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動き出す時
閑話:或近衛騎士団第四部隊隊員の目標 ※No Side※
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これはエルネスティが一人、悩み悶えている頃のこと。
その元凶となった中性的な顔立ちの騎士は、意気揚々とオリヴァに話しかけていた。
「オリヴァ先輩ー!」
「おう。ダーヴィドか。護衛は交代したのか?」
ダーヴィド・ヤロ・カルッティアラ。カルッティアラ子爵家四男にして近衛騎士団第四部隊に所属している、恋バナ好きの情報通だ。ノリがJKみたいだが、見かけによらず頭が良く、学園卒業後は日本の大学院に相当する帝国学院まで進学した高学歴だ。あだ名は『高学歴ギャル男』である。
「はい!しましたよ!それより褒めてくださいオリヴァ先輩!」
「あーはいはい。なんか良いゴシップネタでもキャッチしたんだろ。凄い凄い」
犬が尻尾をブンブンと振るかのように『褒めて褒めて!』とアピールしてきたダーヴィドを、オリヴァは軽くあしらう。情報通のダーヴィドはいつも大スクープがあれば直ぐにそうするため、オリヴァも辟易していたのだ。
軽くあしらわれたダーヴィドはムスッとする。
「今回はゴシップネタじゃありません!」
「あん?なら何だって言うんだ」
「エルネスティ殿下に『ヴァイナモは殿下のことが好き』ってことを仄めかしてきました!」
「よっしゃ詳しく話せ」
今まで無関心だったオリヴァは、その言葉に前のめりになりながら説明を要求した。ダーヴィドは悪戯っ子のような笑みを浮かべて、先程エルネスティに話した内容を伝えた。
聞き終えたオリヴァは感心するように息を吐く。
「よく皇族相手にそんな嘘をつけたな、お前」
「嘘じゃないですよー。本当に言われていることです!……まあ好意は『愛』以外のことも含みますが」
「……なるほど。信頼とか忠義とか、愛と言っても家族愛とか友愛とかもそうなのか」
「そうです!間違ったことは言ってません!ちょ~っと誤解を生じやすい言い回しをしただけです!」
ダーヴィドは胸を張って言う。オリヴァは「よくやった」と拍手して褒め称えたが、側で話を聞いていたダーヴィドの同僚で最近第四部隊に配属となった騎士は眉を顰めた。
「……いや、人の恋愛事情に首を突っ込むのは良くないだろ。それを『下世話』って言うんだぞ?」
「……確かにその通りだよ!私だって出来るだけ恋愛は傍観したい!でもね!もう我慢の限界なの!」
同僚の正論にダーヴィドはうぐっ、と言葉を詰まらせた後、ヤケになったように叫んだ。そして顔を手で覆って地面に崩れ落ちる。同僚はギョッとなって一歩後退った。
「君は最近配属になったから知らないんだろうけど、2人は3年ぐらい前から相思相愛なの!それなのに天性の鈍感力で今まで1ミリも進展してないんだよ!?」
「……えっ?マジ?」
「最初はじれったい~胸きゅん~とか思って見守っていたよ!2人の無自覚イチャイチャをニヤニヤしながら眺めてた!眼福だった!でもここまで進展無しに引き伸ばされると『てめえらさっさと付き合えやゴルァ!』ってなるんだよ!」
ダーヴィドは両の拳で床をダアアアンッと叩いた。同僚は2人の鈍感さとダーヴィドの奇行の二重の意味でドン引きする。
オリヴァは後輩の奇行を総スルーして、悩ましげに腕を組んだ。
「俺もヴァイナモに俺の結婚話とか振って自覚させようとしたんだけどなあ。惜しいとこまで行って『これは騎士としての忠誠心』に戻っちまうんだ」
「2人の近すぎる関係がかえって気持ちに自覚させにくくしてるんですよね……」
「……それは首を突っ込みたくなるな」
「でしょ!?私の気持ちわかるでしょ!?」
同僚が納得すると、ダーヴィドは涙目でガバリと顔を上げた。そして力強く拳を握りしめ、決意新たに高々と宣言する。
「私の今の目標は!この旅が終わるまでに!2人の恋心を自覚させること!そして願わくば2人をくっつける!私が愛のキューピットになってやる!」
「なんて下世話な目標なんだ……。でも気持ちはわかる。応援してるぞ」
「俺もアイツらのじれったさには胸焼けしてるからな。協力しよう」
「2人ともありがとう!ございます!」
同僚の激励とオリヴァの協力の申し出にダーヴィドは満面の笑みで礼を言った。そして勢いよく立ち上がり、拳を振り上げた。
「そうと決まれば即行動!早速、殿下にお伝えしたことをヴァイナモにも伝えて来る!」
「おー。いってらー」
「健闘を祈る」
「待ってろよヴァイナモ!絶対恋愛フラグを乱立させてやるんだからね!」
このダーヴィドの大声は他の騎士たちにも伝わり、後に護衛騎士全員がダーヴィドに協力することとなる。皆、2人のじれったさに辟易しているのだ。
こうしてダーヴィド中心に、エルネスティとヴァイナモをくっつけるための愛のQP大作戦が始動した。
ちなみにその後ダーヴィドは「ヴァイナモは団長さんにその話を聞いてたらしいの……。『勘違いを生む言い方はやめてください』って怒られた……」としょんぼり帰って来て、オリヴァに肩をポンッと叩かれ、同僚に慰められるのであった。
その元凶となった中性的な顔立ちの騎士は、意気揚々とオリヴァに話しかけていた。
「オリヴァ先輩ー!」
「おう。ダーヴィドか。護衛は交代したのか?」
ダーヴィド・ヤロ・カルッティアラ。カルッティアラ子爵家四男にして近衛騎士団第四部隊に所属している、恋バナ好きの情報通だ。ノリがJKみたいだが、見かけによらず頭が良く、学園卒業後は日本の大学院に相当する帝国学院まで進学した高学歴だ。あだ名は『高学歴ギャル男』である。
「はい!しましたよ!それより褒めてくださいオリヴァ先輩!」
「あーはいはい。なんか良いゴシップネタでもキャッチしたんだろ。凄い凄い」
犬が尻尾をブンブンと振るかのように『褒めて褒めて!』とアピールしてきたダーヴィドを、オリヴァは軽くあしらう。情報通のダーヴィドはいつも大スクープがあれば直ぐにそうするため、オリヴァも辟易していたのだ。
軽くあしらわれたダーヴィドはムスッとする。
「今回はゴシップネタじゃありません!」
「あん?なら何だって言うんだ」
「エルネスティ殿下に『ヴァイナモは殿下のことが好き』ってことを仄めかしてきました!」
「よっしゃ詳しく話せ」
今まで無関心だったオリヴァは、その言葉に前のめりになりながら説明を要求した。ダーヴィドは悪戯っ子のような笑みを浮かべて、先程エルネスティに話した内容を伝えた。
聞き終えたオリヴァは感心するように息を吐く。
「よく皇族相手にそんな嘘をつけたな、お前」
「嘘じゃないですよー。本当に言われていることです!……まあ好意は『愛』以外のことも含みますが」
「……なるほど。信頼とか忠義とか、愛と言っても家族愛とか友愛とかもそうなのか」
「そうです!間違ったことは言ってません!ちょ~っと誤解を生じやすい言い回しをしただけです!」
ダーヴィドは胸を張って言う。オリヴァは「よくやった」と拍手して褒め称えたが、側で話を聞いていたダーヴィドの同僚で最近第四部隊に配属となった騎士は眉を顰めた。
「……いや、人の恋愛事情に首を突っ込むのは良くないだろ。それを『下世話』って言うんだぞ?」
「……確かにその通りだよ!私だって出来るだけ恋愛は傍観したい!でもね!もう我慢の限界なの!」
同僚の正論にダーヴィドはうぐっ、と言葉を詰まらせた後、ヤケになったように叫んだ。そして顔を手で覆って地面に崩れ落ちる。同僚はギョッとなって一歩後退った。
「君は最近配属になったから知らないんだろうけど、2人は3年ぐらい前から相思相愛なの!それなのに天性の鈍感力で今まで1ミリも進展してないんだよ!?」
「……えっ?マジ?」
「最初はじれったい~胸きゅん~とか思って見守っていたよ!2人の無自覚イチャイチャをニヤニヤしながら眺めてた!眼福だった!でもここまで進展無しに引き伸ばされると『てめえらさっさと付き合えやゴルァ!』ってなるんだよ!」
ダーヴィドは両の拳で床をダアアアンッと叩いた。同僚は2人の鈍感さとダーヴィドの奇行の二重の意味でドン引きする。
オリヴァは後輩の奇行を総スルーして、悩ましげに腕を組んだ。
「俺もヴァイナモに俺の結婚話とか振って自覚させようとしたんだけどなあ。惜しいとこまで行って『これは騎士としての忠誠心』に戻っちまうんだ」
「2人の近すぎる関係がかえって気持ちに自覚させにくくしてるんですよね……」
「……それは首を突っ込みたくなるな」
「でしょ!?私の気持ちわかるでしょ!?」
同僚が納得すると、ダーヴィドは涙目でガバリと顔を上げた。そして力強く拳を握りしめ、決意新たに高々と宣言する。
「私の今の目標は!この旅が終わるまでに!2人の恋心を自覚させること!そして願わくば2人をくっつける!私が愛のキューピットになってやる!」
「なんて下世話な目標なんだ……。でも気持ちはわかる。応援してるぞ」
「俺もアイツらのじれったさには胸焼けしてるからな。協力しよう」
「2人ともありがとう!ございます!」
同僚の激励とオリヴァの協力の申し出にダーヴィドは満面の笑みで礼を言った。そして勢いよく立ち上がり、拳を振り上げた。
「そうと決まれば即行動!早速、殿下にお伝えしたことをヴァイナモにも伝えて来る!」
「おー。いってらー」
「健闘を祈る」
「待ってろよヴァイナモ!絶対恋愛フラグを乱立させてやるんだからね!」
このダーヴィドの大声は他の騎士たちにも伝わり、後に護衛騎士全員がダーヴィドに協力することとなる。皆、2人のじれったさに辟易しているのだ。
こうしてダーヴィド中心に、エルネスティとヴァイナモをくっつけるための愛のQP大作戦が始動した。
ちなみにその後ダーヴィドは「ヴァイナモは団長さんにその話を聞いてたらしいの……。『勘違いを生む言い方はやめてください』って怒られた……」としょんぼり帰って来て、オリヴァに肩をポンッと叩かれ、同僚に慰められるのであった。
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