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動き出す時
悪夢から逃れる方法
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夢から、オバケから、あの子から逃げるために、行き着いた先は……。
「エルネスティ様!?どうされたのですか!?」
ヴァイナモの部屋だった。
俺が必死の形相でドアをバンバンとノックをすると、血相を変えたヴァイナモが出て来た。敵襲だと勘違いしなかったのかな?とは思ったけど、多分気配とかそんなんでわかったんだと思う、多分。てか今はそんなのどうでもいい。
「あっ……えっと、ヴァイナモ……」
俺は涙目になりながら、ギュッと枕を抱き締め直した。頭がパニック状態で、上手く言葉が紡げない。ヴァイナモが困っちゃうから、早く事情を説明しないと!
「……あ、あの!あのですね!」
「エルネスティ様!まずは落ち着いてください!過呼吸になってます!」
上手く息が出来なくて吃っていると、ヴァイナモが優しく手を引いて部屋の中に入れてくれた。俺はソファに座らされ、ヴァイナモが俺の前で片膝立ちをする。そしてゆっくり呼吸するテンポで俺の背中を優しく叩いてくれた。
俺の虚ろな目を真っ直ぐに見つめ返してくれるヴァイナモに、俺はだんだん落ち着きを取り戻し出した。それに比例して呼吸も落ち着いて来る。
「……大丈夫ですか?エルネスティ様」
「……はい。ありがとうございます、ヴァイナモ」
「……何かあったのですか?」
ヴァイナモは翡翠色の瞳で俺を覗き込んで来る。その宝石のように美しい瞳に、俺はドキンと胸が高まった。……年相応のへにゃりとした笑みも好きだけど、真剣な表情の時のこの瞳も好きだな。透き通っていて鋭いのに、全く痛くない。吸い込まれるような純麗なふたつの丸い飴玉。
……メロン味の飴玉食べたい。
ぽけーっとそんなことを考えていると、俺が放心状態であると思ったヴァイナモが優しく肩を揺すってくれた。俺はハッとなって、咳払いを一回した。
「……その、お恥ずかしい話、少々怖い夢を見まして、それで気が動転してしまい……」
「怖い夢、ですか?」
「はい。オバケに追いかけられる夢を。……すみません。これくらいのことで。子供っぽいですよね」
俺が怯えるように身を縮こませると、ヴァイナモの方から小さく息を呑む声が漏れた。そして徐に立ち上がったかと思うと、俺の隣に座って俺の方に手を伸ばす。後頭部にヴァイナモの手の熱を感じると同時に、俺の頭はヴァイナモの胸へ引き寄せられた。俺は突然のことで思考回路がエラーを表示している。
「……オバケや幽霊とはこの世の者ならざる存在。それを恐れることを、何故嘲弄の対象に出来ましょうか。……大丈夫です。もう二度とそんな夢を見ないよう、俺がお護りしますから」
……あの、その、まだ思考回路は完全に修復していないけど、ひとつ聞いて良い?
これどこの少女漫画ですか!?
なんだよ悪夢から護るって!王子様か!?騎士様か!?いや実際騎士様だけど!ついでに言うと皇子様は俺だけど!
惚れてまうやろ!?
「……エルネスティ様?」
「ひゃうっ。……コホン、その、わざわざヴァイナモの手を煩わせる訳には……」
「お気になさらず。騎士としての務めです」
ヴァイナモは耳元でそう囁く。やめて!そんな良い声で囁かないで!?耳が溶ける!?変な声出ちゃう!?咳払いで誤魔化したけど、絶対聞かれたよね!?恥ずかしい!俺って耳弱かったっけ!?
俺は先程までの恐怖を忘れて顔を紅潮させた。それがバレたくなかったので、グリグリとヴァイナモの胸に頭を擦り寄せた。ヴァイナモは優しい手つきで俺の頭を撫でてくれる。もう!行動のひとつひとつが心臓に悪い!何なのヴァイナモは俺をキュン死させたいの!?
てかアレなんだよ!今、寝間着だからヴァイナモも着崩してるんだよ!襟元とか袖とか、普段はかっちりしてるのに、今は緩めてるんだよ!そこから溢れ出す色気よ!いい匂いだし!何なのそんなに俺を惚れさせて楽しいかこの野郎!?
「……心拍数が高いですね。まだ落ち着きませんか?」
「えっふわっ!?」
大混乱していると、上からそんな声が降って来た。えっ待って!めっちゃドギマギしてるの、ヴァイナモにバレてる!?恥ずっ!?あっでもヴァイナモ勘違いしてくれてるから、利用しよう!
「……ええ!そうですね!まだちょっと怖いです!」
怖がってる割にはめちゃくちゃ威勢が良いな俺!?演技下手くそか馬鹿野郎!これじゃいくらヴァイナモでも不審に思うって!
「ならこのままお休みになりますか?」
「……ふえっ?」
「人の体温は心を落ち着かせると言いますし。エルネスティ様がお眠りになったら俺がベッドまで運びますよ」
なんでそうなる。
さっきのあの反応で信じちゃったの?いや確かに怖いけどさ!少しは怪しもう?ちょっと心配になっちゃうよ。
……どうしよう。このままヴァイナモに抱き締められるのも悪くないけど、ヴァイナモの迷惑になるからなあ。てか心臓が破裂しそうで、眠れそうにないんだが。大困惑で眠気がどっか飛んでったから。
……でもせっかくの機会だし、思う存分ヴァイナモの腕の中を堪能したい。こう言う時ぐらいしか、こんなこと出来ないし。ちょっとぐらい、良いよね。
「……では、その、お言葉に甘えて……」
「かしこまりました」
ヴァイナモは少し抱き締める腕を緩めたかと思えば、俺を持ち上げてヴァイナモの膝の上に横抱きの状態で乗せた。俺は再び大混乱する。
「……ヴァイナモ?これは……」
「ゆっくりお休みください、エルネスティ様」
焦る俺にヴァイナモは有無を言わせぬ声色でそう言うと、片手で俺の視界を塞いだ。そして抱き締める力を強くする。……えっ待って。この状態で寝るの?ヴァイナモの腕と脚と、めちゃくちゃ疲れない?大丈夫?
てかこれ、めちゃくちゃ恥ずかしい……。いや、俺が頼んだことなんだけどさ……。あれ……?なんか急に眠気が……。アレかな、ヴァイナモの体温が落ち着くから……。前のお姫様抱っこの時も思ったけど、絶対ヴァイナモの腕の中には安眠効果があるよね……。
俺はヴァイナモの胸に擦り寄るように丸まって、深い眠りに堕ちていった。
* * *
翌朝清々しい気分で目を覚ますと、俺はヴァイナモのベッドで寝ていた。
……あれ?ベッドに運ぶって、俺のじゃなかったの?てかヴァイナモどこ?
俺がベッドの上でキョロキョロしていると、ヴァイナモが俺の服を持って部屋に帰って来た。事情を説明してもらうと、最初は俺のベッドに運ぼうとしたけど、俺がヴァイナモの服を掴んで離さなかったから、失礼も承知で添い寝したらしい。ヴァイナモは困り顔で、でも少し頬を紅潮させて言った。
何やってんだよ寝惚けた自分!迷惑かけんな!
「その、本当にすみません……」
「いえ、寧ろ……」
「ん?何か言いましたか?」
「……いえ。何も」
俺が聞き返すと、ヴァイナモはフルフルと首を横に振った。何か呟いたように聞こえたけど、空耳か。
* * * * * * * * *
2020/09/19
序盤文章がおかしい部分を修正しました。
『引き寄せた』→『引き寄せられた』
「エルネスティ様!?どうされたのですか!?」
ヴァイナモの部屋だった。
俺が必死の形相でドアをバンバンとノックをすると、血相を変えたヴァイナモが出て来た。敵襲だと勘違いしなかったのかな?とは思ったけど、多分気配とかそんなんでわかったんだと思う、多分。てか今はそんなのどうでもいい。
「あっ……えっと、ヴァイナモ……」
俺は涙目になりながら、ギュッと枕を抱き締め直した。頭がパニック状態で、上手く言葉が紡げない。ヴァイナモが困っちゃうから、早く事情を説明しないと!
「……あ、あの!あのですね!」
「エルネスティ様!まずは落ち着いてください!過呼吸になってます!」
上手く息が出来なくて吃っていると、ヴァイナモが優しく手を引いて部屋の中に入れてくれた。俺はソファに座らされ、ヴァイナモが俺の前で片膝立ちをする。そしてゆっくり呼吸するテンポで俺の背中を優しく叩いてくれた。
俺の虚ろな目を真っ直ぐに見つめ返してくれるヴァイナモに、俺はだんだん落ち着きを取り戻し出した。それに比例して呼吸も落ち着いて来る。
「……大丈夫ですか?エルネスティ様」
「……はい。ありがとうございます、ヴァイナモ」
「……何かあったのですか?」
ヴァイナモは翡翠色の瞳で俺を覗き込んで来る。その宝石のように美しい瞳に、俺はドキンと胸が高まった。……年相応のへにゃりとした笑みも好きだけど、真剣な表情の時のこの瞳も好きだな。透き通っていて鋭いのに、全く痛くない。吸い込まれるような純麗なふたつの丸い飴玉。
……メロン味の飴玉食べたい。
ぽけーっとそんなことを考えていると、俺が放心状態であると思ったヴァイナモが優しく肩を揺すってくれた。俺はハッとなって、咳払いを一回した。
「……その、お恥ずかしい話、少々怖い夢を見まして、それで気が動転してしまい……」
「怖い夢、ですか?」
「はい。オバケに追いかけられる夢を。……すみません。これくらいのことで。子供っぽいですよね」
俺が怯えるように身を縮こませると、ヴァイナモの方から小さく息を呑む声が漏れた。そして徐に立ち上がったかと思うと、俺の隣に座って俺の方に手を伸ばす。後頭部にヴァイナモの手の熱を感じると同時に、俺の頭はヴァイナモの胸へ引き寄せられた。俺は突然のことで思考回路がエラーを表示している。
「……オバケや幽霊とはこの世の者ならざる存在。それを恐れることを、何故嘲弄の対象に出来ましょうか。……大丈夫です。もう二度とそんな夢を見ないよう、俺がお護りしますから」
……あの、その、まだ思考回路は完全に修復していないけど、ひとつ聞いて良い?
これどこの少女漫画ですか!?
なんだよ悪夢から護るって!王子様か!?騎士様か!?いや実際騎士様だけど!ついでに言うと皇子様は俺だけど!
惚れてまうやろ!?
「……エルネスティ様?」
「ひゃうっ。……コホン、その、わざわざヴァイナモの手を煩わせる訳には……」
「お気になさらず。騎士としての務めです」
ヴァイナモは耳元でそう囁く。やめて!そんな良い声で囁かないで!?耳が溶ける!?変な声出ちゃう!?咳払いで誤魔化したけど、絶対聞かれたよね!?恥ずかしい!俺って耳弱かったっけ!?
俺は先程までの恐怖を忘れて顔を紅潮させた。それがバレたくなかったので、グリグリとヴァイナモの胸に頭を擦り寄せた。ヴァイナモは優しい手つきで俺の頭を撫でてくれる。もう!行動のひとつひとつが心臓に悪い!何なのヴァイナモは俺をキュン死させたいの!?
てかアレなんだよ!今、寝間着だからヴァイナモも着崩してるんだよ!襟元とか袖とか、普段はかっちりしてるのに、今は緩めてるんだよ!そこから溢れ出す色気よ!いい匂いだし!何なのそんなに俺を惚れさせて楽しいかこの野郎!?
「……心拍数が高いですね。まだ落ち着きませんか?」
「えっふわっ!?」
大混乱していると、上からそんな声が降って来た。えっ待って!めっちゃドギマギしてるの、ヴァイナモにバレてる!?恥ずっ!?あっでもヴァイナモ勘違いしてくれてるから、利用しよう!
「……ええ!そうですね!まだちょっと怖いです!」
怖がってる割にはめちゃくちゃ威勢が良いな俺!?演技下手くそか馬鹿野郎!これじゃいくらヴァイナモでも不審に思うって!
「ならこのままお休みになりますか?」
「……ふえっ?」
「人の体温は心を落ち着かせると言いますし。エルネスティ様がお眠りになったら俺がベッドまで運びますよ」
なんでそうなる。
さっきのあの反応で信じちゃったの?いや確かに怖いけどさ!少しは怪しもう?ちょっと心配になっちゃうよ。
……どうしよう。このままヴァイナモに抱き締められるのも悪くないけど、ヴァイナモの迷惑になるからなあ。てか心臓が破裂しそうで、眠れそうにないんだが。大困惑で眠気がどっか飛んでったから。
……でもせっかくの機会だし、思う存分ヴァイナモの腕の中を堪能したい。こう言う時ぐらいしか、こんなこと出来ないし。ちょっとぐらい、良いよね。
「……では、その、お言葉に甘えて……」
「かしこまりました」
ヴァイナモは少し抱き締める腕を緩めたかと思えば、俺を持ち上げてヴァイナモの膝の上に横抱きの状態で乗せた。俺は再び大混乱する。
「……ヴァイナモ?これは……」
「ゆっくりお休みください、エルネスティ様」
焦る俺にヴァイナモは有無を言わせぬ声色でそう言うと、片手で俺の視界を塞いだ。そして抱き締める力を強くする。……えっ待って。この状態で寝るの?ヴァイナモの腕と脚と、めちゃくちゃ疲れない?大丈夫?
てかこれ、めちゃくちゃ恥ずかしい……。いや、俺が頼んだことなんだけどさ……。あれ……?なんか急に眠気が……。アレかな、ヴァイナモの体温が落ち着くから……。前のお姫様抱っこの時も思ったけど、絶対ヴァイナモの腕の中には安眠効果があるよね……。
俺はヴァイナモの胸に擦り寄るように丸まって、深い眠りに堕ちていった。
* * *
翌朝清々しい気分で目を覚ますと、俺はヴァイナモのベッドで寝ていた。
……あれ?ベッドに運ぶって、俺のじゃなかったの?てかヴァイナモどこ?
俺がベッドの上でキョロキョロしていると、ヴァイナモが俺の服を持って部屋に帰って来た。事情を説明してもらうと、最初は俺のベッドに運ぼうとしたけど、俺がヴァイナモの服を掴んで離さなかったから、失礼も承知で添い寝したらしい。ヴァイナモは困り顔で、でも少し頬を紅潮させて言った。
何やってんだよ寝惚けた自分!迷惑かけんな!
「その、本当にすみません……」
「いえ、寧ろ……」
「ん?何か言いましたか?」
「……いえ。何も」
俺が聞き返すと、ヴァイナモはフルフルと首を横に振った。何か呟いたように聞こえたけど、空耳か。
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2020/09/19
序盤文章がおかしい部分を修正しました。
『引き寄せた』→『引き寄せられた』
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