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人間関係が広がるお年頃
閑話:或帝第三皇子の激怒 【前編】 ※No Side※
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これはエルネスティが訓練場から意気揚々と図書館に向かっている最中の話。
訓練場では空気が凍てつく勢いであった。
ハーララ帝国第三皇子、カレルヴォ・ラリ・ユッタ・ハーララが、鬼の形相で魔法を誤発した王国騎士の頬をぶん殴ったのだ。
魔法を誤発した騎士は殴られてもなお呆然とした表情でエルネスティがいた席の方を見つめていた。その様子に苛立ちが高まったカレルヴォはもう一度胸倉を掴み、殴ろうとした。
しかし振り上げられた腕は同僚たちによって止められる。カレルヴォは自らの腕にしがみつく同僚たちを振りほどこうとするが、流石日々鍛錬を重ねている軍人たちと言おうか。いくらカレルヴォでも容易に振りほどけなかった。
そうしているうちに王国騎士帝国遠征部隊隊長がやって来て、カレルヴォから王国騎士を引き離した。その王国騎士は尻餅をついて、カレルヴォを見上げる。
「……てめえ。俺の弟に何しやがった」
鋭い目付きで低く低くそう零したカレルヴォに、騎士はやっと現実に戻って来たかのようにハッとなった。そして慌てて弁明を始める。
「……いや!わざとではない!手元が狂っただけだ!」
「はあっ!?そんな誤魔化しが通用すると思ってんのかこの野郎!てめえ、今日一日中ずっとエルネスティに憎悪の視線を送ってただろ!」
「それは!確かにそうだが!」
「そら見てみろ自白しやがった!」
「違う!本当に手元が狂っただけなんだ!第四皇子を害するつもりはなかった!そうすれば俺の騎士としての将来が途絶えることも、騎士の名折れであることもわかっていた!」
2人の言い合いは白熱していく。弟と傷つけられて怒り狂うカレルヴォに、必死に無実だと弁解する騎士。その場の空気に呑まれて、誰も止めることが出来ないでいた。
「ああんっ!?騎士騎士ってうるせえな!てめえは騎士じゃなかったらエルネスティを攻撃してたのかよ!?攻撃するのを躊躇ったのは、てめえの保身のためかよ!?魔法で傷つけられる相手のことは考えねえのかよ!?」
「もちろん考えていたさ!お願いだから死んでくれるなと心から願ったさ!」
「はあっ!?死ななかったら重傷でも良かったのかよ!?最低だな!敵意のない人間に殺意を向けて攻撃するなんて!それでよく騎士を名乗れるな!?」
冷や汗をかいて必死だった騎士も、そう言われるのは自分のプライドが許せず、険しい表情で怒鳴り始めた。
「なっ!?軍人のクセに騎士を語るな!俺は誇り高き王国騎士だ!」
「はんっ!てめえらの誇りは子供の砂遊びのお山程度なのか!?笑わせんな!」
「俺たちを侮辱するのか!?」
「散々ヴァイナモを侮辱しておいて何を言う!」
カレルヴォのその言葉に騎士は怪訝そうにした。彼はヴァイナモと言う人物を知らないからだ。
「ヴァイナモとは誰だ?」
「エルネスティ……第四皇子の専属護衛騎士だ!さっきいただろ!」
「おお!彼はヴァイナモと言うのか!素晴らしい防御魔法だった!流石大陸最恐魔法剣士の一番弟子!是非ともご教授願いたい!」
騎士は険しい表情を一転し、尊敬の眼差しを先程ヴァイナモがいた場所へと向ける。怒りを忘れて強さに憧れるの点が、彼が脳筋野郎とよく言われる所以である。
突然の変化にカレルヴォは勢いを削がれたように顔を歪め、その後不可解そうに首を傾げた。
「何を言ってんだ?ヴァイナモは魔法を使えないから意味無いと思うぞ?」
「はっ!?何を戯けたことを!先程防御魔法を展開してたではないか!」
「アレは魔法陣だ」
「「「魔法陣!?!?」」」
カレルヴォの言葉に脳筋王国騎士だけではなく、他の騎士も声を揃えて驚いた。アムレアン王国では実力主義が拗れて、ハーララ帝国以上に魔法陣学に対する偏見が酷い。長年、弱さの象徴として忌み嫌われているのだ。
「……そんな、出鱈目だ!」
「ああ!?んじゃあ後で証拠並べてやるよ。さっき使った魔法陣と、ヴァイナモの適正属性の鑑定結果を」
「……だが!彼の殺気には意図して魔力が込められていた!魔法が使えないのであれば、それは不可能だろ!?」
「へえ。そのことには気づいたんだな。だが残念。それが可能だ。魔法を使わず、魔力だけを自在に操ることがな。ヴァイナモは血反吐を吐く思いで訓練を重ね、それを習得した。何ならてめえの尊敬する大陸最恐の魔法剣士に証言してもらうか?」
「えっ!?会わせてくれるのか!?」
「……絶対会わせねえ」
煽るつもりで発した言葉に目を輝かされて、カレルヴォは不服そうにそう零した。騎士はガックシと肩を落とす。だが直ぐにハッとなってカレルヴォに懇願した。
「……だが、彼は何故そこまでの実力者なのに、第四皇子の護衛などをしているのだ?様子から見て、彼が望んで第四皇子の騎士をやっているようだが……」
「……まあ、それに気づいたんなら上出来か。逆だ。ヴァイナモはエルネスティの護衛騎士であり続けるためにあれ程強くなったんだ」
「……はっ?護衛のために、強く?」
騎士は素っ頓狂な声を出す。彼にとって、強くなるのは自分のためだった。強き者が偉い。そう言った実力主義の国で生まれ育ったのだ。無理もない。
「ああ。ヴァイナモはエルネスティをずっと側で護りたい、護れる資格が欲しいと貪欲に努力を積み重ねた結果、あれほどまでに強くなった。ヴァイナモはエルネスティの存在がなければ、今頃若い割にはそこそこ強い奴、で止まっていただろうな」
「……そんなことが帝国ではあるのか……?」
「まっ、我が国でもてめえらと同じく、金とか地位とか名誉のために騎士をやってる奴はいる。だが我が国の騎士においては確固たる忠義が重んじられており、それを誇りとして騎士を名乗っている。忠義とは従順であることではなく、未来永劫護りたい、仕えたいと思う気持ちだ。つまりヴァイナモはただ只管に我が国の近衛騎士なだけだって話だ」
「……と言うのとは俺は、俺たちは……」
「ああ。お門違いなことで勝手に同情して、自分たちの価値観を押し付けて無自覚に侮辱してただけだな」
騎士たちは言葉を失った。大きな功績より永遠の忠義。そんな考えを持ち合わせていなかったため、直ぐに納得は出来なかった。
だがカレルヴォの言葉を否定することも出来なかった。ヴァイナモがエルネスティを見つめるあの目を、彼らは見てしまったから。彼らにヴァイナモを侮辱する意思はない。否定することはイコールで、ヴァイナモを侮辱することに繋がると、彼らは察しているのだ。
「……だが、何故彼は第四皇子に忠義を捧げるのだ?子供だし、ただの学者じゃないのか?」
騎士はずっと引っかかっている疑問を零した。確かに見た目は天使のようで庇護欲がそそられるが、ただそれだけだ。それだけのために皇帝にならない歳下の皇子にあれ程までの真っ直ぐな忠義を、果たして出来るのだろうか。
「……まあ俺は騎士じゃねえから断言出来ないが、忠義は損得で決めるモンじゃねえ。理由なんて求める方が野暮だぞ?」
「……しかし」
納得いかないと返事する騎士。他の王国騎士も消化不良のようで、眉を顰めたり腕を組んだりしている。カレルヴォは『ここはちょっとコイツらの感覚に合わせたことを言って納得させる方が良いな』と判断し、少し話を逸らすことにした。
「てか何か勘違いしてるみてえだが、多分エルネスティはお前らより強いぞ?」
訓練場では空気が凍てつく勢いであった。
ハーララ帝国第三皇子、カレルヴォ・ラリ・ユッタ・ハーララが、鬼の形相で魔法を誤発した王国騎士の頬をぶん殴ったのだ。
魔法を誤発した騎士は殴られてもなお呆然とした表情でエルネスティがいた席の方を見つめていた。その様子に苛立ちが高まったカレルヴォはもう一度胸倉を掴み、殴ろうとした。
しかし振り上げられた腕は同僚たちによって止められる。カレルヴォは自らの腕にしがみつく同僚たちを振りほどこうとするが、流石日々鍛錬を重ねている軍人たちと言おうか。いくらカレルヴォでも容易に振りほどけなかった。
そうしているうちに王国騎士帝国遠征部隊隊長がやって来て、カレルヴォから王国騎士を引き離した。その王国騎士は尻餅をついて、カレルヴォを見上げる。
「……てめえ。俺の弟に何しやがった」
鋭い目付きで低く低くそう零したカレルヴォに、騎士はやっと現実に戻って来たかのようにハッとなった。そして慌てて弁明を始める。
「……いや!わざとではない!手元が狂っただけだ!」
「はあっ!?そんな誤魔化しが通用すると思ってんのかこの野郎!てめえ、今日一日中ずっとエルネスティに憎悪の視線を送ってただろ!」
「それは!確かにそうだが!」
「そら見てみろ自白しやがった!」
「違う!本当に手元が狂っただけなんだ!第四皇子を害するつもりはなかった!そうすれば俺の騎士としての将来が途絶えることも、騎士の名折れであることもわかっていた!」
2人の言い合いは白熱していく。弟と傷つけられて怒り狂うカレルヴォに、必死に無実だと弁解する騎士。その場の空気に呑まれて、誰も止めることが出来ないでいた。
「ああんっ!?騎士騎士ってうるせえな!てめえは騎士じゃなかったらエルネスティを攻撃してたのかよ!?攻撃するのを躊躇ったのは、てめえの保身のためかよ!?魔法で傷つけられる相手のことは考えねえのかよ!?」
「もちろん考えていたさ!お願いだから死んでくれるなと心から願ったさ!」
「はあっ!?死ななかったら重傷でも良かったのかよ!?最低だな!敵意のない人間に殺意を向けて攻撃するなんて!それでよく騎士を名乗れるな!?」
冷や汗をかいて必死だった騎士も、そう言われるのは自分のプライドが許せず、険しい表情で怒鳴り始めた。
「なっ!?軍人のクセに騎士を語るな!俺は誇り高き王国騎士だ!」
「はんっ!てめえらの誇りは子供の砂遊びのお山程度なのか!?笑わせんな!」
「俺たちを侮辱するのか!?」
「散々ヴァイナモを侮辱しておいて何を言う!」
カレルヴォのその言葉に騎士は怪訝そうにした。彼はヴァイナモと言う人物を知らないからだ。
「ヴァイナモとは誰だ?」
「エルネスティ……第四皇子の専属護衛騎士だ!さっきいただろ!」
「おお!彼はヴァイナモと言うのか!素晴らしい防御魔法だった!流石大陸最恐魔法剣士の一番弟子!是非ともご教授願いたい!」
騎士は険しい表情を一転し、尊敬の眼差しを先程ヴァイナモがいた場所へと向ける。怒りを忘れて強さに憧れるの点が、彼が脳筋野郎とよく言われる所以である。
突然の変化にカレルヴォは勢いを削がれたように顔を歪め、その後不可解そうに首を傾げた。
「何を言ってんだ?ヴァイナモは魔法を使えないから意味無いと思うぞ?」
「はっ!?何を戯けたことを!先程防御魔法を展開してたではないか!」
「アレは魔法陣だ」
「「「魔法陣!?!?」」」
カレルヴォの言葉に脳筋王国騎士だけではなく、他の騎士も声を揃えて驚いた。アムレアン王国では実力主義が拗れて、ハーララ帝国以上に魔法陣学に対する偏見が酷い。長年、弱さの象徴として忌み嫌われているのだ。
「……そんな、出鱈目だ!」
「ああ!?んじゃあ後で証拠並べてやるよ。さっき使った魔法陣と、ヴァイナモの適正属性の鑑定結果を」
「……だが!彼の殺気には意図して魔力が込められていた!魔法が使えないのであれば、それは不可能だろ!?」
「へえ。そのことには気づいたんだな。だが残念。それが可能だ。魔法を使わず、魔力だけを自在に操ることがな。ヴァイナモは血反吐を吐く思いで訓練を重ね、それを習得した。何ならてめえの尊敬する大陸最恐の魔法剣士に証言してもらうか?」
「えっ!?会わせてくれるのか!?」
「……絶対会わせねえ」
煽るつもりで発した言葉に目を輝かされて、カレルヴォは不服そうにそう零した。騎士はガックシと肩を落とす。だが直ぐにハッとなってカレルヴォに懇願した。
「……だが、彼は何故そこまでの実力者なのに、第四皇子の護衛などをしているのだ?様子から見て、彼が望んで第四皇子の騎士をやっているようだが……」
「……まあ、それに気づいたんなら上出来か。逆だ。ヴァイナモはエルネスティの護衛騎士であり続けるためにあれ程強くなったんだ」
「……はっ?護衛のために、強く?」
騎士は素っ頓狂な声を出す。彼にとって、強くなるのは自分のためだった。強き者が偉い。そう言った実力主義の国で生まれ育ったのだ。無理もない。
「ああ。ヴァイナモはエルネスティをずっと側で護りたい、護れる資格が欲しいと貪欲に努力を積み重ねた結果、あれほどまでに強くなった。ヴァイナモはエルネスティの存在がなければ、今頃若い割にはそこそこ強い奴、で止まっていただろうな」
「……そんなことが帝国ではあるのか……?」
「まっ、我が国でもてめえらと同じく、金とか地位とか名誉のために騎士をやってる奴はいる。だが我が国の騎士においては確固たる忠義が重んじられており、それを誇りとして騎士を名乗っている。忠義とは従順であることではなく、未来永劫護りたい、仕えたいと思う気持ちだ。つまりヴァイナモはただ只管に我が国の近衛騎士なだけだって話だ」
「……と言うのとは俺は、俺たちは……」
「ああ。お門違いなことで勝手に同情して、自分たちの価値観を押し付けて無自覚に侮辱してただけだな」
騎士たちは言葉を失った。大きな功績より永遠の忠義。そんな考えを持ち合わせていなかったため、直ぐに納得は出来なかった。
だがカレルヴォの言葉を否定することも出来なかった。ヴァイナモがエルネスティを見つめるあの目を、彼らは見てしまったから。彼らにヴァイナモを侮辱する意思はない。否定することはイコールで、ヴァイナモを侮辱することに繋がると、彼らは察しているのだ。
「……だが、何故彼は第四皇子に忠義を捧げるのだ?子供だし、ただの学者じゃないのか?」
騎士はずっと引っかかっている疑問を零した。確かに見た目は天使のようで庇護欲がそそられるが、ただそれだけだ。それだけのために皇帝にならない歳下の皇子にあれ程までの真っ直ぐな忠義を、果たして出来るのだろうか。
「……まあ俺は騎士じゃねえから断言出来ないが、忠義は損得で決めるモンじゃねえ。理由なんて求める方が野暮だぞ?」
「……しかし」
納得いかないと返事する騎士。他の王国騎士も消化不良のようで、眉を顰めたり腕を組んだりしている。カレルヴォは『ここはちょっとコイツらの感覚に合わせたことを言って納得させる方が良いな』と判断し、少し話を逸らすことにした。
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