前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

港町視察

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結局ヴァイナモはチヂミを食べられなかった。チラチラ見える海の死神タコに怖気付いてしまったのだ。何でもサルメライネン伯爵領は昔から漁業が盛んだから、海の死神タコ海難事故の原因諸悪の根源って刷り込みが強いらしい。そんな悪魔を食べるなんて……と拒絶してしまうそうだ。

「……なんか、申し訳ございません」

「いえいえ、無理に食べる必要はないですから」

「……エルネスティ様が『美味しい』と言って食べるものを、俺も美味しいと感じたいのですが」

悩ましげに腕を組むヴァイナモに、俺はドキリとした。相手と同じ感情を共有したい。俺がヴァイナモに向けている気持ちと同じだ。お揃い?(違う)

……ふへへっ。なんか嬉しいぞ。変な声が出そうだ。我慢我慢。俺は変人だけど、変態にはなりたくないからな!


* * *


さてさて。食事会を明日に控えた今日。俺は慌ただしくその準備を……している訳ではない。

「ふわあ~。帝都とはまた違った賑やかさですね!」

「最近我が領では他国との貿易が盛んで、多文化的ですからね。帝国の縮図のような帝都とは雰囲気が違います」

俺は護衛騎士を連れて港町まで来ていた。ここはサルメライネン伯爵領の中心地であり、貿易の中心地でもある。だから様々な国の文化が入り乱れており、華やかで賑わいに溢れている。

ちなみに今日はサムエルの変装魔法は使ってない。港町視察も勅命のひとつなので隠れる必要はない。てか逆に変装でバレないようにしてたら任務放棄と言われかねない。俺はちゃんと仕事してるよ!

だからまあ護衛騎士をぞろぞろ引き連れている訳で、めちゃくちゃ視線を集めてる。俺は目立ちたくないでござる!え?見た目天使中身変人な時点でもう手遅れって?うるせえそんなことはねえだろわかってるよそれぐらい

不躾な視線に辟易しながらも、ヴァイナモの案内で港町を回っていく。ヴァイナモはよく港町に来ていたそうで、俺にオススメの店を教えてくれた。何でも中古屋みたいなお店らしく、時たま掘り出し物があるそうだ。

店の中に入って行くヴァイナモについて行くと、ヴァイナモが店主らしきおじさんに話しかけていた。

「こんにちは、おっさん」

「……おん?……ああ!お前もしかして、ヴァイナモの坊か!?久しいな!今までどこに行ってたんだ?」

店主のおじさんはヴァイナモを見て怪訝な表情を浮かべたが、直ぐに誰か思い至ったようで表情を明るくしてヴァイナモに近づいた。

「久しぶり。帝都の方で就職したから、中々戻って来れなくてな」

「帝都!都会じゃねえか!さっすが領主様のご子息ってか!でも変わり者の坊がやって行けるのか?」

「失礼だな。これでももう帝都での暮らしは6年ぐらいになるのだぞ?」

「へえ!たまげたもんだ!そう言やそれぐらいからぱったり来なくなってたな!」

店主さんとヴァイナモは軽口を叩き合う。俺はその間、店の中を見渡した。売ってある物は本当に雑多で、骨董品や本、剣や盾などの武器、服など、関連性は一切ないように見える。

「……おん?そっちのガキ……じゃなくてそちらの方は?」

ヴァイナモと雑談していた店主さんは俺の存在に気づいてヴァイナモに尋ねた。俺の身なり容姿から高貴な方だと判断したんだろうね。『ガキ』からわざわざ言い直してる。

「ああ、こちらは我が国の第四皇子であられる、エルネスティ様です」

「はじめまして。ハーララ帝国第四皇子のエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララと申します」

「はっえっはあ!?皇子殿下!?」

店主さんは間抜けな声を出して目を見開く。まあいきなり自分の店に皇族が来たらびっくりだわな。見た所ごく普通な庶民向けの店っぽいし。

てかヴァイナモ、アポは取っておこうよ!?

「……うあ、その、皇子殿下が弊店に何用で……?」

「公務で港町の視察をしていまして、ヴァイナモにオススメの店はないかと聞いた所、このお店を紹介していただきました」

「坊!そう言うのは事前に伝えといてくれや!社会人としてのエチケットだろ!心臓に悪い!」

店主さんは青い顔でヴァイナモに怒鳴った。うん。これは怒っていいよ。

「す、すまん。そこまで配慮が行かなかった」

「ったく。坊の見目はこんな逞しくなってんのに、朴念仁は健在ってか」

「ぐっ……。これでも周りへの配慮を気にするようになったんだがな……」

ヴァイナモは痛い所を突かれて落ち込んた。うーん?俺はあんまりヴァイナモが気が利かないって印象ないんだけどな?ぐう有能でぐう気が利く!って何回思ったことか。もしかして俺専用の対応に対してだけ?なんかそれは……ふっへへ。嬉しいぞ。

「てか皇子殿下をこんな庶民の萬屋なんかに連れて来てどうすんだよ。こう言う時は高級菓子専門店とか連れて行くモンだろ」

「いや、エルネスティ様ならこう言う店の方がお好きかなと思って……」

「確かに高級菓子専門店とこの店を並べられたら、間違いなくこちらを選ぶでしょうね」

俺は本棚の本の背表紙を見ながら答えた。高級とか菓子とか全く興味ない。それならこう言う店に来た方がワクワクする。掘り出し物目当てで物色するの、楽しいよね。そこで俺の欲しかった物が見つかった時の感動は他では味わえない。

「……意外だな。皇族ってもっと拘りが強いって言うか、プライドが高いって言うか、こう言う埃っぽい店を嫌いそうだと思ってたぜ」

「私が変わり者なだけですよ。他の皇族はそのような方が多いでしょう。それと、この店は綺麗に掃除されてて、全然埃っぽくないですよ」

「あっ、いえ、物理的な話ではなく……」

俺が店主さんの独り言に返答すると、店主さんは慌てて訂正した。ああ、なるほど。埃の被ってそうな中古品を取り揃えてるって意味か。納得。店は小綺麗だから、店主さんはマメな方だと思うし。

そんなことを考えながら本の背表紙を見ていると、ある題名に目が止まった。そして反射的にその本を取り出す。

「これは……」

「んあ?ああ、それは魔法陣学の書物だ……ですね。他国を旅した時に露店の古本屋で買ったものです。魔法陣学なんて需要はないんですが、何故か直感的に『買わなくては』と思ったので購入しました」

「貴方のその直感に感謝感激ありがとうございます買いますいくらでござるか!?」

「おわっは!?」

遠慮気味に答えた店主さんに俺は鼻息荒く詰め寄って値段を聞いた。店主さんは思わず仰け反る。

だってこれ、『魔法陣の半永久的に展開する方法についての研究』だよ!?冷蔵庫を開発中の今の俺にピッタリじゃん!てか俺に買われるためにここにいらっしゃるのでしょう、そうでしょう!?これは買わねばなるまい!

「おっさん、気にするな。エルネスティ様は魔法陣のことになるといつもこうだ 」

「はあ……変わったお方だな。まあ、偉そうな態度とられるよりは断然良いが……勘定も払ってくれるようだし」

店主さんはヴァイナモのフォローにたじたじになりながらも値段を教えてくれたので、オリヴァ財布係に頼んで勘定してもらう。

テッテレー!俺は!魔法陣学書物を!手に入れた!ひゃっほい!!
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