前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

脳内大パニック状態

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騎士から思わぬ置き土産爆弾発言を受け、俺は大混乱していた。

「えっ?ヴァイナモが私に好意ですか?有り得なくありません?だって騎士ですよ?忠義の塊じゃないですかやだー!」

俺はベッドにダイブして大声で悶絶した。防音魔法をかけてるから外には声が漏れてないはず。漏れてたら恥ずかしい。自意識過剰を公言してるもんだから!

ヴァイナモが俺のことを好き?何で?俺は13歳のお子ちゃまで、ヴァイナモは19歳の立派な大人。俺なんかに魅力感じる訳ないはずだけど。

見目か?天使なこの見目がお好みなのか?何だろう中年オッサンだと変な性癖でドン引きするけど、ヴァイナモならそれでも構わないかもしれない。それより俺に好意を持ってくれてる方が嬉しい……って何考えてんだ俺!?

いやでも俺は見目は良いけど中身こんなん変人だよ?めちゃくちゃ残念だよ?普段いっぱい迷惑かけてるよ?良いの?見目だけ良ければ全てよろしいなの?何だかそれは……複雑だな。

俺のこの性格は恋愛においては明らかなマイナスだし。それは自覚してる。だから若干結婚諦めモード入ってるんだけど。それでも、こんな俺でも受け入れてくれるなら……ってなんでそんな話になった!?

いやいや落ち着け。落ち着け俺。さっき騎士は『理由は解明されてない』と言ってたじゃないか。つまりヴァイナモが俺に好意を持っていると確定した訳ではない。騎士の神聖なる忠義でもそうなるかもしれない。もしかしたらヴァイナモの魔法耐性の訓練の賜物かもしれない。

てかそもそも『好意』は愛情じゃなくて、その人のためになりたいと思ったり、親しみを感じたり好ましく思う気持ちじゃないか!愛だとか恋だとか、そう言ったのは婉曲表現でしかないんだ!そうだ!本来の言葉の意味を思い出せ!勘違いするな!

「結論!ヴァイナモは俺のことが好きな訳ではない!自意識過剰は万死万死!」

俺はぱふんと枕を叩いてそう高々と宣言した。その声は俺しかいない部屋に反響して、寂しげに消えていく。

……なんか、自分で言っときながら虚しいな。何が悲しくて向けられてもいない恋情に頭を悩ませないといけないんだ。

有り得ないってわかっているのに。何故か、ヴァイナモの真っ直ぐな忠義の中に、俺への愛情が含まれていることを期待してしまう。俺はその気持ちに応えられるかわからないのに。

てかそもそも俺はヴァイナモのことをどう思ってんだ?いや俺の第一の理解者で、大切な人には変わらないんだけど。もしヴァイナモを恋愛対象として見ろと言われた時、俺はどう思うんだろう。

ヴァイナモはイケメンでかっこいいし、凄く強い。いつも俺を護ってくれるし、細かな気遣いもしてくれる。ぐう有能。まあそれは騎士としての仕事なんだろうけど。それを俺は好ましく思っているのは事実。問題はその気持ちに恋や愛が含まれているかどうか。

……全くわからん!前世で初恋したけど、それは全て手遅れになってから気づいた気持ちだし!てかそもそもアレが恋だったかも定かではないし!

それに友達と恋バナすることもなかった!何が悲しくて男同士でキャッキャウフフと恋バナしなきゃいけねえんだよ!興味なかったし!

つまり!俺の中にある恋愛知識は前世で読んだラノベとか漫画とかアニメとかしかない!それも友達に勧められて見た程度で、ほとんど内容を覚えてない!ただただ友達が推しを語ってた記憶しかない!詰んだ!そもそも2次元と現実じゃ違いすぎるんだよ参考にならねえ!

ああもう!!俺はなんでこんなに悩まなきゃいけないんだ!?全ての元凶はあの騎士のせいだ!名前知らないけど!次会った時覚えてろよ!


* * *


散々悩んだ挙句『俺とヴァイナモは主従関係だから!恋愛感情はない!』と言う結論に落ち着いた。よくよく考えたらやっぱりそうなんだよ。ヴァイナモが俺を好きになる要素がないんだよ。自惚れも大概にしろって話だ全く。

俺を大混乱に陥れた騎士は後で絶対シメる。顔は覚えてんだからな!変なこと唆すんじゃねえ!

そして結局宿側から何かされることもなく就寝時間になった。ちょっと拍子抜けだけど、面倒事はない方が良いに決まってる。俺は扉や窓に施錠魔法だけかけた状態でベッドに潜り込んだ。

今日はぐるぐると悩んで疲れたからか、直ぐに眠気がやって来た。俺はそれに身を委ねるように眠りについていく。

……だが完全な眠りにつく前に、俺は大きな物音で目が覚めた。バシャンと水が床にぶちまけられる音だ。俺は寝惚けた頭を何とか動かして、目を擦りながらゆっくりと起き上がった。

すると扉をドンッと強く叩かれた。俺は肩をビクッと揺らして思わず枕を抱きしめる。

「~~!~~~!!」

外から誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。それと同時に扉はドンドンと激しく叩かれる。俺は寝起きの働かない頭で必死にどうするべきか考えた。

扉の外には護衛騎士がいるはずだが、制止する気配を感じられないので多分動けない状況にいる。もしくは裏切り者か。多分前者であろう。父上が俺の護衛騎士の素性を確認していないはずがないからね。

舌が回っていないため何を言っているかは聞き取れないが、声色的に相手は成人男性だろう。俺が武力で勝てる相手じゃない。まあ俺だったら女性でも勝てないだろうけど。

俺は索敵魔法を使って周りに敵がいないか確認した。……おそらく扉の向こうにいるのは扉を叩いている男と、側で倒れている騎士2人だけだ。敵は一人。なら俺の魔法でなんとかなる。魔法で無理矢理こじ開けてこないから、多分相手は攻撃系の魔法は使えない。なら勝てる。

俺はブランケットを羽織って枕を抱きしめたまま、ゆっくりベッドを降りた。そして忍び足で恐る恐る扉に近づく。

……よし。『せーの』で施錠魔法を解除しよう。いや誰に掛け声をかけてんのって話だけど。なんとなく。

俺は扉から少し離れた所に立って身構える。よし。せーのっ!

ドッターンッ。

俺が施錠魔法を解除した瞬間、大きな音をたてて勢いよく扉がぶち破られ、男が吹っ飛んで来た。

そう、吹っ飛んで来たのだ。甲冑姿の男が俺の前に倒れ込み、目を回して気絶している。俺はポカンと口を開けて固まった。

「エルネスティ様!ご無事ですか!?」

すると直ぐにヴァイナモが焦った顔で部屋に入って来た。俺は瞬時にこの甲冑男はヴァイナモに吹っ飛ばされたのだと理解し、少し同情した。ヴァイナモ……えげつない……。

ヴァイナモは早足で俺の側にやって来て、俺の目の前で膝をつき俺と目線を合わせた。

「エルネスティ様!何かお怪我でも!?」

「えっ?あっ、はい!何ともありません!」

「……そうですか。良かった」

ヴァイナモは俺に怪我がないことを確認すると、安心したようにへにゃりと笑った。うぐっ。至近距離で銃撃された!やめて!俺のライフはもうゼロだよ!

ヴァイナモの笑みにドギマギしていると、甲冑男が目を覚ましたようで勢いよく起き上がった。ヴァイナモはすかさず俺を庇うように甲冑男の前に立つ。俺は捕縛魔法を使って甲冑男を縛り上げた。

「貴様!何者だ!?」

ヴァイナモが凛々しく甲冑男に問いかける。甲冑男は何とか抜け出そうと藻掻くが、それは俺が許さない。甲冑男は抵抗しながらも、荒々しく声を上げた。

「くっ!俺たちの天使様を……大天使様を解放しやがれ!」

その言葉の理解に追いつけず沈黙してしまった俺とヴァイナモは何も悪くないと思う。




* * * * * * * * *




○お知らせ○
明日の朝、短めの閑話を投稿予定です。是非ご覧ください。
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