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学園生活をエンジョイする
天才と変人は紙一重 ※No Side※
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国立帝都学園。
ハーララ帝国に住む者なら知らない人はいないほどの名門校。その日はその誰もが羨む名門校の輝かしい入学式であった。
新入生たちは緊張の面持ちで学園の門を潜る。彼らはこれまで社交界にほとんど顔を出したことがなく、親同士の繋がりがない限り同世代の子たちと関わる機会がほとんどなかったのだ。だが社交界に置いて人脈は非常に大切になって来る。だから彼らはこの学園で少しでも交流関係を広げようと意気込んでいるのだ。
それに彼らが例年以上に張り切る理由は他にもある。彼らはこの国の第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララと同い年、つまり同級生になるのだ。第四皇子と言えば幼くして魔法陣学の研究に携わる天才で、しかも皇帝のお気に入りである。彼が皇帝になることはないのだが、繋がりがあって損はない、いや寧ろ実家の繁栄の手助けになるような重要人物だ。皆、気に入られたいと願うのも頷けるでだろう。
そんな彼らはクラス分けが貼り出された掲示板の前でクラス分けに一喜一憂しながら、密かに第四皇子を捜していた。この世界には写真なんてものはなく、本人が幼いからか嫌がったからか、肖像画なども出回っていない。なので彼らは親から聞かされた『天使のようと言う比喩を使うのも烏滸がましいような美しい方』と言う手がかりを頼りにするしかない。
ある令嬢は幼馴染である同階級の令嬢と共に、周囲に目を光らせていた。彼女たちは親から『第四皇子と関わりを持って来い』と託されているのである。普通であれば年頃の令嬢には『寵愛を受けて来い』と言う所ではあるが、両親はそれを期待していないと言う。自分たちの娘に自信はないのか、と憤りを感じなくもないが、もし彼女たちが第四皇子から寵愛を受けてしまえば、上流階級の令嬢にどんな仕打ちを受けるかわかったものではない。身の程を弁えている彼女たちは、釈然としないがそれを受け入れることにした。
彼女たちは周りをキョロキョロしながら「あの方、とてもかっこよくありませんか?」「ですが天使と呼ぶには少々雄々しい気が……あの方はどうでしょう」と口元を扇子で隠してヒソヒソと話していた。『天使のような』と言う酷く曖昧で抽象的な特徴しか聞いていないので、なかなか第四皇子が判別出来ないのだ。親は『見たらわかる』と言うが、会ったこともない人がそんな一目見ただけでわかるはずがない。彼女たちは親に多少の苛立ちを覚えながらも、第四皇子探しに専念していた。
するといきなり彼女たちの後ろにいた人が道を開けるようにズザザッと横に身を引いた。彼女たちは誰か大貴族の令嬢でも来たのかと思い、はしたなくない程度に急いで振り返った。
そこにいたのは、正に天使。本当、比喩を使うのすら烏滸がましいような、美の結晶がそこに立っていた。
彼女たちは直感した。彼がかの第四皇子である、と。そして先程までの自分を恥じた。あの程度の人間を天使のようだと見なし、第四皇子ではないかと考えていたのだから。
第四皇子は自らの前に出来た道に驚きつつも、堂々とゆったりとした足取りで掲示板に近づいた。その様子を彼女たちだけではなく、その場にいた人全員が固唾を飲んで見守る。
第四皇子は掲示板の前で立ち止まると自分の名前を探し、小さく「1-Aですか」と呟いた。それを聞いて周りの皆は言葉にはしないものの、心の中で歓喜したり落胆したり安堵したり青ざめたりと、しっちゃかめっちゃかであった。前の2つは第四皇子とお近づきになりたかった者の、後の2つは粗相をするのを恐れていた者である。
ちなみに先程話をしていた令嬢2人は同じクラスだったらしく、2人して手を取って静かに喜んだ。いや、声を出せよと言いたい所だが、この静まり返った場で言葉を発することが出来る人間などそうそういるはずもなく……。
「おや、私と同じクラスですね、エルネスティ皇子」
訂正しよう。1人存在した。部下に毒を盛らせたにも関わらずその後堂々と本人の前に姿を現した生粋の猛者が。
「……シーウェルト王子、ですか」
「はい、お久しぶりです。何時ぞやの建国記念式典以来ですね」
第四皇子が発したその者の名前に、一同息を飲んだ。シーウェルト王子。ベイエル王国第二王子であり、幼くして外交にも携わってきた天才。ルックスも恐ろしいほどに整っており、『才色兼備』『天は彼に二物を与えた』と評されるほどだ。彼の人生最大の不幸は2番目に生まれてきたことである、と言う言葉はあながち間違いではないだろう。
学問の天才と外交の天才が同時に入学して来て、しかも自分と同学年であるとは。その場にいる他の生徒は皆、畏れ多さに溜息をついた。
だが彼らは知らない。理想の王子のようである彼は、空色が関わると人が変わったかのように短慮になる、空色固執野郎であることを。
「……あの時はどうも」
「いえいえ、こちらこそ。部下のマールテンが大変お世話になりました」
「あの後はどうされていたのですか?」
「貴方の聡明なお考えに感化され、暫く王宮に篭っていました。駄目ですね、私は。ひとつのことに集中すると周りが見えなくなって、周りの人間に迷惑をかけてしまいました」
2人のそんな会話を聞き、きっと難しい研究の話をしたのだろう、と周りの人間は判断した。しかし残念ながら実際は、他国の皇子に毒を盛ったと言うことで長い謹慎処分を下されていただけである。しかし嘘はついていない。言葉を変えるだけでここまで聞こえが違うか、と呆れを通り越して感服してしまうのを、誰も責めたりはしないだろう。
「学級は2年間変わらないのでしたね。学友として、これから2年間よろしくお願いします」
「……ええ、よろしくお願いします」
シーウェルト王子はニコニコと笑うが、第四皇子は心做しか冷たい視線を返している。その様子を見た周りの人間は「第四皇子は淡白な人なのか?」と感じた。近寄り難い一匹狼気質なのであれば、触らぬ神に祟りなし。関わらないのが懸命である。
2人は無言のままじっと見つめ合った。穏やかなような一触即発のような微妙な空気に誰1人として動くことが出来ないでいると、誰も想像していなかったもう1人の勇者が現れた。
「あの……!お話中すみません……!」
「ん?何でしょうか」
「胸元の紋章……それって魔法陣を意識しているのですか……!?」
オドオドとした見るからに気弱そうな男子生徒がそんなことを聞くので、動向を見守っていた野次馬たちは肝を冷やした。今、絶対にそんなことを聞ける空気ではないのだ。場違い感半端ないその発言に、第四皇子が不機嫌になったりはしないだろうか。野次馬たちはヒヤヒヤしながら第四皇子の顔色を窺った。
そして彼らは目を見開くこととなる。
第四皇子の表情が、先程までの冷淡な視線からは想像出来ないほど、爛々と輝いていたのだから。
「そうです!私は魔法陣の研究をしているので、是非とも要素を入れて欲しいと、衣装職人に頼んだ所存であります!どうです?センスが良いでござろう!?」
「はいっ……!とと、とてもオシャレで、かっこいいですね……!うっ、羨ましいです……!ぼ、僕も魔法陣に興味があるので……!」
「!?!?本当ですかな!?!?」
「はっ、はひっ……!と言っても、こだっ、古代魔法陣分野ですが……!」
「えっ!?帝国にはほとんど古代魔法陣の文献は残っておりませんぞ……?」
「ぼぼぼ、僕っ!ベイエル王国からのりゅっ、留学生ですっ……!」
「何ですと!?古代学問の宝庫とも呼ばれる、ベイエル王国でござるか!?是非とも!是非とも話を聞かせてくださいな!」
「ぼっぼっ僕もっ!皇子の研究のお話をお聞かせ願えますかっ……!?」
「勿論ですぞ!」
第四皇子は満面の笑みで気弱そうな男子生徒の手を握って、ブンブンと縦に振った。男子生徒も興奮で顔を紅潮させ、涙目になりながらも首を何度も縦に振った。そして第四皇子はもうシーウェルト王子なんて眼中にねえって勢いで、その男子生徒との話に花を咲かせる。そんな急展開に野次馬たちはおろか、シーウェルト王子すらもついて行けなかった。
そして彼らの辞書の第四皇子の項目に、『天使だが変人』と言う説明文が追加されたことは、言うまでもない。
* * * * * * * * *
2020/11/25
誤字修正しました。
2022/03/16
誤字修正しました。
ハーララ帝国に住む者なら知らない人はいないほどの名門校。その日はその誰もが羨む名門校の輝かしい入学式であった。
新入生たちは緊張の面持ちで学園の門を潜る。彼らはこれまで社交界にほとんど顔を出したことがなく、親同士の繋がりがない限り同世代の子たちと関わる機会がほとんどなかったのだ。だが社交界に置いて人脈は非常に大切になって来る。だから彼らはこの学園で少しでも交流関係を広げようと意気込んでいるのだ。
それに彼らが例年以上に張り切る理由は他にもある。彼らはこの国の第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララと同い年、つまり同級生になるのだ。第四皇子と言えば幼くして魔法陣学の研究に携わる天才で、しかも皇帝のお気に入りである。彼が皇帝になることはないのだが、繋がりがあって損はない、いや寧ろ実家の繁栄の手助けになるような重要人物だ。皆、気に入られたいと願うのも頷けるでだろう。
そんな彼らはクラス分けが貼り出された掲示板の前でクラス分けに一喜一憂しながら、密かに第四皇子を捜していた。この世界には写真なんてものはなく、本人が幼いからか嫌がったからか、肖像画なども出回っていない。なので彼らは親から聞かされた『天使のようと言う比喩を使うのも烏滸がましいような美しい方』と言う手がかりを頼りにするしかない。
ある令嬢は幼馴染である同階級の令嬢と共に、周囲に目を光らせていた。彼女たちは親から『第四皇子と関わりを持って来い』と託されているのである。普通であれば年頃の令嬢には『寵愛を受けて来い』と言う所ではあるが、両親はそれを期待していないと言う。自分たちの娘に自信はないのか、と憤りを感じなくもないが、もし彼女たちが第四皇子から寵愛を受けてしまえば、上流階級の令嬢にどんな仕打ちを受けるかわかったものではない。身の程を弁えている彼女たちは、釈然としないがそれを受け入れることにした。
彼女たちは周りをキョロキョロしながら「あの方、とてもかっこよくありませんか?」「ですが天使と呼ぶには少々雄々しい気が……あの方はどうでしょう」と口元を扇子で隠してヒソヒソと話していた。『天使のような』と言う酷く曖昧で抽象的な特徴しか聞いていないので、なかなか第四皇子が判別出来ないのだ。親は『見たらわかる』と言うが、会ったこともない人がそんな一目見ただけでわかるはずがない。彼女たちは親に多少の苛立ちを覚えながらも、第四皇子探しに専念していた。
するといきなり彼女たちの後ろにいた人が道を開けるようにズザザッと横に身を引いた。彼女たちは誰か大貴族の令嬢でも来たのかと思い、はしたなくない程度に急いで振り返った。
そこにいたのは、正に天使。本当、比喩を使うのすら烏滸がましいような、美の結晶がそこに立っていた。
彼女たちは直感した。彼がかの第四皇子である、と。そして先程までの自分を恥じた。あの程度の人間を天使のようだと見なし、第四皇子ではないかと考えていたのだから。
第四皇子は自らの前に出来た道に驚きつつも、堂々とゆったりとした足取りで掲示板に近づいた。その様子を彼女たちだけではなく、その場にいた人全員が固唾を飲んで見守る。
第四皇子は掲示板の前で立ち止まると自分の名前を探し、小さく「1-Aですか」と呟いた。それを聞いて周りの皆は言葉にはしないものの、心の中で歓喜したり落胆したり安堵したり青ざめたりと、しっちゃかめっちゃかであった。前の2つは第四皇子とお近づきになりたかった者の、後の2つは粗相をするのを恐れていた者である。
ちなみに先程話をしていた令嬢2人は同じクラスだったらしく、2人して手を取って静かに喜んだ。いや、声を出せよと言いたい所だが、この静まり返った場で言葉を発することが出来る人間などそうそういるはずもなく……。
「おや、私と同じクラスですね、エルネスティ皇子」
訂正しよう。1人存在した。部下に毒を盛らせたにも関わらずその後堂々と本人の前に姿を現した生粋の猛者が。
「……シーウェルト王子、ですか」
「はい、お久しぶりです。何時ぞやの建国記念式典以来ですね」
第四皇子が発したその者の名前に、一同息を飲んだ。シーウェルト王子。ベイエル王国第二王子であり、幼くして外交にも携わってきた天才。ルックスも恐ろしいほどに整っており、『才色兼備』『天は彼に二物を与えた』と評されるほどだ。彼の人生最大の不幸は2番目に生まれてきたことである、と言う言葉はあながち間違いではないだろう。
学問の天才と外交の天才が同時に入学して来て、しかも自分と同学年であるとは。その場にいる他の生徒は皆、畏れ多さに溜息をついた。
だが彼らは知らない。理想の王子のようである彼は、空色が関わると人が変わったかのように短慮になる、空色固執野郎であることを。
「……あの時はどうも」
「いえいえ、こちらこそ。部下のマールテンが大変お世話になりました」
「あの後はどうされていたのですか?」
「貴方の聡明なお考えに感化され、暫く王宮に篭っていました。駄目ですね、私は。ひとつのことに集中すると周りが見えなくなって、周りの人間に迷惑をかけてしまいました」
2人のそんな会話を聞き、きっと難しい研究の話をしたのだろう、と周りの人間は判断した。しかし残念ながら実際は、他国の皇子に毒を盛ったと言うことで長い謹慎処分を下されていただけである。しかし嘘はついていない。言葉を変えるだけでここまで聞こえが違うか、と呆れを通り越して感服してしまうのを、誰も責めたりはしないだろう。
「学級は2年間変わらないのでしたね。学友として、これから2年間よろしくお願いします」
「……ええ、よろしくお願いします」
シーウェルト王子はニコニコと笑うが、第四皇子は心做しか冷たい視線を返している。その様子を見た周りの人間は「第四皇子は淡白な人なのか?」と感じた。近寄り難い一匹狼気質なのであれば、触らぬ神に祟りなし。関わらないのが懸命である。
2人は無言のままじっと見つめ合った。穏やかなような一触即発のような微妙な空気に誰1人として動くことが出来ないでいると、誰も想像していなかったもう1人の勇者が現れた。
「あの……!お話中すみません……!」
「ん?何でしょうか」
「胸元の紋章……それって魔法陣を意識しているのですか……!?」
オドオドとした見るからに気弱そうな男子生徒がそんなことを聞くので、動向を見守っていた野次馬たちは肝を冷やした。今、絶対にそんなことを聞ける空気ではないのだ。場違い感半端ないその発言に、第四皇子が不機嫌になったりはしないだろうか。野次馬たちはヒヤヒヤしながら第四皇子の顔色を窺った。
そして彼らは目を見開くこととなる。
第四皇子の表情が、先程までの冷淡な視線からは想像出来ないほど、爛々と輝いていたのだから。
「そうです!私は魔法陣の研究をしているので、是非とも要素を入れて欲しいと、衣装職人に頼んだ所存であります!どうです?センスが良いでござろう!?」
「はいっ……!とと、とてもオシャレで、かっこいいですね……!うっ、羨ましいです……!ぼ、僕も魔法陣に興味があるので……!」
「!?!?本当ですかな!?!?」
「はっ、はひっ……!と言っても、こだっ、古代魔法陣分野ですが……!」
「えっ!?帝国にはほとんど古代魔法陣の文献は残っておりませんぞ……?」
「ぼぼぼ、僕っ!ベイエル王国からのりゅっ、留学生ですっ……!」
「何ですと!?古代学問の宝庫とも呼ばれる、ベイエル王国でござるか!?是非とも!是非とも話を聞かせてくださいな!」
「ぼっぼっ僕もっ!皇子の研究のお話をお聞かせ願えますかっ……!?」
「勿論ですぞ!」
第四皇子は満面の笑みで気弱そうな男子生徒の手を握って、ブンブンと縦に振った。男子生徒も興奮で顔を紅潮させ、涙目になりながらも首を何度も縦に振った。そして第四皇子はもうシーウェルト王子なんて眼中にねえって勢いで、その男子生徒との話に花を咲かせる。そんな急展開に野次馬たちはおろか、シーウェルト王子すらもついて行けなかった。
そして彼らの辞書の第四皇子の項目に、『天使だが変人』と言う説明文が追加されたことは、言うまでもない。
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2020/11/25
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