上 下
126 / 219
動き出す時

なかったことにしてたまるか

しおりを挟む
「ちょっとダーヴィド!そんな引っ張らないでください!自分で行けますから!」

俺は俺の腕をグイグイ引っ張って廊下をズンズンと進むダーヴィドに抗議してた。善は急げと言うけど!俺is your主!そんな粗末に扱わないで!

何故そんな状況になっているのか。その理由は単純で、俺が自室で返事をすると決心していた所、ダーヴィドは俺の手首を掴んで立ち上がらせ、無邪気な満面の笑みを浮かべて俺をヴァイナモの元へ引っ張り始めたのだ。俺は前のめりになりながらも何とかダーヴィドについて行く。

俺が止めるよう言ってもダーヴィドは聞く耳を持たない……と言うかウキウキしすぎて俺の声が届いていない。全身から『この時を待ち侘びていた!!』って言うのが感じ取れて、俺は怒る気も失せた。

……まあダーヴィドは俺が自分の気持ちに気づいた時、俺に告白して欲しそうだったけど、最終的には俺の意思を尊重してくれてたし。寧ろ2人きりにならないように配慮してくれたし。今回も、返事しに行くって決めたのは俺だし。押しは強いけど無理矢理ではないから、憎めないんだよね。

そんなことを考えていると、急にダーヴィドは歩みを止め、近くを歩いていた騎士に話しかけた。

「あっ!そこの君!ヴァイナモどこにいるか知ってる!?」

「えっあっダーヴィド先輩!?ヴァイナモ先輩は、ええっと、さっきオリヴァ先輩と食堂の方へ行ったと思います!」

「ありがとう!」

話しかけられた新人らしき騎士が慌てふためきながらも答えると、ダーヴィドは律儀にお礼を言って食堂の方へ向き直った。てかダーヴィド、ヴァイナモがどこにいるかわかんなかったのね。あんな自信満々に歩いてたのに。ここまで無駄足だったのかよ!

てかいい加減歩きにくい!自分の足で行けるから!離してダーヴィド!

俺はダーヴィドの前に魔法で障壁を作り出して、強制的に止まるように仕向けた。ダーヴィドに対して魔法を使うのは憚られるけど、近衛騎士ダーヴィド皇子の言うことに耳を傾けないのがいけないんだからね!当然の対処……のはず、多分。

ダーヴィドは顔から障壁にぶつかったらしく、呻きながら俺の腕を掴んでいた手を離して両手で顔を覆った。

「……痛いです……」

「……すみません。私の声が聞こえてなかったようなので、つい……」

「えっ?殿下、何か仰ってました?」

「はい。自分で歩けるので腕を離して欲しい、と」

「誠に申し訳ございませんでした!」

キョトンとしていたダーヴィドは俺の言葉に青ざめて腰から直角に頭を下げた。本気で俺の声が聞こえてなかったみたいだ。どんだけ気が荒ぶってたんだよ。たかだか俺とヴァイナモの色恋沙汰で。

「……まあ別に構いませんが。この距離で私の声が届かないとは、どれだけ夢中になってたのですか」

「……いやあ、僭越ながらずっとこの時を待っていたので、気持ちが先走ってしまって……」

ダーヴィドは困ったように笑って後頭部に手を添えた。俺は仕方ないなと溜息をつく。全く、まだ俺がこの気持ちに自覚して1週間も経ってないのに、大袈裟だな。

……ん?いや、ちょっと待て。俺が自覚した時、何の意外性もなくダーヴィドとか他の騎士たちは受け入れていたよな?つまるところ俺がヴァイナモが好きなことは、俺の自覚前から周知の事実だった?いや、まさかそんな。

「……あの、ちなみにずっと、とはどれくらい前から待ち侘びていたのですか……?」

「えっとですね……かれこれ3年になるでしょうか」

「さっ、3年!?」

ダーヴィドがさらりと恐ろしいことを言った。待って、3年前って俺10歳だよ!?そんな時から『はよくっつけ!』って思ってたの!?なんで!?あの頃はまだ純粋な主の信頼と騎士の忠誠って関係だった……はず、多分。俺いつからヴァイナモのことが好きかわかんないから断言は出来ないけど。

ダーヴィドは目をギラギラさせて俺に詰め寄って来た。

「3年も焦らされたんですから、今日こそはめでたくくっついてもらいますよ!」

「わかりました、わかりましたから!近いです!」

俺が後退るとダーヴィドはハッとなって一歩下がって咳払いをした。いや、誤魔化せてないから。全く、しょうがないなあ。


* * *


「……この中にヴァイナモがいる……うう、緊張してきました」

「今更ひよっても遅いですよ!行きましょう!」

食堂前までやって来た俺は、いざ返事をするとなると緊張して来て、食堂の扉を開けずにいた。いや、向こうの気持ちはもう知ってるから、後は俺も同じだと言うことを伝えるだけなんだけどね。勇気を振り絞って告白してくれたヴァイナモに比べたら何倍も楽なのはわかってる。

ダーヴィドは俺を励ましつつも、俺が覚悟を決めるまで待ってくれている。ここで無理矢理扉を開いて俺をヴァイナモの前に突き出さない所が、ダーヴィドの株が高い理由だ。

俺は目を瞑って何度も深呼吸を繰り返した。大丈夫、大丈夫。いける。俺なら出来る。そう自分に暗示をかけながら。

そして恐る恐る扉を押して、食堂に入った。食堂ではヴァイナモがオリヴァが何かを話していたようで、2人同時にこちらを振り返った。ヴァイナモははち切れんばかりに目を見開き固まっており、オリヴァは「やっと来たか」と言わんばかりに肩を落とした。

「……エルネスティ、様」

「ヴァイナモ、少し話があります」

ヴァイナモは俺の真剣な様子に圧倒されたのか、ごくんと唾を飲み込んだ。その間ダーヴィドはオリヴァを連れて食堂を出て行く。俺は何も言ってないのに、気を使ってくれたみたいだ。ありがとう。流石に人前で告白の返事をするのは恥ずかしい。

「……その、話、と言うのは」

「……ヴァイナモの告白の返事をしようと思いまして」

ヴァイナモは悲痛そうに顔を歪めた。やっぱりこんな早くに返事をするのは変かな。でも曖昧な関係のままでいるのも嫌だし。ヴァイナモの隣はいつも気を許せる場所であって欲しい。

「……あの、私は……」

「すみません」

俺が話し始めようとした時、ヴァイナモがそれに被せるように謝って来た。俺はいきなり謝られたことに驚いて、思わず言葉を飲み込んだ。

「いきなり変なことを言い出してエルネスティ様を困らせて、本当にすみません。エルネスティ様のお気に障るようでしたら、なかったことにしても構いませんから」

「……はっ?」

ヴァイナモは居心地が悪そうに目を逸らして戯言を口にした。俺はそれを理解することが出来ない。何だって?なかったことにしても良い?

ヴァイナモにとって、あの告白はその程度のものだったのか?

「……あの告白は軽い気持ちだったのですか?」

「……いえ、確かに思わず口から零れてしまったことは否定しませんが、この気持ちは本気です」

ヴァイナモは戸惑いつつも正直に答えてくれた。良かった。ここであの告白は冗談でした、とか言われたら俺もう生きていけない所だった。

多分ヴァイナモはあの告白で俺が困ってるって思ってるんだろうな。まあ『考える時間をください』なんて『今までそんな風に思ったことがありません』って言ってるようなものだしな。それは俺の落ち度だ。

でも、せっかくヴァイナモが告白してくれたのに、なかったことにしてたまるか。

俺はそう決意してギュッと拳を握り、真っ直ぐヴァイナモを見つめて言った。

「……それなら、なかったことになんてしませんよ」
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね大歓迎です!!

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...