前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

俺は幸せ者

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「あっ!2人とも、話し合いは済みましたか?」

俺たちが食堂を出ると、食堂の扉のすぐ側で待ち構えていたダーヴィドがニヤニヤとしながらそんなことを尋ねてきた。隣には下世話な笑みを浮かべるオリヴァに、期待の眼差しをこちらに向けて来る他の騎士の面々。別荘に来ていた近衛騎士全員が勢揃いしていた。おいコラ職務放棄!

「いや~ダーヴィド。そんなん、聞く必要もなさそうだぞ」

「おやおや、そのようですね!お熱いことです!」

オリヴァとダーヴィドは俺とヴァイナモの手元を見てニヨニヨと笑う。揶揄われてヴァイナモもボンッと顔を赤くした。何だよ3人とも初心かよ。思春期突入したDCかよ。手を繋いでるぐらいでそんな反応しないでくれる!?

……いや、確かに恥ずかしいけど。俺も心の中でめちゃくちゃ格闘してるけど。

俺はジト目で2人を見ながらヴァイナモの手を握る手に力を込め、先程の会話を思い返した。


* * *


「……はい。喜んでお受け取り致します」

俺が半ギレで捲し立てると、ヴァイナモは覚悟を決めるかの如く目を瞑って熟考し、ゆっくりと目を開いて俺を真っ直ぐ見つめながらへにゃりと笑ってそう言った。俺は嬉しさやら恥ずかしさやらでいたたまれなくなり、思わずヴァイナモの袖を掴んでいた手を勢いよく離した。

ぐう……。そこでその笑顔は狡いって!俺はヴァイナモのその笑顔に弱いんだって!

「……ありがとうございます」

俺が素っ気なく礼を言うと、ヴァイナモは俺の前で片膝立ちをして俺の顔を覗き込んで来た。そして優しく俺の右手を掴み、その薬指の根元にキスを落とした。いきなりの行動で俺は思考がショートする。

……これは通常、貴公子が令嬢と婚約をする際に教会で行う婚約の儀式だ。だが今はラブロマンス小説の影響からか、思いが通じ合った時にすることも多くなって来ている。……意外だな。ヴァイナモがこんなの知ってるなんて。1ミリも興味なさそうなのに。

「……ヴァイナモ?その作法の意味はわかっていますか……?

「はい。ダーヴィド先輩に教わりました」

何教えてんだよくやったダーヴィド!

俺は複雑に感じつつも、弧を描こうとする唇を噛むことでなんとか抑えた。

だってヴァイナモだよ?乙女ゲームとかに出てきそうな王道イケメン騎士様だぞ?サマにならないはずがない!ヴァイナモはぐうイケメン(不変の真理)

ヴァイナモは俺から手を離しその手を胸に添え、片膝立ちのまま俺を見上げた。

「……これで俺たちは晴れて恋人同士となった、と言うことですよね?」

「そ……う言うことになりますね。恋人、ですか」

俺は『恋人』と言う単語を口にして恥ずかしくなり、ヴァイナモから目を逸らした。まさか、ヴァイナモと思いが通じ合う日が来るとは思ってなかったから、まだちょっと夢心地だ。

ヴァイナモはもじもじしている俺にキョトンとした後、愛おしいものを見るかの如く暖かく柔らかい笑みをこちらに向けて来た。俺は余計に恥ずかしくなってそっぽを向いてしまった。

「……エルネスティ様?」

「いえ、その、少しむず痒くて……」

「……俺もです。思いが通じ合うって、こんなにも幸せな気持ちになるのですね」

俺は首だけ振り返ってヴァイナモをちらりと見る。ヴァイナモは幸せオーラ全開でへにゃりと笑っていた。その姿に胸がキュンと鳴って、息が苦しくなった。

前世で友達ヲタクが「推しがてぇてぇ尊い……無理生きるのがしんどい」って言ってた気持ちがよくわかった。推しと好きな人とは概念が違うけど、尊すぎて息するのも辛いってことでしょ?当時は「何言ってんだコイツ」って思ってテキトーに流してたけど、今なら心から共感出来る。

世界よ、ヴァイナモ好きな人と言う存在を生み出してくれてありがとう。

俺が顔を手で覆って幸福なしんどさを感じていると、ヴァイナモが不思議そうに首を傾げた。

「……どうかしました?」

「……いえ、この世の生命の誕生に感謝してました」

「せ、生命の誕生?」

ヴァイナモは訳がわからないと頭上にクエスチョンマークを飛ばした。やばい。ヴァイナモが何しても好きが溢れる。重症だ。

「……気にしないでください。ただの戯言です」

「そうですか……。……それで、エルネスティ様。これからどうします?」

「どうします、とは?」

いきなり話を切り替えたヴァイナモに、今度は俺が不思議がる番だ。どうするって、どうもしないのでは?

「食堂の外に大勢の気配を感じます。多分ダーヴィド先輩やオリヴァ先輩をはじめとした近衛騎士の面々が待ち構えているかと思われます」

「……えっ?本当ですか?」

「はい。どうされますか?そのまま食堂を出ますか?それとも蹴散らしますか?」

俺は扉の方へ振り向いた。シーンとしていて何も感じれないが、ヴァイナモ曰くこの先に騎士の面々が勢揃いしているそうだ。……ダーヴィドが呼んだのかな?それとも食堂に来る道中でヴァイナモの居場所を聞いた新人騎士かな?どちらにせよ、言わせてくれ。

何やってんだDCの悪ノリかお前ら。暇じゃねえだろ。

たかが騎士ヴァイナモの色恋沙汰に……いや、ダーヴィドは3年も待ち侘びていたって言ってたし、もしかして他の騎士の皆さんも……?ずっと「てめえらさっさと付き合えや」って思ってた可能性大?それはちょっと申し訳ない……かもしれない。何が申し訳ないかはわかんないけど。

……はあ。仕方ない。甘んじて弄られに行きますか。

「そのまま出ましょう。彼らには随分長く待たせてしまったみたいですし」

「……?まだそんなに時間は経ってませんよ?」

ヴァイナモは少し違う解釈をしたが、訂正するのも面倒だしメリットもないので、そう言うことにした。ヴァイナモだったら変な罪悪感とか抱きそうだし。

「……まあそれはそれとして、行きましょう」

「……まあ、はい。わかりました」

ヴァイナモは一旦疑問を端に置いて、俺に手を差し伸べて来た。あまりに自然すぎたので、俺は何の疑問も抱かずにその手を掴む。ふわっと手にヴァイナモの温もりが感じた所で、俺たち・・は我に返った。

「あっ、すみません!サラッと手を掴んでしまって!」

「いっ、いえ!俺も無意識に手を差し出していたので!はっ、離しましょうか?」

ヴァイナモが慌てて掴む手の力を抜こうとした。でも俺はその温もりがもの惜しくて、俺は掴む手の力を強めた。

「いえ!ここで離すのも変ですし、このまま行きましょう!」

「えっ、ですが……いえ、はい。そうしましょう」

ヴァイナモは一瞬戸惑ったが、すぐに嬉しそうに頬を緩めた。俺はヴァイナモのその仕草が照れくさく思いつつも、満足気に頷くのであった。


* * *


「……ふふっ。殿下が幸せそうでよかったです」

そんなことを考えていると、ダーヴィドが先程の下衆な笑みではなく、心から祝福してくれているような笑みで俺を覗き込んで来た。他の騎士も微笑ましそうに俺を見てくる。俺は自然と頬が上がっていたのにやっと気づき、慌てて頬を揉んだ。

好きな人と思いが通じて、それを周りから祝福されて、本当に俺は幸せ者だな。

俺はしみじみとそう思うと、満面の笑みを浮かべてダーヴィドに礼を言った。
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