前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

恋とはなんぞや

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はてさて、一時は変な空気になったその場だけど、俺が全く気にしてない様子で注文を始めたので、徐々に元の賑わいが戻って来た。まあ今回はアポ無しでいきなりやって来た俺たちにも非があるからね。彼らの態度は咎めないつもりだ。

そして俺はヴァイナモのオススメのメニューを注文した。メニューの量が多すぎて決められない。ヴァイナモのオススメならハズレ無しだと勝手に思ってるからね!

「……ええっと……へいお待ち!」

青年の店員は言葉を改めようかと迷っていたが、結局いつも通りの口調で料理を出してくれた。こんな所酒場もどきで畏まられたら違和感の塊だから有難い。自然体でいてね!

そして俺の前に出されたのは、白身魚のソテーだ。ヴァイナモって魚が好きだけど、特に白身魚が好きっぽいな。何か女子っぽいぞ。体格が良い人は肉いっぱい食べてるイメージあるのに。

「そう言えばヴァイナモってお肉を食べている印象がありませんね」

「……小さい頃から魚ばかり食べているので、あまり肉を食べようとは思いませんね。食べ慣れていないと言いますか」

「……魚だけでその体格ですか……。羨ましいです」

俺は恨めしげにヴァイナモの腕を人差し指でつつき、そしてその手で俺の手首を掴んだ。親指と薬指だけで事足りる俺の細っこい手首は、両手が必要そうなヴァイナモの腕とは大違いだ。いや今のこの容姿華奢な天使も気に入ってるけどさあ……男の子としてはやっぱり体格が良いのって憧れるし……。

「……俺は、エルネスティ様には今のままでいて欲しいです」

「えっ……?ムキムキマッチョな私は嫌いですか?」

「あっいえ、そうではなく……その、嫌いなのではなく、今のお姿がその……えっと、好ましい、と言いますか……」

俺が哀愁漂わせてショックを受けていると、ヴァイナモが必死に意図を説明し出した。えっ待って待って。それは逆にめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。好ましい、か……好ましい。

「そうデス!貴方は天使のままが一番輝いていると思いマス!」

するとお客さんの一人である異国風イケメンな青年が俺の隣に椅子を持って来て座り、俺たちの会話に乱入してきた。えっ待って!?どなたです!?なんか普通に会話に参加して来たけど、初対面だよね!?見ず知らずの、しかも皇族と騎士俺たちの会話に参加出来るとか、神経図太いな!?てか顔が赤いぞ!?さてはてめえ酔っ払ってるな!?

「ひと目見た瞬間、この世に天使が舞い降りた!と思いマシタ!口説かせてクダサイ!」

……うん?今なんつった?口説く?なんで??初対面で一目惚れして口説いてくるとか、チャレンジャーすぎるぞ。

「ご遠慮願います。私は皇族ですし、貴方に口説かれてもこれっぽっちも嬉しくありません」

「手厳しいデスネ!ワタシの国では平民でも貴族相手にプロポーズ出来マスヨ!」

お客さんは少しイントネーションのおかしい言葉で喋る。この人やっぱり他国出身なのか。てか平民が貴族にプロポーズて……そんな国あったっけ?

「……貴方はどこ出身ですか?」

「アルバーニ公国デス!小さな島国デスヨ!」

アルバーニ公国……ああ、アレか。先住民族のアルバーニ族が治める、自由な色々緩い国。元々ハーララ帝国我が国の一部だったけど、最近独立したんだっけ。まあ独立前から自治区だったから、まだ独立してなかったんだ、程度のものだったらしいけど。

そう言えば、アルバーニ公国は民族内での協力を重んじているから、平民と貴族との身分差はあまりないって聞いたことあるな。単に就いてる職業が違う、ぐらいじゃなかったっけ?なら平民が貴族にプロポーズするのもおかしくはないか。

「アルバーニ公国では恋愛は自由なのですか?」

「そうデス!アルバーニ族は恋多き民族!一夫多妻も一妻多夫もOK!同性婚もどんと来い!浮気は日常!不倫されたくなければそれ以上の愛を相手に注げ!そんな国デス!」

お客さんは熱く自国の恋愛観を語った。ええ……そんな国嫌だな……。俺は恋愛には結構夢抱いてる方だからね。

お客さんは期待の目を俺に向けて来る。……もしかして、割と本気で俺を口説いてる?その場のノリ的な話ではなく?

……いや、それはないな。完全に酔った勢いだ。

「どうデス?少なくともこの国よりは自由デスヨ?ワタシの手を取ってアルバーニに来マセンカ?」

「断固お断りです。私はこれでも恋愛には夢を抱いている方なので、パートナーには他の方と関係を持って欲しくはないですし、そう言うのを疑いたくもありません」

俺は魔法陣研究に専念したいからね。パートナーの浮気が気になって研究に集中出来ない、なんてことは御免だ。相手は俺を裏切らない。そう言う信頼関係は絶対条件だ。

お客さんは不服そうにしたが、直ぐにあの手この手で俺にアプローチをして来た。

「ええ~それならワタシは貴方だけを愛すると約束しマスヨ?ワタシ、こう見えても一途ナノデ!」

「会って数秒の貴方をどう信用すれば良いんですか。この国から出るつもりもありませんし、お断りです」

「ならワタシもこの国に住みマス!」

「我が国なら身分の問題が出てきますよ。皇族と平民が結ばれる方法なんてありませんから」

「それはどうにかしマス!」

「いやどうにも出来ないでしょうに……」

俺は呆れて肩を竦めた。凄い熱量だけど、なんか誠実性に欠けてるんだよな。胡散臭いって言うか。いずれにしろ、この人の手を取るのは論外だ。

お客さんは俺に何を言っても無駄だと感じたのか、ガッカリとした様子で肩を下ろした。

「むう……1ミリも靡いてくれマセンネ。ワタシに貴方の心を捕らえることは無理なようデス。もしかして好きな人でもいるんデスカ?」

「……好きな人、ですか?」

俺はヴァイナモをちらりと見た。ヴァイナモは難しい表情でお客さんを睨みつけている。……あれ?なんで俺、ヴァイナモの方を見たんだ?いや、『好きな人』って言われて咄嗟に頭に浮かんだのがヴァイナモだったから……。

え……えっ??

俺が重大なことに気づきかけた時、今まで空気と化していた護衛のダーヴィドが目を輝かせて前のめりになった。隣でオリヴァが目を見開いた後、力強く頷く。

「……なるほどデス。貴方のその反応を見る限り、ワタシの勘は間違えではなかったようデスネ。まるで恋する乙女のような仕草デス」

「えっ?あっ……えっ?」

「貴方は元々中性的な顔立ちデスガ、その恋する少女のような純情で初々しい表情が貴方を女性らしく魅せているのでしょうネ」

お客さんはこれまでの軽薄そうな声色から一変し、重厚でもの寂しげな声でそう漏らした。俺が混乱して言葉を紡げないでいると、お客さんは清々しい表情で立ち上がる。

「ならワタシは潔く諦めマショウ!ワタシは貴方の恋を応援していマスヨ!ですがもし失恋した場合は、遠慮なくワタシの元に来てクダサイ!ワタシの名前はチェルソ・カルメン・ソアーヴェ!以後お見知り置きを!」

お客さんチェルソは笑顔でそう言い残すと、颯爽とその場を去って行った。ガヤガヤとした店内で俺の周辺にだけ嵐が去った後のような静けさが充満する中、俺は気づいてしまった重大な事実自分の気持ちを受け入れられないでいた。
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