前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙

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動き出す時

やめてください死んでしまいます

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「魔法、ですか?」

ヴァイナモは俺の唐突な言葉にキョトンとした。俺はゆるりと頷く。まあいきなり何言い出すんだって話だわな。

「ええ、伝達魔法を。私とヴァイナモの魔力を繋げ、私の危機をいち早く知らせる魔法です」

伝達魔法とは、発動主対象者ヴァイナモの魔力を繋げて、俺がSOSを出すとどんな場所にいてもヴァイナモに伝わるようにする魔法だ。

「……なるほど。それで先程あのような命令をお出しになったのですね」

「そうです。これなら先程の命令が根性論にならないでしょう?」

ヴァイナモとオリヴァは納得した。2人も『その代わり』の内容を疑問に思っていたのだろう。ごめんね。あの場でバラす訳にはいかないから、中途半端な命令になって。

ヴァイナモは胸に手を添えて膝をつき、頭を垂れた。

「承知致しました。どうぞご随意に魔法をおかけください」

「ありがとうございます。少し違和感があるかもしれませんが、我慢してください」

俺はヴァイナモに伝達魔法をかけた。普段は繋がるはずのない魔力と繋げるため、魔法展開に時間と集中力が必要だ。俺は全神経をヴァイナモに集中させ、じっくりと魔法をかけていく。

目を瞑ったヴァイナモは一瞬眉を顰めたが、直ぐに心地良さそうに表情を緩めた。……何か撫でた犬が顔を擦り寄せて来たみたい。端的に言って可愛い。いや精悍な顔つきの19歳の青年に向ける言葉じゃないけど。

魔法をかけ終えると俺は「ふう……」と息を吐き、ヴァイナモに近づいた。

「……完了しました。どうですか?不具合などはございませんか?」

「……魔力が繋がった瞬間は少し不快でしたが、今は何だか心地良いですね。まるでエルネスティ様がずっとお側にいらっしゃるような安心感です」

ゆっくり目を開けたヴァイナモは俺を見上げてへにゃりと笑った。いつもは俺が見上げている顔を、今は見下げている。ヴァイナモは少し頬が紅潮しており、何故か目が少し潤んでいた。つまり色気カンスト状態である。

そんな色気ある表情で先程のあの言葉である。さて、これが何を意味するかわかるかな?

そう、顔が良いが凶器になっているのだ。

………やばいやばいやばい。破壊力パない。死ぬ。死んでしまう。俺の心臓が爆死する。目が焼け焦げてしまう。耳が溶けてしまう。

イケメン凶器を間近で直視してしまった俺は両手で顔を覆って項垂れた。ヴァイナモは目を丸くして慌てて俺の側へ寄り、顔を覗き込んできた。でも今は恥ずかしすぎてヴァイナモを見れない。

「えっ!?どうしたんですかエルネスティ様!?」

「無理……死んでしまう……」

「えっ!?死なないでください!」

俺はヴァイナモに背を向けて蹲った。ヴァイナモが俺の周りをウロウロして焦っているのが気配でわかる。ごめん心配かけて。でも今は本当に再起不可能なのわかってくれ!

「エルネスティ様!?大丈夫ですか!?」

「大丈夫……大丈夫ですから今はそっとしておいてください……」

俺はそう譫のように呟いた。ヴァイナモはキョロキョロしながらあわあわと慌てている気配がする。てか待ってヴァイナモはアレを無自覚でやったのか!?あの仕草も口説き文句語弊ありも天然記念物なの!?末恐ろしい!ヴァイナモ将来女泣かせになるんじゃない!?

「あの……その……オリヴァ先輩!俺は一体どうすれば……!?」

「……流れ弾食らってこれなんだ。殿下はそれ以上のダメージだろう。今はそっとしておけ。お前が何かしても逆効果だ」

ヴァイナモはオリヴァに助けを求めたが、オリヴァはバッサリ切り捨てた。その後ろで他の騎士が「「うんうん」」と声を揃えて頷いているのが聞こえる。

「逆効果……?えっ!?俺本気で何しました!?」

「自覚ねえのかタラシ野郎」

「おっそろしい奴だなスケコマシ」

「イケメンは爆ぜろ!」

「リア充は絶滅しろ!」

「何ですかそのシンプルな罵倒の嵐は!俺はタラシでもスケコマシでもイケメンでもリア充でもありません!」

「いやてめえがイケメンじゃなかったらこの世にイケメンは存在しないことになんぞ」

オリヴァを皮切りに野次を飛ばす騎士達に、ヴァイナモが珍しく半ギレした。だがそれすらもオリヴァは正論で切り伏せる。何だよヴァイナモ。いつの間にそんな騎士仲間たちと仲良くなってんだよ!いや騎士団内で孤立していたことはめっちゃ心配してたから、仲良くなって俺は嬉しいけど!

……なんか知らないことが多くて寂しいよ。

「殿下。とりあえず今は解散しようぜ。俺がヴァイナモを引っ張り出すから、明日までには復活しといてくれ」

「……わかりました……お願いします……」

「えっ待ってください!話についていけません!」

「これでわからんのなら諦めろ鈍感野郎」

オリヴァはヴァイナモの頭をべしっと叩き、首根っこを掴んでズルズルと引きずって部屋を出て行き、それに続いて騎士たちも「失礼しました」と一礼して去って行った。


* * *


オリヴァがヴァイナモを連れ出した後。部屋の中には俺と、これから俺の部屋の周りを警備する騎士たちが残っていた。

その中の一人である中性的な顔立ちの騎士が俺に声をかけて来た。

「……殿下。大丈夫でしょうか?ヴァイナモの無自覚イケメン攻撃を直に受けられて」

「……重症です。瀕死です……」

「あははっ!そうでしょうね」

騎士はクスクスと笑った。なんかこうやって騎士と気軽に喋る機会なかったから、新鮮だな。まあ関わる機会がなかったから仕方ないけど。

そんなことを考えていると、その騎士は「ああ、そう言えば」と小さく呟いた。

「殿下。ひとつ小耳に挟んだ情報をお伝えします」

「……?何ですか?」

俺は顔の熱が冷めないまま、ゆっくりと頭を上げる。話しかけてきた騎士は「失礼します」と俺の前に跪き、ヒソヒソと声を潜めて言った。

「私は学園で魔法学を本格的に学んだのですが、そこで『他人から魔力を繋がれることを人間は本能的に嫌悪する』と教わりました」

「……そうなのですか?」

俺はいきなり何の話をし出すのかと訝しみながらも、初耳情報に耳を傾けた。確かに魔力は体力と直結する、言わば生命活動の源である。それを他人と共有するのは、人間の防衛本能的に拒みたくなるのも無理はない。

あれ?でもさっきヴァイナモはなんともなかったよ?

「はい。ですが例外もあります。今回のヴァイナモのように、不快感どころか安心感を覚える場合があるのです。その理由はまだ解明されてませんが、様々な説があります。現在一般的に言われているのは、古くからの言い伝えの説ですね」

「古い言い伝え、ですか?」

「はい。……相手に好意を抱いていれば、魔力を繋がれても拒まない、と言うものです」

「……はい?」

「相手を好いていれば、本能的に相手の全てを受け入れてしまうのですよ」

騎士は悪戯っ子のようににっこり笑って、徐に立ち上がった。そして胸に手を添えて恭しく頭を下げる。

「では我々は部屋の外で護衛致しますので、これで失礼します」

そう言うと何事もなかったかのように他の騎士と共に部屋から出て行った。部屋に一人取り残された俺はポカンと口を開けて固まっていたが、先程の騎士の言葉を徐々に噛み砕いていくにつれ、再びじわじわと頬に熱が集まるのを感じた。

「……ふえっ……?こ、好意……?ヴァイナモが……私に、恋……?」
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