前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

形容し難いモヤモヤ

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食後は俺以外がワインを、俺はぶどうジュースを飲みながら歓談をした。初めはほとんどがヴァイナモの過去の話であったが、そこから自然と家族の思い出話になるのは当然のこと。何歳の誕生日の時にあんなことをした、リュリュさんが学園に入学した時はああだった、伯爵夫妻の馴れ初めは、などなど。

サルメライネン伯爵一家は本当に楽しそうに語らっていた。ヴァイナモも心做しか生き生きと、そして時折へにゃりと笑って会話に参加していた。その様子から、本当に家族の仲が良いんだな、と嬉しく思う反面、どこか胸に重しが乗ったかのように感じた。

何でだろう?ヴァイナモが家族と上手くやってるのは良いことなのに。何でこんな気分が重いんだろう。

「……エルネスティ様?どうかされましたか?」

表情が暗い俺に気づいたのか、ヴァイナモが話を中断して声をかけてきた。その声に伯爵一家の和やかな会話が止まり、変な沈黙が流れてしまった。

……駄目だ。俺はここにいちゃ駄目なんだ。

「……すみません。少し疲れているので、先に失礼します」

「なら俺が付き添いに……」

「ヴァイナモは久々の家族団欒を楽しんでください。私にはオリヴァが付くので問題ありません」

「……ですが……いえ。わかりました。お言葉に甘えてそうさせていただきます」

ヴァイナモは何か言いたげだったが、俺が微笑んで拒否すると渋々引き下がった。俺は「ご馳走様でした。それでは失礼します」と挨拶すると、そそくさとその場を後にした。


* * *


なんとも言えないモヤモヤを感じつつ湯浴みを終えた俺は一人、用意された寝室のベッドにダイブした。そして枕に顔を埋めて、早々に寝ることにした。余計なことを考える前に寝てしまおうと言う魂胆だ。

その目論見通り、俺はいつの間にか次の日の朝を迎えていた。悩んで眠れないと思っていたけど、思いの外本当に疲れていたようだ。

ヴァイナモは毎朝恒例となったモーニングコールをしに俺の部屋へとやって来た。俺はもぞもぞとベッドから上体を上げる。

「おはようございます、エルネスティ様。昨日は早めのご就寝でしたね」

「……長旅で疲れていたので」

俺は何となくヴァイナモを見たくなかったので、顔を背けたまま素っ気なく答える。俺の様子がおかしいことに気づいたヴァイナモは心配そうに俺に近づいて来る。

「……どうかされましたか?気分が優れないようですが」

「……いえ。何でもありません」

俺は力なくフルフルと首を横に振る。……自分でもわからない。何に対してモヤモヤしてるのか。

「……今日はお休みになりますか?」

「……そうですね。今日は何もする気にならないので、そうさせていただきましょう。ヴァイナモは休暇だと思って家族とお過ごしください」

「えっ……?体調が優れないのであれば、俺はエルネスティ様のお側でお世話させていただきますよ?」

「いえ、オリヴァたちがいるので大丈夫です。それより滅多に会えない家族との時間を大切にしてください」

「……わかりました。有難くそうさせていただきます」

俺が取り付く島もなくそう言うと、ヴァイナモは物言いたげに、そして寂しげにそう返事をする。けど俺はそれに気づいてないフリをした。


* * *


ベッドに座って魔法陣の書物を読んでいると、オリヴァとサムエルとダーヴィドが朝食を持ってやって来た。俺はもそもそとテーブルまで移動して、椅子にちょこんと座る。

「体調が優れないって聞いたが、大丈夫なのか?」

「はい。多分長旅で疲れただけかと」

「殿下は貧弱な引きこもりだからな」

オリヴァはカラカラと笑った。俺はそれに文句を言う気力もなくて、曖昧に笑って流す。そんな俺の様子にいよいよ3人は本気で心配になったようで、焦り出した。

「おいおい、そこは『失礼ですね。否定出来ないのが悔しいですが』って言う所だろ」

「全然似てません」

「うるせえわかってる」

オリヴァがヘッタクソな俺のモノマネをしてくるので指摘すると、オリヴァは不貞腐れてしまった。俺はその様子に思わずクスリと笑った。表情が緩んだ俺に3人は安心したようで、俺に問いかけて来る。

「ヴァイナモとなんかあったんですかあ?」

「さっき会ったんですが、ヴァイナモハチャメチャ落ち込んでましたよ」

『ヴァイナモ』と言う言葉にピクリと反応した俺は、椅子の上で体育座りをした。行儀が悪いけど、今は見知った人しかいないから見逃して欲しい。

「……ビンゴか。で?ヴァイナモは何をやらかしたんだ?」

「……なんでそこでヴァイナモがやらかした前提なんですか」

「だってアイツ、少しマシにはなったが他人への配慮が足りないからな。仲違いの原因は大体アイツ側にあることが多い。……だが今回は違うのか?」

俺はこくりと頷いた。オリヴァはサムエルとダーヴィドと目配せすると、俺の対面に座った。ダーヴィドは給仕室の方へ向かい、サムエルはしっとりとした歌を歌い出す。俺は思わずキョトンとした。

「……何があった?俺たちに話してみろ」

「……え。ですが……」

「何言ったって呆れないから。そんな深刻そうな表情しておいて、放っておけって方が無理な話だ」

「……言葉にするのが難しいと言いますか」

「支離滅裂でも良いから自分の感情を吐き出しとけ。殿下は変な所で秘密主義があるからな」

オリヴァは仕方ないなと言った様子で苦笑いした。ダーヴィドが給仕室からティーセットを持ってきて、俺に紅茶を入れてくれた。

「そうですよ。全部言ってスッキリするべきです!」

「……ちなみに私はまだ貴方のことを許してませんからね」

「ええ~!ハチャメチャ根に持つじゃないですか!私はただ事実を言っただけですよ!殿下が勘違いしただけじゃないですか!」

「誤解するように言った確信犯でしょうに」

俺はジト目でダーヴィドを見た。ダーヴィドは誤魔化すようにてへぺろをする。俺は呆れて溜息をつきながらも、自分の気持ちの整理をするために、今思っていることを口にしてみた。

「……私、ヴァイナモが家族や近衛騎士団の方々との関係を修復していたことを最近まで知りませんでした」

「そうなのか?家族とは確か建国470周年記念式典の後あたりから話し合いを重ねて、割と早めに和解したはずだ。近衛騎士ともそれぐらいの時期から絡むようになったはず」

「……ヴァイナモからはそんなこと一言も聞いていません。家族とのことは丁度オリヴァたちの結婚式の日に初めて聞きました。その時はまあ、俺に伝える必要はないから仕方ないか、と思いましたが」

「ふむふむ。まあ確かにプライベートを護衛対象に伝える義務はありませんし、間違ってはないですね」

ダーヴィドの『間違ってはない』の言葉が俺に重くのしかかった。確かにそうなのだ。ヴァイナモは何も間違ったことはしていない。

でも、それがとても。

「……昨日ヴァイナモのご家族とお会いして、それが少し、寂しい。なんて感じてしまいました」

俺は少し明瞭になって来た感情を、小雨が降るように言葉にして語った。




* * * * * * * * *




○お知らせ○
作品の内容紹介及びタグを一部修正しました。
修正したタグ
『皇子×護衛騎士』→『護衛騎士×皇子』
『男の娘』→『変人ばっかり』
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