなかったのだ。だが社交界に置いて人脈は非常に大切になって来る。だから彼らはこの学園で少しでも交流関係を広げようと意気込んでいるのだ。

それに彼らが例年以上に張り切る理由は他にもある。彼らはこの国の第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララと同い年、つまり同級生になるのだ。第四皇子と言えば幼くして魔法陣学の研究に携わる天才で、しかも皇帝のお気に入りである。彼が皇帝になることはないのだが、繋がりがあって損はない、いや寧ろ実家の繁栄の手助けになるような重要人物だ。皆、気に入られたいと願うのも頷けるでだろう。

そんな彼らはクラス分けが貼り出された掲示板の前でクラス分けに一喜一憂しながら、密かに第四皇子を捜していた。この世界には写真なんてものはなく、本人が幼いからか嫌がったからか、肖像画なども出回っていない。なので彼らは親から聞かされた『天使のようと言う比喩を使うのも烏滸がましいような美しい方』と言う手がかりを頼りにするしかない。

ある令嬢は幼馴染である同階級の令嬢と共に、周囲に目を光らせていた。彼女たちは親から『第四皇子と関わりを持って来い』と託されているのである。普通であれば年頃の令嬢には『寵愛を受けて来い』と言う所ではあるが、両親はそれを期待していないと言う。自分たちの娘に自信はないのか、と憤りを感じなくもないが、もし彼女たちが第四皇子から寵愛を受けてしまえば、上流階級の令嬢にどんな仕打ちを受けるかわかったものではない。身の程を弁えている彼女たちは、釈然としないがそれを受け入れることにした。

彼女たちは周りをキョロキョロしながら「あの方、とてもかっこよくありませんか?」「ですが天使と呼ぶには少々雄々しい気が……あの方はどうでしょう」と口元を扇子で隠してヒソヒソと話していた。『天使のような』と言う酷く曖昧で抽象的な特徴しか聞いていないので、なかなか第四皇子が判別出来ないのだ。親は『見たらわかる』と言うが、会ったこともない人がそんな一目見ただけでわかるはずがない。彼女たちは親に多少の苛立ちを覚えながらも、第四皇子探しに専念していた。

するといきなり彼女たちの後ろにいた人が道を開けるようにズザザッと横に身を引いた。彼女たちは誰か大貴族の令嬢でも来たのかと思い、はしたなくない程度に急いで振り返った。

そこにいたのは、正に天使。本当、比喩を使うのすら烏滸がましいような、美の結晶がそこに立っていた。

彼女たちは直感した。彼がかの第四皇子である、と。そして先程までの自分を恥じた。あの程度の・・・・・人間を天使のようだと見なし、第四皇子ではないかと考えていたのだから。

第四皇子は自らの前に出来た道に驚きつつも、堂々とゆったりとした足取りで掲示板に近づいた。その様子を彼女たちだけではなく、その場にいた人全員が固唾を飲んで見守る。

第四皇子は掲示板の前で立ち止まると自分の名前を探し、小さく「1-Aですか」と呟いた。それを聞いて周りの皆は言葉にはしないものの、心の中で歓喜したり落胆したり安堵したり青ざめたりと、しっちゃかめっちゃかであった。前の2つは第四皇子とお近づきになりたかった者の、後の2つは粗相をするのを恐れていた者である。

ちなみに先程話をしていた令嬢2人は同じクラスだったらしく、2人して手を取って静かに喜んだ。いや、声を出せよと言いたい所だが、この静まり返った場で言葉を発することが出来る人間などそうそういるはずもなく……。

「おや、私と同じクラスですね、エルネスティ皇子」

訂正しよう。1人存在した。部下に毒を盛らせたにも関わらずその後堂々と本人の前に姿を現した生粋の猛者鋼メンタル野郎が。

「……シーウェルト王子、ですか」

「はい、お久しぶりです。何時ぞやの建国記念式典以来ですね」

第四皇子が発したその者の名前に、一同息を飲んだ。シーウェルト王子。ベイエル王国第二王子であり、幼くして外交にも携わってきた天才。ルックスも恐ろしいほどに整っており、『才色兼備』『天は彼に二物を与えた』と評されるほどだ。彼の人生最大の不幸は2番目に生まれてきたことである、と言う言葉はあながち間違いではないだろう。

学問の天才と外交の天才が同時に入学して来て、しかも自分と同学年であるとは。その場にいる他の生徒は皆、畏れ多さに溜息をついた。

だが彼らは知らない。理想の王子のようである彼は、空色が関わると人が変わったかのように短慮になる、空色固執野郎であることを。

「……あの時はどうも」

「いえいえ、こちらこそ。部下のマールテンが大変お世話になりました」

「あの後はどうされていたのですか?」

「貴方の聡明なお考えに感化され、暫く王宮に篭っていました。駄目ですね、私は。ひとつのことに集中すると周りが見えなくなって、周りの人間に迷惑をかけてしまいました」

2人のそんな会話を聞き、きっと難しい研究の話をしたのだろう、と周りの人間は判断した。しかし残念ながら実際は、他国の皇子に毒を盛ったと言うことで長い謹慎処分を下されていただけである。しかし嘘はついていない。言葉を変えるだけでここまで聞こえが違うか、と呆れを通り越して感服してしまうのを、誰も責めたりはしないだろう。

「学級は2年間変わらないのでしたね。学友として、これから2年間よろしくお願いします」

「……ええ、よろしくお願いします」

シーウェルト王子はニコニコと笑うが、第四皇子は心做しか冷たい視線を返している。その様子を見た周りの人間は「第四皇子は淡白な人なのか?」と感じた。近寄り難い一匹狼気質なのであれば、触らぬ神に祟りなし。関わらないのが懸命である。

2人は無言のままじっと見つめ合った。穏やかなような一触即発のような微妙な空気に誰1人として動くことが出来ないでいると、誰も想像していなかったもう1人の勇者猛者が現れた。

「あの……!お話中すみません……!」

「ん?何でしょうか」

「胸元の紋章……それって魔法陣を意識しているのですか……!?」

オドオドとした見るからに気弱そうな男子生徒がそんなどうでもいいことを聞くので、動向を見守っていた野次馬たちは肝を冷やした。今、絶対にそんなことを聞ける空気ではないのだ。場違い感半端ないその発言に、第四皇子が不機嫌になったりはしないだろうか。野次馬たちはヒヤヒヤしながら第四皇子の顔色を窺った。

そして彼らは目を見開くこととなる。

第四皇子の表情が、先程までの冷淡な視線からは想像出来ないほど、爛々と輝いていたのだから。

「そうです!私は魔法陣の研究をしているので、是非とも要素を入れて欲しいと、衣装職人に頼んだ所存であります!どうです?センスが良いでござろう!?」

「はいっ……!とと、とてもオシャレで、かっこいいですね……!うっ、羨ましいです……!ぼ、僕も魔法陣に興味があるので……!」

「!?!?本当ですかな!?!?」

「はっ、はひっ……!と言っても、こだっ、古代魔法陣分野ですが……!」

「えっ!?帝国にはほとんど古代魔法陣の文献は残っておりませんぞ……?」

「ぼぼぼ、僕っ!ベイエル王国からのりゅっ、留学生ですっ……!」

「何ですと!?古代学問の宝庫とも呼ばれる、ベイエル王国でござるか!?是非とも!是非とも話を聞かせてくださいな!」

「ぼっぼっ僕もっ!皇子の研究のお話をお聞かせ願えますかっ……!?」

「勿論ですぞ!」

第四皇子は満面の笑みで気弱そうな男子生徒の手を握って、ブンブンと縦に振った。男子生徒も興奮で顔を紅潮させ、涙目になりながらも首を何度も縦に振った。そして第四皇子はもうシーウェルト王子なんて眼中にねえって勢いで、その男子生徒との話に花を咲かせる。そんな急展開に野次馬たちはおろか、シーウェルト王子すらもついて行けなかった。

そして彼らの辞書の第四皇子の項目に、『天使だが変人』と言う説明文が追加されたことは、言うまでもない。




* * * * * * * * *




2020/11/25
誤字修正しました。

2022/03/16
誤字修正しました。
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...