前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

もっと体力をつけるべきだよね

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鳥たちを十分に堪能した俺は、名残惜しさも感じながらも鳥たちとお別れをした。なんか鳥たちの動きが『行かないで』って言ってるようで胸が痛かったけど、俺はずっとここにいる訳にもいかないし、気候的な面で連れて行く訳にもいかないからね。

次に向かうのは、ちょっとした滝がある場所らしい。ここからは道が険しくなるから十分に気をつけて欲しいとのこと。俺はわかったと言おうとヴァイナモへ顔を上げた時、一瞬クラっと目眩を感じた。俺はふらついてヴァイナモに寄りかかる。

だけど直ぐに目眩は止んだので、俺は俺の心臓のためにもそそくさと体勢を戻した。ヴァイナモはとても心配そうにするが、大丈夫だと言って宥めた。疲れてるのかな?

ダーヴィドが「ヴァイナモにおんぶしてもらっては?」とニヨニヨしながら言って来たので、俺は少し魔力で威圧した。ダーヴィドは「ひょえっ!」と情けない声を出してオリヴァの後ろに隠れた。

こら。を揶揄うんじゃありません。ノリが完全にDKって言うよりDCなんだが。ダーヴィドよ、お前は一体いくつなんだ。中性的で年齢不詳な見目してるから本当にわからんぞ。オリヴァよりは年下っぽいけど。

オリヴァはそんなやり取りをケラケラと笑いながら見ていた。なんかオリヴァも俺に遠慮がなくなったよな。いや、最初からあまり遠慮はなかったけど。以前のオリヴァならここで笑いを噛み殺しながら呆れている素振りを見せる所だと思う。

サムエルはこちらの会話など塵も気にする様子もなくハーララ軍歌別名『戦闘狂の行進曲』を歌いながらずんずんと先へ進んでいた。うん。サムエルはいつまで経ってもサムエル歌しか勝たんだね。謎の安心感あるわ。

ヴァイナモは相変わらず俺の手を握って真っ直ぐ前を向いていた。なんか緊張してる?と思って聞いてみたところ、「エルネスティ様に危険がないよう、警戒しているのです」とのこと。えっ……?会話にも参加しないから、それ程集中しないといけないと言うこと。てことはここからの道のりはよっぽど険しいの?俺も気を引き締めた方が良い?

ヴァイナモにそう聞くと「俺がお護りするので、エルネスティ様は安心してお話しください」とのこと。ヴァイナモはいつもそうやって!直ぐに騎士様みたいな実際騎士様王道テンプレ胸きゅん発言をする!俺の心臓の墓が乱立してるよ!え?ちょろすぎないかって?うっせえそんなことねえだろわかってんだよ!?

おいコラそこの下衆顔2人オリヴァとダーヴィドをそんな目で見るんじゃありません!


* * *


その後険しい岩場や獣道などを越えて、俺たちは滝のある場所へと到着した。思ってた以上に道のりが険しくて体力虫並みな俺にはハードすぎた。めちゃくちゃぜえぜえ言ってると、ヴァイナモが心配そうに背中を摩ってくれる。ありがとう……。

ヴァイナモから事前に聞かされていたのは小さい滝だって話だったけど、実際見てみると結構デカい。いや俺に比べる対象がないからそう感じるだけかもしれないけど。俺の感覚ではデカい。マイナスイオンを感じる。どう言ったものなのかよく知らんけど。

「おお。涼しいな」

「道中汗かいたので有難いですね!」

「歌いたくなりますね~」

俺がぜえぜえ言ってる側で、護衛騎士組は息のひとつも切れてない様子で感想を述べて言った。体力化け物かよ……。いや、騎士だからこれくらいでへばってたら駄目だけどさ。その体力を俺にも少しわけて欲しい。

ヴァイナモがどこからか取り出した布を敷いてくれたので、俺はそこに座ってひと休憩した。脚が乳酸でパンパンだ。ちょっと揉んでおかないと。

「……ちょっと鍛えた方が良いのでしょうか」

「いや、近衛騎士の底無し体力と比べたら駄目だぞ。この山道は普通の人ならすぐへばるだろ」

俺が脚を揉みながら溜息をつくと、オリヴァが苦笑いで訂正を入れた。確かに前世の俺がこの道を歩いても、今みたいにぜえはあ言ってるだろうな。趣味歴史書漁りの完全インドア派だから、あんま参考にはならないかもだけど。

いや、でも今はこの山道で疲れるかどうか以前の話で。

「……それでもあまりにも体力が無さすぎるのではないかと思うのです」

「まあ確かにもっと体力はあった方が良いですよね~」

「体力と魔力も深い繋がりがありますからね。体力があって損はないでしょう」

俺の呟きに皆色々と返してくれる。やっぱり体力はあった方が良いよね。筋トレ始めようかな。今じゃ腕立て伏せ一回すらままならないだろうけど。毎日続けていれば人並みに出来るようになる、はず。

でも三日坊主になりそうだな。俺は前世からの筋金入りのインドア派だし。前世では一応学校の授業で体育があったから運動は人並みに出来たけど、今世じゃ本気で運動とは無縁の人生歩んで来たからな。いきなり始めても翌日筋肉痛になって休んだら、そのままズルズルとしなくなりそう。この場合一日坊主って言った方が正しいのか?

「どうかされましたか?エルネスティ様」

俺が悶々と考え込んでいると、お昼のお弁当を準備していたヴァイナモが顔を覗き込んで来た。俺は思わず顔を仰け反る。やめて!急に目の前にヴァイナモの顔が来たら、俺の心臓がもたないから!

「えっと。ちょっと鍛えた方が良いと思ったのですが、今の私では二日も続かないかも……と考えていました」

「……エルネスティ様は今のお姿がお似合いだと思いますが……」

ヴァイナモはしゅんと眉を下げた。そう言や以前にもそんな感じのこと言ってたな。いや確かに今の姿天使も気に入ってるけどさ。やっぱり男子として、もっと逞しくなった方が良いんでね?って思うんだよね。

「いや、見目より体力の方が重要だろ。研究なんて体力勝負だろうし」

「……確かにそうですよね。エルネスティ様には今のままでいて欲しいと思うのは、俺の我儘ですよね……」

うぐっ。そんな悲しそうな表情をすんじゃねえ!俺なんも悪くないのに、罪悪感で押し潰されそうになるじゃん!なんでそんなにヴァイナモは俺に逞しくなって欲しくないの!?俺の身体なんてヴァイナモには関係ないでしょ!

「まあまあ!見た目が変わるまで鍛えなければ良いだけですよ!体力増量は必須です!」

どうすべきか迷っていると、ダーヴィドが上手い具合にまとめてくれた。まあ確かに多少は身体が引き締まるだろうけど、ちょっと運動した所で体格がガラリと変わる訳ではないわな。変わるんならこの世にダイエット一生の試練なんて存在しないし。

「……まあ殿下が鍛えたとして、俺たちみたいな屈強な体格になるとは思えねえしな」

「失礼ですね。私だって本気を出して鍛えたらヴァイナモぐらいの体格になりますよ!多分!」

「いや、それは多分無理ですよ」

オリヴァとダーヴィドは目配せをし合って、うんうんと頷いた。なんだよ!そんな風に決めつけんなよ!可能性はゼロじゃない限りなくゼロだろこんちくしょう!

「……なら俺は団長に筋肉をつけないで体力を増量する方法を聞いておきますね」

ヴァイナモは妥協したようなしかめっ面でそう言う。いや、思い直して!皇子の思いつきでお忙しい団長さん近衛騎士団団長の手を煩わせたら駄目でしょ!?
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