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動き出す時

俺の容姿を客観的に考えたら

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萬屋を出た俺たちは、昼食時になったのでヴァイナモがオススメするレストランに入ることにした。そこは夜は酒場として営業しているためか、昼間から酒を飲んでどんちゃん騒ぎしているらしい。俺にそれでも大丈夫かと聞いて来たので、快く了承した。流石に見目高貴天使な俺に絡む猛者はいないだろう。変なことされても俺の魔法でひと捻りすればいいだけだし!

着いた店は港町の冒険者ギルドファンタジーテンプレみたいな木造の建物であった。アレだ。室内は薄暗くて、樽とかいっぱい置いてあるやつだ。主人公ないしヒロインが荒くれ者モブ男集団に絡まれて、返り討ちするやつだ。前世の友達ヲタクに借りて読んだ漫画にそんなシーンあったぞ。

ヴァイナモは先に入って、皇族が入店する許可を取りに行った。俺は前世の記憶ヲタク知識を思い起こしながら、ヴァイナモの帰りを待つ。

「ヴァイナモの坊じゃねえかああああ!久しいなああああ!!」

「急にぱったり来なくなりやがってこのやろおおおお!でっかくなったなああああ!」

「宴だ祭りだああああ!マスター!あるだけ酒を全部持って来おおおおい!!」

「出来るか!誰が勘定払うんだ!」

すると店の中からそんな大歓声が聞こえて来た。めちゃくちゃやかましいな!?通行人も皆、肩をビクッてさせてるよ!

てかヴァイナモ港町で大人気じゃん。どうしたの?何したの?家族にも領民にもこんなに愛されてんのに、なんで家出(概念)したんだ?いや、そのお陰で俺はヴァイナモに出会えた訳だから、よくやった誰目線やねんって褒めたいけど。

でもこれは多分、ヴァイナモは暫く抜け出せないやつだ。俺が直接入った方が良さげだな。いつまでもここで待ちぼうけ食らうのは勘弁だし。

そう思った俺は恐る恐る店の扉を開いた。そして扉の陰に隠れながら中の様子を伺ってみる。ヴァイナモは昼間っから出来上がった酔っ払ってる男共に絡まれて、鬱陶しそうにしていた。うおう。皆さんゴツイな。俺が入って行ったら押し潰されないかな?大丈夫??

「……んお?エラい別嬪さんなガキじゃねえか。どうしたんだ?この店になんか用か?」

どうしようかと迷っていると、店員さんらしき青年に声をかけられた。べ、別嬪さん……。普通、女性に使う言葉でしょうに!確かに俺はこう天使だけど!ちょっと複雑かな!?

「あの、ヴァイナモに受付をお願いしたのですが、中々戻って来ないので……」

「おお、お前はあそこにいる男前の知り合いか。ちょっと待ってろ。酔っ払い共を追い払ってやるから」

店員の青年はスタスタと彼らの元へ向かうと、容赦なくお盆で男共の頭を叩いた。力を込めすぎなのか男共が石頭なのか、お盆が変形してるのがここからでも見て取れる。なんて堂々たる器物破損!

ヴァイナモはもみくちゃにされながらも男共の輪から抜け出し、俺の元へと駆け寄って来た。

「すみません。受付に手間取ってしまいました」

「大丈夫ですよ。私もいきなり大歓声が聞こえて来て、気になっただけですから」

ヴァイナモが戻って来たことにホッとしながら話をしていると、野郎共は俺たちの関係に目敏く反応した。

「おおん?何だ何だあ?坊の連れかあ?」

「うお!結構な美人さんじゃねえか!」

「可愛いな!彼女か!?」

「久しぶりに来たと思えば彼女連れとは良い度胸だな!表出ろや!」

野郎共はガヤガヤとブーイングを投げた。美人さん?彼女?俺のこと?待って待って俺は見惚れられた自分で言うなしことはあるけど、女と間違われたことはないよ!?ちゃんと見て!俺、ズボン履いてるよ!

てか彼女って、いくら俺が女に見えたからってそれは……あれ?嫌じゃないな。寧ろなんか嬉しいぞ?

好き勝手言う野郎共にヴァイナモは慌てて声を荒らげて否定した。

「彼女じゃない!揶揄うのはやめてくれ!失礼だろ!そもそもこの方は男性だ!」

「はあん?そうなのか?」

「こんな可愛らしい生物、女じゃねえとか誰が信じんだよ!騙されねえぞ!」

「こんな天使が男とか、ウチのカミさんが嫉妬で怒り狂うぞ!」

「よく見ろ!ズボンを履いているだろう!?」

「他国じゃ普通に女でもズボンを履くんだよ!」

ヴァイナモは男共とガミガミ言い合いを始めた。なんか女に間違われるって新鮮だな。今まで俺が皇子だって知ってる人としか関わって来なかったし。帝都では平民少年顔に変装してたし。

まあよくよく考えたら天使って性別不明の中性的な顔立ちだよな。この店にいる男性諸君は皆厳つくてガタイが良いから、それに見慣れていたら中性的で華奢な俺を見て女だって勘違いするのも無理はないかも。誠に遺憾だけど。チビで弱々しく見えるってことでしょ?俺が地味に気にしてることをチクチク突かないでくれるかな!?

でもどうしようこの状況で俺は何をすれば良い?女に間違えられるのは誠に遺憾だけど、それ以上にお腹空いたから早く食べたい。

俺は後ろに立つオリヴァに助けを求めた。沈思黙考していたオリヴァは俺の視線に気づくと溜息をついて、柏手を一発鳴らした。それはレストラン中に響き渡り、人々の会話を止めさせた。すげえこれが俗に言う鶴の一声ってやつか。

殿下・・はお食事をご所望されています。早急な対応を」

オリヴァは『殿下』を強調してそう言った。何その言い方凄く偉い人みたい実際高貴だけどな扱いじゃん。オリヴァにされるとめっちゃむず痒い!

「えっ……?ほえっ?殿下??」

「……この方は我が国の第四皇子であられる、エルネスティ様だ」

「ご紹介に預かりました。私はハーララ帝国第四皇子、エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララです」

俺が微笑んで自己紹介すると、その場はシーンと静まり返った。一同表情を強ばらせて固まる。理解が追いついてないのかな?まあ俺のこと女だとかヴァイナモの彼女だとか散々言ってたしな。萬屋の店主もそうだけど、もう少し初対面の人に配慮した方が良いんじゃないかな?いつか失敗するよ今日早速失敗したよ??

「……あー、えっと、冗談ってのは……」

「ないですよ。首と胴体が永遠の別れを告げる覚悟の上なら、皇族と偽っても良いですが」

「そーですよねすいませんっした!!」

その場にいる野郎共はガバリと一斉に土下座した。うわあ見事なシンクロ。素晴らしいものを見せてもらったなあ(棒)

「その、あの、お咎めとかは……」

「私は気にしてないので構いませんよ。容姿が中性的である自覚はありますし。誠に遺憾ですが、誠に遺憾ではありますが」

「めちゃくちゃ気になさっているじゃないですか……」

土下座しながら男の一人が独り言を呟いたので、俺は無言のまま魔力で威圧した。野郎共はビクッと身体を揺らす。

「……それより私はお腹がすいたので、早く席に案内してもらえると助かるのですが」

「えっあっはい!こちらになります!」

俺に最初に話しかけて来た青年の店員が戸惑いながらも俺たちを席に案内した。……と、危ない危ない。その場を収束させないと。

「あと土下座は見栄え的にも衛生的にもよろしくないので、早急に解除していただけると幸いです」

その言葉で野郎共は息ぴったりビシッと起立・気をつけ・礼をした。軍隊かなんかかな??




* * * * * * * * *




2020/09/09
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